【実施報告】パネルディスカッション~「日本」社会のこれからと学校の役割~

2021年10月8日

 7月17日(土)、神奈川県教育委員会共催、ジャパンSDGsアクション推進協議会後援のもとJICA横浜主催でパネルディスカッション~「日本」社会のこれからと学校の役割~を開催し、約90名の方々(教員、教育委員会、大学生、NPO団体等)にご参加いただきました。
 日本の学校を経験した外国につながりのある3名と学校関係者3名を迎え、滝坂信一さん(JICA横浜・技術顧問)のファシリテーションにより、学校が抱える課題についてお話いただき、これからの日本社会を創っていく子どもたちにとって、学校はどんな場所であることが求められるのかを考える機会となりました。

第1部 外国につながりのある3名の体験談

 第1部は神奈川県で学校生活を送り、現在は社会人としてお仕事をされているナイム・サード・ビンさん、太田亜理佐さん、安富祖樹里さんの3名から「今、社会人として仕事をする中で見える日本社会や学校、子どものころの学校での体験」をテーマにお話いただきました。
 中学生になってから来日したナイムさんからは、当時日本の学校生活は自分にとって全く異なる環境であり初めてのことが多く、同じ国の人や同じ母語を話す人がいない「一人」の状況は「恐怖との闘いだった」との体験が語られました。
 4歳の時に来日した太田さんは、母国の価値観をもとに自分の思うように行動していたら、「自分勝手だ」と思われたり、あの子だけ違うことをしていると言われたりして、「私だけ違うんだ」という辛い思いをした。そこからは周りを見て自分の行動を合わせるようになったとの感想が共有されました。
 日本で生まれ育った安富祖さんからは、「傷つく言葉は案外無意識に言われる言葉」であり、「なんでブラジル人なのにポルトガル語話せないの?」といった単なる疑問として投げかけられた言葉に傷つくことがあったことを語っていただきました。
 それぞれ異なる体験をしてきた中で感じた生の声をお聴きすることができ、私たちの普段何気なくとっている行動が、相手によっては不安や恐怖心を与えているのではないかと振り返る機会となりました。

【画像】外国につながりのある3名の登壇者(左から安富祖さん、太田さん、ナイムさん)

第2部 教員3名によるクロストーク

 第2部では、学校現場で働く大森智さん(秦野市立南が丘小学校・校長)、髙山真一さん(愛川町立中津小学校・校長)、齋藤智慶さん(藤沢市立湘南台小学校・国際教室担任)からそれぞれの経験を踏まえて日本の学校・社会の課題や今後の学校の在り方についてお話いただきました。
 ミャンマーの日本人学校での勤務経験がある大森さんからは、「なぜ日本人は欧米圏の方に“Hello”と挨拶するのに、アジアや中南米の方には日本語で挨拶をするように求めるのか?」と以前留学生に聞かれたエピソードを紹介し、私たちの中に憧れやコンプレックスが根付いていて、社会や学校の中で一般化しているのではないかというお話がありました。私たちが普段感じたり考えたりしていることには、「偏見」があるのかもしれないと気付かされました。
 髙山さんからは、「外国につながりのある子どもが特別支援学級に在籍する割合が高い傾向にある。一人ひとりの困りが発達によるものなのか、言葉によるものなのか、生活経験のなさによるものなのか、判断することは容易ではなく、それぞれの子どもにとって適切な学習環境を見極めることが難しい」と現場で奮闘している声をお聴きしました。
 齋藤さんからは、外国につながりのある子どもたちは「外国と日本をつなぐ架け橋になれるという日本人の私たちがもっていない素敵な宝物をもっている」ということを指導者が強調して発信していくことや保護者が堂々と日本社会で生活できるように支援していくことが必要ではないかと提案していただきました。

【画像】教員によるクロストーク(左から齋藤さん、滝坂さん)

第3部 共に考えるこれからの「学校」

 第3部では、それぞれの登壇者が意見交換を行い、外国につながりのある方々からはこれまでの学校生活で感じていた疑問や学校として取組めることなどについての質問がありました。
 各登壇者からは、子どもが自分に制限を設けることで大切な宝を消してしまうことはもったいないことであり、それぞれの個性をほめて、自信をもてるようにしていくこと、「違い」に注目するのも大事だけれど、「同じ」ことにも注目し、相手を敬う気持ちをもつことが大切ではないか、など様々な意見が飛び交い、終始学びの絶えない時間となりました。

終わりに

 総評では、神奈川県教育員会教育委員の笠原陽子さんから「自立は健全なる依存である」という言葉がありました。今まで経験したことのない困難な時代を子どもたちが生きていくためには自立が求められているが、「健全なる依存」とは相互性であり、様々な人たちが共に助け、助けられる社会を創っていくことが大切であると語っていただきました。
 本パネルディスカッションを通して、次の世代の子どもたちのために、私たちは何を大事に考えなければならないのか、すべての子どもたちが幸せに暮らしていける社会、学校のために何が求められるのか、参加者一人ひとりが自分ごととして考えるきっかけとなりました。
 参加者からのアンケートでは、「当事者の意見が聞けて勉強になった」、「学校社会を変えていく必要を感じた」などの感想をいただきました。

 第3回パネルディスカッションも開催予定です。日程は決まり次第JICA横浜のホームページやFacebookにて掲載致します。みなさまのご参加をお待ちしております。

You Tubeで公開しておりますので、ぜひご覧ください!