【教師国内研修】実践授業レポート from横浜市立長津田小学校(渡辺香教諭)

2022年3月6日

JICA横浜では教員の方々を対象に教師国内研修※1を実施しています。今年度は7名の方々にご参加頂きました。実践授業とは、このJICA教師国内研修に参加した先生方に、研修で得た経験を活用した授業・ワークショップを作っていただき、学校現場で実践いただくものです。
渡辺先生のレポートです。

【授業までの取り組み】

 まず、私たち2021年度教師国内研修のメンバーは、以下のように言葉の定義づけを行いました。
「文化」とは、国や地域で区別されるものではなく、人間一人一人の歴史や歩み。
「多文化共生社会」とは、国や地域を超え、一人一人の考えや思い、個性が尊重され、お互いを理解し合おうとする社会。
 授業を行うにあたって、学年の先生方に私たちの言葉の定義を伝え、私たちのワークショップのねらいである『違いを自分事として捉え、相手のことを考えるきっかけをつくる』ために子どもたちの実態や課題について話し合いを行いました。
 ワークショップ「たぶん、か」※を行うにあたり、子どもたちがワークショップや役割演技に慣れるということも大切だと考え、研修で学んだ①バーンガ※2と②YOKOSO JAPAN※3を英語の時間を使って実践しました。
 バーンガでは、自分が当たり前だと思っていることも、他の人にも当てはまるとは限らない。自分の当たり前を相手に押しつかないためにも、相手の様子をよく観察することが大切などの振り返りが多く見られました。
 YOKOSO JAPANでは、食を通じて自分の知らなかった文化を知ることができた。例えば小麦粉を食べられないのであれば、こんなことに困ることが分かったなど役割演技を行ったからこそ相手の立場にあって考える経験が積めたことが分かりました。
 これら2つのワークショップでの子どもたちの様子から、本時のワークショップのルールやカードの内容、問いかけの言葉などを再考し、本時に臨みました。

【本時の実践】

【画像】 11月29日に6年生の道徳の授業でワークショップ「たぶん、か」を行いました。
 本時のねらいは、「自分の考えや意見を相手に伝えるとともに、謙虚な心をもち、広い心で自分と異なる意見や立場を尊重すること」です。
 導入では、一枚のピクトグラムをテレビ画面に表示して、「どんな人だと思いますか」と問いかけをしました。ここでは、外見だけでは人の内面は分からないということ確認しました。
 展開前段では、簡単にワークショップのルールを説明し、1回目のワークショップを行いました。子どもたちは、英語の事前学習でワークショップの経験を積んでいたため、スムーズにルールを理解し、内面カードの情報をもとに役割演技をしながら「休日にグループ全員で遊びに行きたい場所を1つ」決めるための話し合いを進めることができていました。
 話し合い後に、「相手の持っている内面カードは、どんな人だと思いますか」と問うと、「こんな発言をしていたから〇〇の人だと思った」「相手の内面を正確に理解するのは難しい」などの声が聞かれました。もう一度やってみたいという声もあり、内面カードの種類を変えて2回目のワークショップを行いました。相手が自分の意見を言いやすい雰囲気をつくる、自分の意見もちゃんと言葉にして伝えるなど、子どもたちは1回目の反省を生かし「本時のめあて:自分と異なる意見や立場の人とお互いに楽しく活動するために」どうしたらよいか考えながら話し合いを進めることができていたようです。

【児童の振り返り】

 展開後段では、ロイロノートのアンケート機能を使って振り返りを行いました。まず、ワークショップを用いたことで、楽しみながら学習できたという児童がほとんどでした。自分が役割演技をすることは比較的簡単だったという振り返りが多く見られました。
 その一方で、相手がしている役割演技(内面カード)を正確に当てたり、理解したりするのは、ほとんどの子どもたちにとって難しかったようです。だからこそ、子どもたちは、自分と異なる意見や立場の人とも楽しく活動するために、外見だけでは分からない相手の内面を知るためにどうすべきか、どんなことが必要か考えられたようです。
 振り返りには「自分が相手の立場になって考える」「自分の苦手なことや意見もしっかり伝える」「自分の意見ばかりでなく、相手の意見に耳を傾ける」などの言葉が多く見られました。また、本時で気づいたことや学んだことを1週間後に迫っていた修学旅行の班活動や日々の友達との関わりに活かしたいという意識をもち、実践への意欲につながった児童もいたようです。

【その後】

 このワークショップを人権週間かつ、修学旅行の1週間前の時期に設定したことで、子どもたちの当事者意識が高まっている状態で授業を行うことができました。修学旅行という大きな行事に向け、今まであまり関わりのなかったクラスの友達との関わりも増える場面で、お互いに楽しく過ごすために相手のために自分にもできることがあるかもしれない。また、もしかしたら相手は何かに困っているのかもしれないという視点が生まれたことで、広い心で相手を受け入れることができるようになったのではないかと受け取れる場面もありました。そして、相手に遠慮してしまったり、自分の意見がはっきり言えなかった児童からも意見が出るようになったり、子ども同士で注意の声を掛け合ったりするなど、個人だけではなく、集団としての成長も見られ始めています。子どもたちには、国や地域を超え、一人一人の考えや思い、個性が尊重され、お互いを理解し合おうとする社会を構成する社会の一員として成長していってもらえたらと願っています。

※1 先生方に作成頂いた教材「たぶん、か」は後日HPに掲載予定です。
※2 カードを使った異文化コミュニケーション体感ゲームです
※3 2020年度JICA横浜教師国内研修参加者が作成した教材