“失敗”から学ぶ

任期が短い中でも成果を出そうと焦り、人との交流を疎かにしてしまった

文=塩田真也さん(ケニア・マーケティング・2017年度3次隊)

活動先の乳業組合の生産拠点。ここに生乳を集め、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を生産していた

 一村一品運動終了後のフォローアップを行うため、マーケティングの職種でケニアに派遣された。民間連携ボランティア制度(※)による派遣で、私の場合は活動期間は1年間。その中で活動を完結させるべく、効率よく活動を進めようとした。
 最初に、かつて一村一品運動に参加していたグループの情報収集を実施。どのグループともほぼ連絡がつかないなか、牛乳やヨーグルトを生産する乳業組合と接触でき、現状を尋ねた。すると、製品の質は良いものの、梱包材の耐久に問題があって地元でしか販売できず、グループの収入拡大につながらないという課題があると知り、支援を行うことにした。
 このグループは、毎日各農家から生乳を生産拠点に集め、乳製品を生産し、地元の小売店に供給している。生産と売上は生産拠点専任の担当者が管理。また、売上から得られた利益はグループの中心的農家のAさんが管理し、各農家の生産量に応じて月1回、支払いを行っていた。
 活動初期は、担当者やAさんへの聞き込みをし、課題となっていた梱包材の品質改善方法を伝えた。活動期間の短い私は、個人的な付き合いによる信頼関係の構築には時間を割かず、実績を出すことで信頼を得るというビジネスライクな関係で活動に取り組むことにした。
 活動中期は、品質改善によって流通可能になった新たなエリアへの営業活動を支援。少しずつ販路を広げ、任期終了3カ月前に生産能力拡大のために新規農家の取り込み、また生産設備拡充のために経営指導を開始。投資用の資金集積も始めることができた。運転資金・投資資金の管理はAさんに任せていた。
 しかし、Aさんがグループの資金を持って国外へ逃走。グループは運転資金が不足し、代金未払いによる農家の離散と、生産力減少による供給不足に陥り、販路を喪失。グループの存続は極めて困難になり、当該グループでの活動を断念せざるを得なくなってしまった。
 素朴な生活をしていた人に、突然大金の管理を任せた場合、彼らは混乱せず、誘惑に流されることもなくお金の管理ができるのか? 誰かにこう問われれば「そんなにうまくはいかない」と答えたはずだ。焦って活動していた当時の自分は、そんな発想を持つことも、それに気づくこともできなかった。

※現・JICA海外協力隊(民間連携)制度

隊員自身の振り返り

任期が1年のみで、その中で活動を完結させるべく、性急に事を進めていたことが、今回の事態を招いた要因だと思っています。ほかにもあるかもしれませんがひとつ解決策を挙げるなら、グループの人たちと理解し合える関係をつくれていたら、結果は違ったかもしれません。問題の人物のAさんとも個人的にいろいろなことを話すような関係を構築する時間を惜しみ、自分が役に立つことを成果で示すという利害関係によった関係を構築していました。時間がかかってもグループのひとりひとりと信頼関係を構築することを優先すべきでした。グループの人たちを理解し、また彼らにも私の性格や「現地のために役立ちたい」という思いなどを理解してもらいながら、活動に取り組めばよかったと思っています。

他隊員の分析

成果も大事だけれど、交流は活動の基礎

 国を問わず、金銭トラブルは避けることが難しいものです。ただし、お金への価値観というのは、その国の経済情勢や物価だけでなく、個人の収入、社会的地位、家族構成などによっても大きく異なります。現地の人々との交流を通して、派遣国における一般的な金銭的価値観や個々人への理解を深めていれば、適切な資金管理ができたのかもしれません。私の場合、現地の人々との日常の何気ない交流から配属先以外での人脈が形成され、後の活動につながっていきました。信頼関係の構築が成果への近道になったと考えています。
文=協力隊経験者
●アジア・マーケティング・2014年度派遣
●取り組んだ活動
省庁の下部組織において、配属先が実施する職業訓練の改善支援、新聞エコバッグの普及及び商品化支援、災害発生後に学校への救急セット配布支援などを実施した。

信頼関係づくりと成果のバランス

 実績を出すことで信頼を得ることも大切だと感じています。活動期間内に、信頼関係づくりと実績の追求のバランスが取れた活動ができたらよかったのでしょうが、実際は難しいことだと思います。お金の管理を誰がするのかなどグループ内で話し合う機会を持ち、大切なことを「見える化」し、グループで交流しながら活動を進めるとまた違った結果であったかもしれません。私は今回の事例とは逆で信頼関係づくりに時間を割き、成果をもっと追及して活動できていればと悔いがあります。配属先は次の隊員へと継続要請を出し、後任に託しました。å
文=協力隊経験者
●アジア・コミュニティ開発・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
活動1年目は郡のコミュニティ開発部に配属となり、一村一品の販路開拓を目指す。2年目に県のコミュニティ開発局に配属先が変更になり県全体の一村一品や観光のプロモーションに従事した。

塩田さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、香川県出身。2014年、国際基督教大学教養学部を卒業後、パナソニック株式会社に入社。18年1月、民間連携ボランティア制度 (現JICA海外協力隊〈民間連携〉制度)により、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。19年1月、帰国。現在は、パナソニック株式会社の海外事業所にて、アフリカ大陸へのマーケティング、商品企画、営業企画業務を担当している。

【活動概要】
一村一品運動終了後の生産者グループの情報収集とフォローアップを行う。
●赴任エリアのアクティブな生産者グループのマッピングおよびプロファイリング
●生乳・ヨーグルト生産への助言と販路開拓による売上拡大支援 など

知られざるストーリー