“失敗”から学ぶ

「毎朝の体操」の定着を試みたものの、運営を引き継いでもらえなかった

文=吉岡三貴さん(ソロモン・看護師・2017年度3次隊)

ソロモン保健・サービス省で毎朝行うようになった「ラジオ体操」の様子

 生活習慣病予防の対策強化を支援するという要請でソロモン保健・サービス省(以下、保健省)の生活習慣病対策課に着任してまもなく、同僚から「日本のラジオ体操はすばらしいので、ここで広めてほしい」との要望を受けました。かつて同課に配属された協力隊員がイベントなどでラジオ体操を紹介していたことから、ラジオ体操は同僚たちに知られていました。
 私はその要望に応えようと、看護師が参加する配属先主催の研修会や、地域住民が参加する健康イベントなどでラジオ体操を紹介しました。そして、赴任して半年あまり経ったころには、保健省の中庭で毎朝職員がラジオ体操をする時間を設けてもらえることになりました。
 保健省の毎朝のラジオ体操がスタートした後、同僚から「ソロモンの曲を使い、国内の各地方の伝統的なダンスを取り入れた体操をつくろう」と提案されました。配属先には十分な予算がなかったため、かつて配属先が啓発のために制作した曲を使用できないか検討しました。しかし、体操を付けられるような曲はありませんでした。
 そうしたなか、保健省の他課に健康増進事業を支援する要請で体育隊員が配属され、新たな体操の制作はその課の担当となり、その隊員が進めるようになりました。その隊員が日本の知り合いの音楽教師に曲の作成を依頼し、それに動きを付けた新たな体操が完成したのは、私が赴任して1年ほど経ったころでした。
 早速、保健省で毎朝行っていたラジオ体操を、新たな体操に変更しました。さらに、これまでは私たち協力隊員が曲を流し、体操の音頭をとってきたのですが、それを私の課の同僚に引き継いでもらおうと働きかけるようにしました。ところが、その時点ですでに「朝の体操は協力隊員の仕事」との認識が配属先に定着しており、試みは頓挫しました。同僚は朝の体操の際、「さあ、がんばろう」といった声がけくらいはするものの、職員たちに開始を告げ、曲を流すといったことは私たちに任せきりのままでした。
 保健省での朝の体操は、私の任期が終わるまで継続されましたが、最後まで主体は協力隊員のままで、保健省の職員にその運営を引き継いでもらうことは叶いませんでした。

隊員自身の振り返り

 新たな体操の制作やその実施にもっと同僚を巻き込んでいたら、彼らにその普及・定着を「自分事」と捉え、私たち協力隊員の取り組みを引き継いでもらえた可能性もあったかと思います。例えば、体操の動きを一緒に考える、あるいは毎朝の体操の実施を「担当制」にして同僚に定期的に関与してもらう、といった方法です。同じ省に複数の協力隊員がいたばかりに(上記W)、同僚たちに「協力隊員事」と受け止められてしまうような行動をとってしまったことが反省材料です。また、体操の普及・定着を引き継いでも給料アップなどの見返りが期待できないなか、そのモチベーションをどう持ってもらうかは、今でも解決方法がわからない課題です。

他隊員の分析

「活動の理由」の検討は配属先と共に

 私も協力隊時代、配属先である小・中・高一貫校の校長からの要望で、体力づくりのための体操を作成することになりました。その際に心がけたのは、体操を導入する理由を校長と一緒にじっくり考える時間を持つことです。それにより、同僚教員たちへの説得力が増したと感じました。校長と議論し、整理した導入の理由を同僚教員たちに伝えたところ、音楽の選択や体操の吟味、「体操係」の設置などが同僚教員たちで進められ、作成した体操が学校全体で継続的に実施されるようになりました。「活動の理由」は配属先と共に考え、共有することが必要なのかもしれません。
文=協力隊経験者
●アジア・体育・2016年度派遣
●取り組んだ活動
小・中・高一貫校で体育授業の支援やドッジボールの普及、体力づくりのための体操の作成・定着などに取り組んだ。

計画段階からの相談を

 着任して1年も経たないうちに配属先で毎朝のラジオ体操が始まったのはとても素晴らしいと思います。また、同僚から「新しい体操をつくりたい」という意見が出たことも、協力隊員の活動への期待があるのだとわかります。私はラジオ体操のようなものを高齢者施設などで普及する活動に取り組んだのですが、常に現地の人に相談するよう心がけました。同僚や高齢者施設の仲良しのおばあちゃんなどと話し合い、曲は現地の人たちに馴染みのある歌にし、振り付けも話し合いのなかで決めました。その経験から、「計画段階からの相談」こそが、現地の人たちに「自分事」と感じてもらうための策なのだろうと思いました。
文=協力隊経験者
●アジア・高齢者介護・2016年度派遣
●取り組んだ活動
老人会や高齢者施設で健康講話や介護予防・健康維持を目的としたアクティビティの実施などに取り組んだ。

吉岡さん基礎情報





【PROFILE】
1982年生まれ、香川県出身。大学卒業後、看護師として病院勤務、保健師としてがん検診センター勤務、化学メーカー勤務などを経て、2018年1月に青年海外協力隊員としてソロモンに赴任(現職参加)。20年1月に帰国し、翌月復職。

【活動概要】
ソロモン保健・サービス省の生活習慣病対策課に配属され、主に以下の活動に従事。
●定期健康診断の実施支援
●生活習慣病予防の啓発事業の支援

知られざるストーリー