この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

自動車整備

  • 分類:鉱工業
  • 派遣中:8人(累計:1,473人)
  • 類似職種:建設機械

※人数は2022年5月末現在。

CASE1

平川修一郎さん
平川修一郎さん
サモア/1981年度4次隊、SV/ネパール/2016年度1次隊・福岡県出身

PROFILE
専門学校卒業後、トラック販売会社を経て、協力隊に参加。帰国後は国内トラックメーカー、欧州製トラック輸入会社、英国製自動車輸入会社などに勤務。定年後にSVに参加。現在、インドネシアの日系自動車メーカー勤務。

配属先:ネパール警察本部車両管理部

要請内容:警察車両管理の充実を図るため、ガソリンエンジン用EFI(電子制御燃料噴射装置)、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)、エアバッグ、コモンレールシステムなどの技術研修や安全運転、エコ運転の研修の実施など。

CASE2

内山弘幸さん
内山弘幸さん
ザンビア/1988年度1次隊、ウガンダ/2021年度1次隊・富山県出身

PROFILE
専門学校卒業後、自動車販売会社勤務。現職参加で協力隊に参加し、復職。ほか富山県自動車整備振興会技術講習所で5年ほど講義を担当。富山県青年海外協力隊を育てる会の事務局長も務めた。定年を2年残して退職して参加。

配属先:ブイクウェ県ンジェルにあるナイル職業訓練校

要請内容:実習をメインにした授業の実施とサポート、指導員に対する技術的アドバイスや指導上のアイデアの共有、工具の正しい使い方や管理、ワークショップの整理整頓の指導。

   開発途上国での「自動車整備」技術の普及は整備不良車を減らし交通安全の向上や環境問題の改善にも貢献する。

   活動は①職業訓練校や技術系の高等専門学校などで講義や実習を通じて整備技術を指導する、②派遣国の省庁、地方自治体などの公共部門の自動車整備工場で整備技術を指導する、の二つに分けられる。要請内容によって、エンジン分解修理、キャブレター修理など、日本では一昔前の技術が必要であったり、逆に電子制御、ハイブリッド車の点検修理技術など、新しい技術分野の知見を必要とする場合もある。

CASE1

警察車両の適正管理のための技術指導とデータベース構築

ネパール警察の車両整備工場で整備の様子を見る平川さん。「ほとんどの車両の整備作業は屋外でしかできず、土ぼこりが舞うなかでの作業には正直、戸惑いました」(平川さん)

ネパール警察の車両整備工場で整備の様子を見る平川さん。「ほとんどの車両の整備作業は屋外でしかできず、土ぼこりが舞うなかでの作業には正直、戸惑いました」(平川さん)

   平川修一郎さんのシニア海外協力隊(以下、SV)での配属先はネパール警察本部の車両管理部で、約300台の車両と約400名のドライバー(警察官)を抱える国内最大規模の組織だ。通常業務では4WD車とピックアップトラックが使用され、ほかに、中・大型トラック、バス、白バイなど車両は多岐にわたり、その多くはインド製車両だ。整備士は通常は整備を行っているが、必要に応じてほかの警察業務も行う警察官兼整備士。整備工場は2カ所あり、技術オフィサーが14人、熟練の整備士約20人、見習いとヘルパー約40人。彼らに整備技術のトレーニングと現場での指導、車両管理データベースの構築などを行った。

   最初のサモアでの協力隊活動後、東南アジアや中東で自動車整備技術の指導にあたった経験のある平川さん。SV赴任時に「勘と経験に頼る途上国の整備」を予想してはいたが、ネパールの現場は思った以上だった。

「整備士は基本的な故障診断と部品の交換はできるものの、電気装置やコンピュータ制御の故障診断は初歩レベルでした。部品交換も正しい作業(設備・工具・手順)をせず、応急修理や危険な間違った対処をするので、修理しているつもりが次の故障の原因をつくっている。正確な作業は時間がかかり嫌われがちで、修理能力の不足と『とりあえず動けばよい』というマインドでいることが大きな問題でした」

4WD車が多いネパールの警察車両。色は白と紺で部署で分かれていて、日本のような普通乗用車や軽自動車のパトカーは使われていない

4WD車が多いネパールの警察車両。色は白と紺で部署で分かれていて、日本のような普通乗用車や軽自動車のパトカーは使われていない

   こうした現場の整備士の技術レベルに加えて、管理する立場の技術オフィサーにも問題があった。大学で機械工学を学び外国で技術研修を受けた人が多いものの、現場作業の経験がなく、整備士に故障診断や作業指導ができなかった。平川さんは現状に合わせて11の研修コースをつくり、約50人を7グループに分けて受講してもらった。

「若い整備士たちは興味を持って熱心に聞いてくれました。研修後、現場でオフィサーに危険なやり方を禁止する指示を出してもらうと、それが守られるようになったので、研修や現場にオフィサーを巻き込むようにしました」

   配属先のもう一つの大きな課題は、車両管理の方法だった。点検・修理の有無や頻度は担当ドライバー任せで、記録もExcelなどで残されている程度。当初の要請はExcelの研修だったが、配属先から車両を効率的に維持・管理するデータベース構築を相談された平川さんは、車両本部の業務内容を分析したうえで管理内容や方法を提案し、JICAに現地業務費を申請してソフトウエア開発に着手した。修理や整備をはじめ、配車、給油や走行距離なども記録し、総合的に管理・運用するデータベースを構築、任期終盤に稼働させることができた。

「配属先の念願の取り組みでした。ネパールの全警察車両が、適正に維持・管理され、コストも抑えつつ安全に運行できるよう役立ててほしいと願っています」

CASE2

「顧客満足」を提供できる自動車整備士を育てたい

   2021年12月から活動中の内山弘幸さんの配属先は、ウガンダ最大規模の職業訓練学校。この国を走る車の9割が日本の中古車のため、日本車の整備技術を持つ人材が求められ、実習指導を強化するために派遣された。現地の教官と共に自動車の構造・分解・作動を教える実習を行い、教官には電気関係の知識や技術を教えている。

   現在担当しているのは6カ月の基礎コースで、約50人が学ぶ。修了後の実技試験に合格すれば整備士資格が取れる。

実習で説明する内山さん。生徒たちからは「Taata(お父さん)」と呼ばれ慕われている。「授業終了後にわからない人はTaataのところに来て」との呼びかけに集まる生徒が増えてきた

実習で説明する内山さん。生徒たちからは「Taata(お父さん)」と呼ばれ慕われている。「授業終了後にわからない人はTaataのところに来て」との呼びかけに集まる生徒が増えてきた

「小学校も満足に通えなかった生徒から、中学校を卒業した生徒まで、15歳から20歳のさまざまな生徒がいます。座って授業を受けた経験のない生徒もいて、勝手にどこかに行ってしまう生徒を捕まえに行ったり、寝ているのを起こしたりすることから授業が始まります」

   実習環境も厳しい。野外で行うことが多く、マンゴーの木の下に、ブレーキやクラッチを運んできて、分解して組み直し、仕組みを学ぶ。日本の専門学校などとは異なり、学校には動かせる自動車がほとんどないため、エンジンが動く様子はプロジェクターで動画を見せた。

   この国は若者が非常に多く就職難のため、資格を持つことが有利になる。そのため、「生徒たちにはなんとか就職して、自立できるようになってほしい」と話す内山さん。生徒に一番伝えたいことは「顧客満足度(CS)」の大切さだ。「整備はお客さまのために行うもの。身なりや工場もきれいにし、車の扱いも丁寧にする。会話も順序を追って説明し、修理をしてもらうかどうか決めてもらう。そうしたサービスができれば整備士として強みになると話しています」。教官たちも内山さんの説明に納得し、カリキュラムにCSのデモンストレーションを組み込むようになった。また、当初内山さん一人で行っていた教室の掃除を教員や生徒も行うようになった。

   協力隊の自動車整備職種に対しては、配属先の条件に合わせて活動する工夫が必要だという。「今の日本の自動車整備では行わないことも、求められます。焦らず臨機応変に対応するといいでしょう」。

活動の基本

配属先の状況に合わせ、さまざまな自動車の知識が必要になる。
臨機応変に対応を行う

Text=工藤美和 写真提供=平川修一郎さん、内山弘幸さん

知られざるストーリー