先輩隊員のシューカツ記

帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。

【今月の先輩の就職先】渡作株式会社

森 みつき(旧姓:宇佐美)さん
森 みつきさん(旧姓:宇佐美)
エチオピア/体育/2017年度1次隊・神奈川県出身

就職先:渡作(わたさく)株式会社
事業概要:スポーツアパレル、ワークユニフォーム、グッズなどを製造・販売。国内外に自社生産工場を持ち、量産からオーダーメイドの小ロット生産まで対応。他社ブランド製品の設計・製造も受託している。

森 みつきさんの略歴

  • ▶1989年           神奈川県生まれ
  • ▶2012年3月      日本体育大学卒業
  • ▶2012年4月      私立高校に体育教師として入職
  • ▶2016年3月      私立高校を退職
  • ▶2017年7月      青年海外協力隊員としてエチオピアに赴任
  • ▶2019年8月      帰国
  • ▶2019年9月      渡作株式会社に入社

ハンドボールを通じて派遣国とつながりたいという思いが仕事選びの起点です

   高校時代から部活動でハンドボールの選手として活躍し、大学卒業後は高校の体育教師になった森 みつきさん。協力隊に興味を持ったのは、体育隊員としてアフリカに赴任していた友人を旅行で訪ねた際に、のびのびと運動している子どもたちの姿を目にしたことがきっかけだった。その後、ハンドボール指導の要請があることを知って協力隊に応募し、エチオピアに赴任することになった。

   当初、2019年の任期終了後は東京五輪に関わりながら、その後のことを決めようと考えていたという。しかし、エチオピアでハンドボールと関わるなかで、森さんの胸中には「ハンドボールを通じて日本とエチオピアをつなぎたい」という思いが生まれていった。そこで森さんが行ったのが、ハンドボールに関連する日本の団体や企業に片っ端からメールを送り、その思いをぶつけることだった。

「ハンドボール、日本、エチオピアをつなぐ〝何か〟を見つけたいという漠然とした思いからでした。具体的なプランもなく、メールを送られた側も、困惑したと思います(笑)」

   結果は、協力できないという断りの返事ばかりだったが、なかには、ハンドボールの雑誌への体験記の執筆依頼などもあった。そして、物品提供という形なら協力できると返事をくれたのが、渡作株式会社だった。

「新品のハンドボールのユニフォームを100着、エチオピアまで送ってくれました。それがとても嬉しくて、図々しく『1年後に帰国したら働かせてくれませんか』とメールを送りました。すると、『帰国後も気持ちが変わらなければ連絡をください』と返答をいただきました」

   これが縁となり、その後も連絡を取り合い、同社に就職することになった。

「あとで聞いたところ、私のことをタフで面白そうだと思ったそうです。後先考えずに行動するタイプですが、それがよかったのかもしれません」



1.協力隊時代   2017年7月~2019年8月

任地のハンドボール練習場は、コンクリートがひび割れていて、釘が落ちていることもあり、けがの危険もつきまとう。そんな環境でも、生徒たちは目を輝かせてハンドボールを楽しんでいた

任地のハンドボール練習場は、コンクリートがひび割れていて、釘が落ちていることもあり、けがの危険もつきまとう。そんな環境でも、生徒たちは目を輝かせてハンドボールを楽しんでいた

エチオピアではスポーツを通じた子どもたちの育成に力を入れており、各地に市や町が運営するスポーツクラブがあります。私は北部に位置するアクスム市青少年スポーツ事務所に所属し、男女のユース世代(U13、U15)の選手たちにハンドボールの指導を行いました。要請内容は3人のコーチへの指導がメインでしたが、実際にハンドボール経験のあるコーチは、ボランティアで指導している大学生1人だけだったため、私も子どもたちのなかに入って一緒にプレーしながら指導を行いました。チームの目標は、毎年8月に開催される全国大会で成果を出すことです。任期を1カ月延長して参加した2019年の大会では、男女共メダルを取ることができました。コーチ2人が小学校の教員だったことが縁で、指導がない午前中には、小学校の体育授業に参加。日本のラジオ体操を導入したり、運動でけがをしたときの応急処置の仕方を、紙芝居にして教えたりしました。

2.日本の団体・企業にメール   2018年春ごろ

ハンドボールを通じてエチオピアと日本をつなぐ仕事にはどのようなものがあるのか。将来のヒントにしたいと、日本のハンドボール協会や、スポーツウェアのアパレル会社、出版社など、ハンドボールと関わりのある団体や企業に相談のメールを送りました。そのなかで、渡作株式会社から、ユニフォームを提供できると返事をもらいました。

3.書類提出   2019年2月ごろ

2019年3月に家族の都合で1週間ほど一時帰国する機会があり、ユニフォームを提供していただいたお礼を兼ねて会社を訪問したいと、メールで連絡をしました。すると「気持ちが変わっていなければ、面接に来ませんか」と返事があり、すぐに面接を受けることを決めてエチオピアからメールで履歴書を送りました。履歴書の志望動機には、ハンドボールに関わる仕事がしたいこと、協力隊の活動経験から、スポーツウェアを通じて誰かを幸せにしたいという思いを書いたと記憶しています。

4.一時帰国で会社訪問&面接   2019年3月

面接といえる面接は、一時帰国の際にハンドボールウェアを扱うImpal事業部の部長と会ったのが、最初で最後です。このときは、エチオピアでの生活と、前職で教員として働いていたときのことを聞かれました。私自身、会社の事業内容についてまだ不勉強でしたので、部長からはアパレルの事業についての細かい説明がありました。そして、任期が終わる8月に帰国したら働き始めることが、このときに決まりました。

5.2019年9月▶ 入社

現在の仕事

渡作㈱が寄付したユニフォームを着た子どもたち

渡作㈱が寄付したユニフォームを着た子どもたち

ハンドボールを中心にスポーツのウェア・グッズの製造・販売を行うImpal事業部に所属しています。小さな会社なので、全社員がすべての業務に携わっていますが、そのなかでも、私はチームウェアのデザインの提案、発注・納品、展示会での販売などを担当しています。エチオピアは現在、内戦により不安定な状況にあり、かつて指導したコーチや子どもたちとも連絡が取れていません。しかし、いつかまた、ハンドボールなどのスポーツを通じて、エチオピア、そして世界の誰かを幸せにしたいと思っています。

後輩へメッセージ

協力隊の活動に熱中してのめり込むことも大切ですが、時には冷静になって自分を見つめ直し、2年後、5年後、10年後に何をしていたいか、考える時間を大切にしてほしいと思っています。そして、そのときに感じたこと、考えたことを、そのまま放置するのではなく、行動に移してほしいです。一歩踏み出してみると、人とのつながりや思いがけないチャンスが、身近なところに転がっているように思います。

JICA海外協力隊ウェブサイト「帰国隊員の進路開拓についての相談受付」
※カウンセラー/相談役により対応可能な日が異なりますので、
あらかじめ電話またはメールでのご連絡をお願いします。

Text =油科真弓 写真提供=森みつきさん

知られざるストーリー