失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:自分主導で仕事をして反発された

今月のお悩み

▶テキパキ仕事をして手本を見せたつもりが職場で浮く結果になってしまいました。
(コミュニティ開発/男性)

   任期序盤の頃の失敗です。配属先では皆仲が良く、お茶の時間以外でもおしゃべりで一日が終わってしまうような日がしょっちゅうありました。

   私は言語が堪能ではなく、またまずは自分がやっている姿勢を見せて成果を出せば同僚たちも変わるのではと、おしゃべりに参加せずに同僚たちの分まで仕事を続けました。

   ところが、喜ばれるどころかよそよそしくされたり、同僚が現場に行く時に誘われず、職場に一人残されたりするようになりました。

今月の教える人

三好直子さん
三好直子さん
JICA海外協力隊技術顧問(環境教育)

日本シェアリングネイチャー協会専務理事・トレーナー、海の環境教育NPO bridge理事。「自然・異文化・体験からの学び」をキーワードに、ネイチャーゲームの指導・普及、海の環境教育教材「Lab to Class」の普及など、体験型の環境学習・国際交流を行う。

三好先生からのアドバイス

▶おしゃべりの中にただいることが大事なことである場合もあります。
無駄に思える時間が、さまざまな機会のスタートになることも。

   日本人は現地の人からすると若く見られがちですし、言語も完璧でないケースが多いでしょうから、配属先の人からすると「受け入れてあげている」といった場合も多くありそうです。

   時に相手の立場に自分を置き換えてみてはどうでしょう。ある日職場に言葉もまともに話せない若者がやって来て、自分たちとは違うモードで働きだしたら、反発したくなりませんか。まずは相手のやり方に合わせてみること、そこで起きていることを観察することに時間をかけていいと思います。

「無駄に思えるおしゃべりの場にいること自体が大事だった」と語った先輩隊員がいます。言葉があまりわからなくても、いろんな機会に声をかけてもらうのはすべて目的のないようなおしゃべりの場だったとのこと。声をかけやすい雰囲気で存在することで声をかけてもらい、次の道が開けてきたそうです。

   言葉がわからなくて居づらい、ならば自分で進めてしまおうと、パソコンと向き合うばかりになるのはもったいないことです。少し踏ん張り、職場の人との時間を大事にしましょう。

   技術移転よりマンパワーを求められるという悩みもよく聞きますが、まずはマンパワーでもいいと思います。役に立つ中で仲良くなり、信頼され、相手や組織、その土地の価値観を知る。根気のいることですが、急がずに相手を理解することが、国際交流の土台だと思います。

   相手が何もしない、こんなに働かなくていいのか、私は何も期待されていない、自分はなんのために来たのかと、協力隊に参加した気持ちが揺らぐ時期が多くの隊員にあります。隊員にとっては2年間の短期勝負、しかし現地の人にとっては期限のない日常で、今までそれで回ってきたわけですから。性急に変化を起こそうと思うのは傲慢かもしれません。

   配属先に高学歴な同僚がいることもあります。良かれと思って伝えた改善点に対して、若いよそ者にプライドを傷つけられたと受け取ることもあるかもしれません。日本は反省の文化で、かなりうまくいっても反省点を出しながら次への改善を目指しますが、相手の文化でも同じとは限りません。改善点を指摘されただけで屈辱を与えられたと感じる文化もあります。振り返り一つとっても、日本式が当たり前ではなく、その文化を知った上で対応する必要があると思います。

   現状把握をするため配属先の顔写真入り組織図を作った先輩がいます。いろいろな人に尋ねながら作成するうち、事務所が他にいくつもあることがわかったり、キーパーソンを教えてもらったり。ビジュアル化することで、質問することすら思いつかなかったことも、芋づる式に教えてもらえたそうです。

   顔写真入り組織図作りのいいところは、組織の人間関係がわかるため、いざ活動を進める時の相談先や提案先の手がかりにもなることです。例えば、自分に興味を持って話しかけてくれる人は頼りにして活動を一緒に進めたいと思いますよね。でも、その人が職場では異分子で、だからこそ新人のあなたに話しかけてきたとしたらどうでしょう。他の人の協力を得にくくなる可能性もあります。組織図作りは現状把握をする上でなかなか効果的な活動に感じました。

   よそ者のあなただからこそできること、組織の慣習のハードルを越えてできることもあります。例えば上下関係が厳しい配属先で、いいアイデアを持っていても上司には絶対に提案できない同僚がいたとき、よそ者でJICAというバックがあるからこそ、上下関係を超えてその案を上司に伝えてあげることができます。その案が評価されたら、「あなたのアイデアが評価されたよ」と一緒に喜んであげる。そんな役割を果たせるようになるためには、じっくり相手の世界を知る土台の時間が必要です。それは自分自身を知る時間でもあるように思います。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=三好直子さん  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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