派遣国の横顔   ~知っていますか?
派遣地域の歴史とこれから[メキシコ]

砂漠にサボテン、海岸リゾート、マヤ・アステカ文明、そして大都市まで多様で豊かな自然と文化の国、メキシコ。青年海外協力隊の派遣は今年7月で30周年を迎えた。
ボリビア

メキシコ合衆国

  • 面積:196万平方キロメートル(日本の約5倍)
  • 人口:約1億2,601万人(2020年国立統計地理情報院 INEGI)
  • 首都:メキシコシティ
  • 民族(※1):欧州系(スペイン系など)と先住民との混血(約60%)、先住民(約30%)、欧州系(スペイン系など)(約9%)、その他(約1%)
  • 言語:スペイン語
  • 宗教:カトリック(国民の約7割)(2020年 INEGI)

※2023年6月7日現在
出典:外務省ホームページ

※1 民族についての出典は、協力隊50周年誌『持続する情熱』

    
  • 派遣実績
  • 派遣取極締結日:1993年5月3日
  • 派遣取極締結地:メキシコシティ
  • 派遣開始:1993年7月
  • 派遣隊員累計:490人

※2023年6月30日現在
出典:国際協力機構(JICA)

南北アメリカを結ぶ多様性に富む大国
太平洋を挟んだ日本の重要なパートナー

多彩な自然や文化で日本人にとって親しみのあるメキシコ。
そこには長年の友好の土台がある。今年はJICA事務所が開設して50年、協力隊派遣も30年の節目。
メキシコへの協力隊派遣のこれまでとこれからとは。

お話を伺ったのは

望月 久さん
望月 久さん

PROFILE
1967年、海外技術協力事業団(現JICA)に入団、青年海外協力隊事務局に配属。70年にエルサルバドルに協力隊調整員として派遣される。その後、エルサルバドル駐在員、パラグアイ駐在員、メキシコ事務所長、青年海外協力隊事務局長などを歴任し、2001年から03年までJICA理事を務める。

坪井創さん
坪井 創さん

PROFILE
JICAメキシコ事務所長。民間企業、在ボリビア日本国大使館勤務を経て、1999年国際協力事業団(現JICA)入団。メキシコと日本の間で若手人材の交流を促進する「日墨交流計画」を担当したのがJICA人生の始まり。人間開発部、グアテマラ事務所、中南米部、総務部、ボリビア事務所、青年海外協力隊事務局次長などを経て、2021年10月より現職。

   江戸初期に支倉常長の遣欧使節団が太平洋を横断してメキシコ経由でローマに向かうなど、日本との間に400年を超える交流があるメキシコ。日本にとって初の平等条約である日墨修好通商条約の締結や、中南米で初の移民団・榎本殖民が南部のチアパス州へ入植したほか、近年は、2005年の経済連携協定(EPA)発効を機に経済関係が一層強まり、1300社以上の日系企業が進出。その数はラテンアメリカで最多となるなど関係は緊密だ。

   JICAは1973年に拠点を開設して以来、技術協力、資金協力(有償/無償)、協力隊派遣などを組み合わせ、環境、防災、産業開発、農業開発、資源・エネルギー、保健医療など多岐にわたる協力を行ってきた。

   メキシコは1人当たりのGNPが比較的高かったため、他の中南米諸国に比べて協力隊派遣は遅く、93年から。派遣に尽力したのが、89年からJICAメキシコ事務所長を務めた望月 久さんだ。

1897年に榎本殖民団が日本からメキシコへ渡った。メキシコ事務所長時代、メキシコ南部・アカコヤグアの公園に建立された榎本殖民記念碑を訪れた望月さん(左から2人目)

1897年に榎本殖民団が日本からメキシコへ渡った。メキシコ事務所長時代、メキシコ南部・アカコヤグアの公園に建立された榎本殖民記念碑を訪れた望月さん(左から2人目)

「既に中進国で分野によっては高度な技術レベルがある。日本の協力も円借款、技術協力が実施され、協力隊派遣は不要と考えられていました。しかし地方を回れば先進国並みの大都市と格差があり、農業や保健医療、教育分野で、現地の人たちと一緒に汗を流し貧しい人々の生活を向上させる、協力隊員でなければできない活動があると派遣の必要性を強く感じた」と振り返る。

   当時、南米に派遣される隊員は任地赴任前のスペイン語の現地研修をメキシコで受けていた。望月さんはメキシコ外務省の担当官に協力隊事業を紹介すると共に、隊員を送り出す壮行会に招き、隊員たちと交流してもらった。

「スペイン語を話し文化的な素養もある日本の若者に会うと、協力隊の趣旨をすんなりと理解し、『ぜひ来てほしい』と言ってくれました」

   一方、日本大使館で行われていた日本の政府関係機関による会議でも協力隊派遣への賛同を広げるなど、派遣に向け双方の国の地ならしを続けた。

   そうした努力が実り、93年5月に協力隊の派遣取極が締結。農業や保健医療分野の隊員派遣が始まった。現在までに累計400人以上が派遣され、農業、保健、社会福祉、環境、スポーツ、日本語教育などの分野で貢献している。

   現JICAメキシコ事務所長の坪井 創さんは、派遣の今後を次のように話す。「この30年で、メキシコの人口は約4000万人増え、GDPも3倍近くになるなど開発と成長が著しい面もありますが、協力隊の派遣当初と同様に社会・経済の国内格差は大きく、地方には途上国と変わらない状況があり、社会課題に向き合う隊員が求められています。今後は治安面も考慮しつつ、隊員の活躍が期待される地方への派遣を増やしていく方針です」。

Text=工藤美和 写真提供=ご協力いただいた各位

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