失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:隊員同士の意見の不一致

今月のお悩み

▶同じ職種の先輩隊員と活動の取り組み方の違いで険悪になってしまいました。
(コミュニティ開発/男性)

   同じエリアで活動する同じ職種の先輩隊員とは、配属先の所属長も同じだったり、同じ知り合いがいたりして、一緒に話題に上る機会が多いのですが、私とは活動に対するスタンスややりたいことが違い、意見が合いません。

   会合や分科会などでもよく一緒になりますが、私の考えを理解しようという気もない様子。こちらは後から赴任した立場なので我慢していますが、ストレスがたまります。

今月の教える人

小國和子さん
小國和子さん
インドネシア/村落開発普及員/1994年度2次隊、シニア隊員/インドネシア/村落開発普及員/1998年度0次隊・大阪府出身

日本福祉大学国際福祉開発学部・同大学院国際社会開発研究科教授。開発人類学をベースに農村開発援助実務および研究に携わる。研究テーマは農村開発・生活改善・フィールドワーク論・文化と開発・月経衛生対処など。

小國先生からのアドバイス

▶現地の人たちと個別の人間関係ができてくれば、
日本人同士はおのずと程よい距離が生まれます。
自分らしさを生かし代えがたい2年間に。

   特に任期序盤に少なからず聞く悩みですね。日本であれば、会社で意見の合わない人がいてもやり過ごせるくらいの器量はあるはずなのに、派遣国だと大きなストレスを感じてしまうのは、日々緊張しながら現地の人たちと信頼関係を築くために奔走しているからでしょう。本来ならそこに全力を注ぎたいのに、日本から来た隊員同士の対人関係の悩みでストレスを抱えたくない気持ち、よくわかります。

   コミュニティ開発をはじめ、特定の専門性に限らず応募できる職種の場合、隊員によって元々の学問分野も経歴も全く違うということが少なくありません。だから意見の不一致が生まれやすいのだと思います。でもそれは、一人ひとりが持つポテンシャルが多様だということの現れでもあるのです。

   私からのアドバイスは、「やり過ごせるなら、無理に向き合わなくてもいいのでは」ということです。あなたがここに来た目的や思いを考えてみれば、目の前にまだ言葉を交わせていない現地の老若男女が山ほどいて、その人たちと順番に、丁寧に、関係づくりをしようとしたら、2年なんてあっという間です。バックグラウンドが異なる先輩隊員と活動の考え方、やり方が違うことはある意味当然のことと、まずは自分のもやもやを肯定してあげてください。

   ただこれは、考えの合わない先輩隊員を無視してやりたいことだけ進めればいいということではありません。相手はあなたより長い期間活動していますから、現地の人間関係のネットワークもできているでしょう。実はうまくいかず悔しい思いも経験しているかもしれません。

〝なぜ先輩はこれをやったのか、それは現地の人にとってどんな意味があるのか〟。誰かの試行錯誤のプロセスは、今から活動しようというあなた自身が現地理解を深める上で一聴の価値があります。一体験談として先輩の話に耳を傾けてみませんか。

   そして、一緒に活動していたカウンターパートや同僚、現地の人にも話を聞いてみる。成功話も失敗談も、現地で仕事を進める上での留意点や工夫を知ることができるでしょう。

   その上で、先輩が行った活動はその人の経験と専門、感性などを生かして行ったことなので、それにとらわれ過ぎずにあなたなりに周囲との信頼関係を築くことに注力するうちに、隊員間の人間関係はそれほど気にならなくなるように思います。むしろ、違うことに目を向けながらもそれぞれ苦労したね、と話せるようになるかもしれません。

   実は私の場合は相談者さんとは逆で、先輩隊員の側でした。

   インドネシアの村の総合開発に取り組むため、複数の職種の人が何代にもわたって派遣されるプロジェクトで、初代村落開発普及員(現在のコミュニティ開発)として村に水道を引く活動を行いました。今思えば、いろいろな活動の可能性がある現場でしたが、結果的に2代目以降の後輩隊員も、水道を引く活動を継続してくれました。

   この活動自体が失敗だったわけではありませんが、「目に見えて後に残るものを、という思いや焦りの中で、水道敷設を初代が始めてしまったばかりに、後の人たちもそれを続けざるを得なかったのでは」と初代の責任について考えることがあります。

   村の人と共に汗を流して2年間活動する時、先輩隊員と同じ活動をしなければならないといった決まりはありません。最終的にその村の役に立ったのか、成果が出せたのかと不安を抱く隊員は多いのですが、私が協力隊後も専門家として開発協力の現場を見て感じたのは、「現地の人にとって、隊員との協働経験自体が、その後、何かにチャレンジする力になっている」ということです。

   村に住み続け、生活を良くしていくのは村の人たち自身ですが、日々のルーチンの繰り返しだけでは新しくて挑戦的なアイデアが生まれてこなかったりします。ヨソモノである隊員とアクションを起こすことで、それが村人の経験値となって、その後の人生において、参考にしてもらえたら嬉しいと私は思います。

   地域に入っていく協力隊員は帰国して数年たっても、現地の人が顔や名前を覚えてくれています。地元の人がそれぞれの隊員の違いを懐かしく語ってくれる未来を想像して、あなたらしく現地での毎日を充実させていってください。

Text&Photo =ホシカワミナコ(本誌)  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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