[特集]カモナマイタウン!   ‒Come on-a my town!‒
地域で居場所をつくるOV

格差が広がる日本。今必要なのは「安心できる居場所」です。自分では住む場所を決められない子どもたちや、思うような生活がしにくい障害のある方々、日本語が不自由な外国籍の方々、生活困窮者……。誰一人取り残さない社会へ、地域に根差し、みんなが安心して「ここにいてもいい」と思える居場所づくりに励むJICA海外協力隊OVを取り上げます。

Case01   NPO法人Teto Company
地域の人々が誰でも来られる多機能型交流拠点

大分県竹田市

奥 結香さん
奥 結香さん
マレーシア/障害児・者支援/2014(平成26)年度2次隊・愛知県出身

高齢者福祉を学ぶため進学した専門学校で重度障害者の方々と接し、彼らと苦楽を共にする喜びに目覚める一方で、世間から隔離された彼らの生活に違和感を覚える。「福祉を変えたい。そのために10年間は学びの機会」と決め、障害者施設スタッフや特別支援学級教員などを経験後、自分の気持ちを伝えられない自閉症の方たちと同じ境遇になって考えるためにJICA海外協力隊に参加。帰国後、「ひとりぼっちをつくらない地域社会を創る」というビジョンを掲げ、多機能型地域交流拠点をつくろうと考える。大分県竹田市の地域おこし協力隊として活動をスタートし、現在はNPO法人Teto Company理事長として「みんなのいえ カラフル」「Haru+」の施設運営を行う。2023年、第1回JICA海外協力隊 帰国隊員社会還元表彰 地域活性化賞受賞。


「みんなのいえ カラフル」の前でスタッフと奥さん

「みんなのいえ カラフル」の前でスタッフと奥さん

   江戸時代に岡藩の城下町として栄えた大分県竹田市。中心部の商店街にある地域交流拠点「みんなのいえ カラフル」(以下、カラフル)は、奥 結香さんが理事長を務めるNPO法人Teto Companyが運営する施設だ。

   取材に伺った土曜日は14時までは誰でも利用できる日だったため、軒先にのれんがかけられるや否や、続々と利用者が入ってきた。

「小学校がある日は6時30分に起きるんだけど、今日は6時に起きた。とっても楽しみにしてたから!」と言う女の子は、じゃんけんゲームで盛り上がる小中学生の男の子らの輪に加わった。

食後は皆で。片づけしながらおしゃべりタイム

食後は皆で。片づけしながらおしゃべりタイム

「近くに一人暮らしでここにはおしゃべりしに来ているの。あなたも座ったら」と話しかけてくれたおばあさんがいるテーブルは、ご高齢の方々で早くも席が埋まりそうだ。他の子どもたちが大騒ぎする横で座布団やクッションに顔を埋めてゴロゴロしている女子中学生もいれば、台所でスタッフと昼食の準備にかかる男子高校生、そこに庭で採れたカボスの差し入れをするおじいさんが加わって……と、皆が誰にも気兼ねせず思い思いに過ごしている。

   カラフルでは発達に課題のある未就学児~高校3年生に向けた放課後等デイサービス・児童発達支援「アソビバTeto」(以下、Teto)を行っており、包丁の使い方を学んでいる生徒もいる。この日の昼食のデザートは梨。そこで日頃の成果を披露すべく、真剣に梨の皮むきに挑む生徒らも。ちなみにこの日の献立は「ご飯、手羽元とナスのてりてり煮、豆腐とわかめのお吸い物、梨」で、子どもは無料、大人は300円だ。

協力隊時代に気づいた
連携し合える社会の必要性

平日のアソビバTetoでは、希望者が多ければ公園に行くこともある

平日のアソビバTetoでは、希望者が多ければ公園に行くこともある

   20歳の時、「福祉を変えたい。そのために10年間は学びの機会にしよう」と決めてから、発達障害のある方を支援するNPOに勤めたり、特別支援学校の教員を経験したりし、27歳でJICA海外協力隊員としてマレーシアに赴任した奥さん。任期終盤には特別支援教育の大規模なフォーラムを開催した。その時、「孤立する人をつくらないためには、学校や施設単体ではなく、連携し合える社会を創る必要性に気づいた」という。

    帰国後、【ひとりぼっちをつくらない地域社会を創る】というビジョンを実現するため、「世代も、障害の有無も、性別も国籍も超えて、誰もが集える居場所」をつくることに決め、その思いや提案を受け止めてくれた竹田市に地域おこし協力隊として移住したのは2017年のこと。「自己紹介チラシを持って地域を回りました。障害のある方の就労支援施設の理事長だった川口芳之さんと出会い、協力者になっていただいたのも1年目です。2年目には川口さんが所有していた家を改修してカラフルを開所し、3年目にNPO法人を設立しました」。

カラフルには多目的に過ごせる和室やリビングルームのほか、学習ブースや軽く運動ができる部屋、キッズルームなどもある

カラフルには多目的に過ごせる和室やリビングルームのほか、学習ブースや軽く運動ができる部屋、キッズルームなどもある

   カラフルは開所後4年間で来館者が延べ1万人を超える人気ぶりだ。コロナ禍は一時閉館したものの、利用者の強い要望を受け食事の提供なしで交流の場を継続させてきたという。23年4月には同じ竹田市内の山間部、荻町恵良原にもう一施設「Haru+」(以下、ハルタス)も開所し、こちらもにぎわいを見せている。

   カラフル、ハルタスの一番の特徴は、専門資格を持ったスタッフがいる多機能型交流拠点であることだ。奥さんも介護福祉士と保育士や教員の免許があり、スタッフも介護福祉士、保育士、作業療法士、理学療法士、社会福祉士などの資格保持者だ。それ故、できないことや課題がそれぞれ違う利用者に対しても適切な対応ができる。

「地域おこし協力隊時代、保護者の方から子どもの引きこもりに関する相談や大人の発達障害についての相談をよく受けました。中には『自費でいいから子どもの療育をしてほしい』という要望もあり、放課後等デイサービスの事業にすれば国や自治体の利用料負担があるので、利用者の負担を減らせると考えました。介護保険制度に基づいたデイサービス(通所介護)事業も同じ理由です。各専門職を雇用できる体制にすることで安心して利用してもらえ、継続性のある事業にできる。法人化はそういった理由からです」

「ここにいていい」と
誰もが安心して思える社会へ

   別の日、ハルタスにもおじゃました。こちらはしばらく空き家だった築60年の庭つき一軒家を買い取り、2年かけて改築した地域交流拠点で、デイサービスの役割もあるが、休館日以外はいつでも誰でも利用できる。

   「ありがたいことに、カラフルではTetoが定員に達しました。子どもたちの発達に合った支援を丁寧にしていくことも必要なので、いまカラフルで誰でも集える場は週3日のみです。地域のお年寄りがゆったり過ごせて、いつ誰が来てもいい場も必要と考え、ハルタスをつくりました」

Haru+の近所に住むパキスタン人の母子が来所すると、皆が声をかけたそうに集まった

Haru+の近所に住むパキスタン人の母子が来所すると、皆が声をかけたそうに集まった

   朝、デイサービスの送迎車でやって来たのは、90代を中心とした利用者の方々だ。お茶を飲んで一息入れたら、ハルタスのスタッフに頼られながら皆で献立を決め、来ていた幼稚園児に野菜の切り方を教えつつ調理し、食卓を囲んだ。私が食後の片づけに席を立とうとすると、「みんなでおしゃべりしながら行うといつの間にか終わってるんだから、あなたはいいのよ。ここに座ってお茶して」と逆にいたわってもらってしまった。

   お昼に赤ちゃんを連れたパキスタン人の女性が訪れた。近所に住んでいて、2回目の利用だという。おばあさんたちも幼稚園児も興味津々に集まって来て、奥さんが翻訳アプリで間を取り持ちながら和やかな時間が過ぎていく。 取材を通して印象的だったのは、利用者の皆さんが筆者をも自然に受け入れ、一緒に遊んだり、話の輪に入れてくれたりしたことだ。誰でも安心して「ここにいていいと思える場」を、知らぬ間に筆者自身が利用者の方々から提供され、体感していたのだった。

Text&Photo=ホシカワミナコ(本誌)

知られざるストーリー