[特集]カモナマイタウン!   ‒Come on-a my town!‒
地域で居場所をつくるOV

Case02   一般社団法人チョイふる
生活困窮家庭の子どもたちが対面・ネット上で集える場

東京都足立区

栗野泰成さん
栗野泰成さん
エチオピア/体育/2014(平成26)年度2次隊・鹿児島県出身

大学卒業後、愛知県内の小学校教員として勤務し、協力隊に参加。エチオピアで四肢不自由児に物乞いをさせる「レンタルチャイルド」を見かけ衝撃を受ける。自らの生い立ちも重ね合わせ、「教育格差の是正」を命題に掲げて帰国。大学院に進学し、子ども向け英会話スクールを共同起業するも、裕福な家庭の子どもばかりが習いに来ることがわかり、断念。社会経済的に困難を抱える子どもたちに、必要な支援を与え、頼れる場所をつくれるよう、食材配達を媒介にした、居場所づくりを行う「一般社団法人チョイふる」を設立。


食材配達前の準備。コンテナにその日の食材を分けて入れていく。2人一組に分かれ、ドライバーの車にコンテナを載せて配達開始

食材配達前の準備。コンテナにその日の食材を分けて入れていく。2人一組に分かれ、ドライバーの車にコンテナを載せて配達開始

   生活困窮家庭の支援が必要な子どもたちにも、一般家庭と同じように学び・体験の機会や、ほっとできる第三の居場所を与えたい――そう考えた時、あなたならどのようなアプローチを取るだろうか。

   一般社団法人チョイふる代表理事の栗野泰成さんが東京都足立区で行うのは、「食材の無料配達をツールに、困窮子育て世帯と繋がる」ことだ。月に1回、食材の無料配達を希望する子育て世帯を訪問して食材を手渡しする「あだち・わくわく便」を行い、法人で運営する親子の居場所「あだちキッズカフェ」や、オンライン上の子どもの居場所「どこでも公園 あそば~す」、保護者向けにLINEを使用した生活相談支援「繋ぎケア」などの案内をしている。

   子どもの居場所をつくるなら、「あだちキッズカフェ」があれば事足り、食材配達は遠回りとも取れる方法のように見えるが、理由があるという。「行いたいのは経済的困難に伴う教育格差の是正です。あだちキッズカフェがあっても、支援が必要な子どもたちがここの存在を知って自ら来てくれる確率は低いですよね。そもそもの家庭の貧困問題を根本から解決するためにも、保護者からニーズの高い食材の無料配達を通して、こちらからお宅に伺ってまずは信頼関係を築く。その上で支援が必要な子どもにアプローチしていこうと考えたんです」。

ボランティアも活動しやすい
専用アプリを使った情報共有

利用世帯の子どもたちを招待したクリスマスイベント「クリスマス イン ザ シティ」も開催(写真提供=栗野泰成さん)

利用世帯の子どもたちを招待したクリスマスイベント「クリスマス イン ザ シティ」も開催(写真提供=栗野泰成さん)

「あだち・わくわく便」は第1・第3土曜日に行っているというので、ボランティアを兼ねておじゃました。

   朝9時、足立区竹の塚にある教会に、チョイふるの職員やボランティアスタッフが三々五々集まってくる。先に栗野さんたちが倉庫からその日に配る食材を運んできているため、集まった人が、米、野菜などの生鮮食品、加工食品、菓子、飲料、雑貨などを配達コンテナに入れていく。60センチ×40センチのコンテナいっぱいになるくらいの量があり、品数も重量もなかなかのボリュームだ。

オンライン上の居場所「あそば~す」では、決まった時間に利用者の子どもとスタッフがオンライン上に集まる

オンライン上の居場所「あそば~す」では、決まった時間に利用者の子どもとスタッフがオンライン上に集まる

   食材の仕分け後は、各自スマートフォンに入れた専用アプリでその日に一緒に配達するスタッフと配達先の家庭の情報をチェックし、全体ミーティングで注意事項などを確認した後、配達へ。ドライバーと配達員が2人一組で5~6軒の家庭に配達するそうで、筆者は配達員として車に乗せてもらった。

「わくわく便です」と伝えて玄関に入れてもらうと、商品の説明をしながら、雑談の中で食事の好き嫌いや家族の健康状態、子どもの学校や進学の話などを聞いていく。車に戻ってから訪問先で得た情報などを専用アプリに打ち込むことで、情報共有は完了。次のお宅へ向かった。希望する家庭の子どもたちをピックアップしてあだちキッズカフェへ送迎することもしているそうで、我々も最後のお宅で送迎を行った。

あだちキッズカフェの様子(写真提供=栗野泰成さん)

あだちキッズカフェの様子(写真提供=栗野泰成さん)

   あだちキッズカフェでは、職員のほか、料理人経験のあるボランティアスタッフなどが中心となり、その日に使える食材を確認して献立を考え、手作りの昼食やおやつを用意している。送迎した子はキッズカフェには複数回来ているようで、リラックスしながらお昼やおやつを食べ、他の子どもたちやスタッフらとゲームをしたりしてはしゃぎ、夕方にスタッフの車で帰宅していった。

   食材配達をしている世帯の利用料は食事代も含めて無料で、保護者の子育て相談などの場としての役割もある。「娘が保育士さんに懐いていて」と、遊びに来ている母子もいた。

コロナ禍が転機となり
仲間が増え、事業拡大

あだちキッズカフェ外観(写真提供=栗野泰成さん)

あだちキッズカフェ外観(写真提供=栗野泰成さん)

   2023年7月現在、チョイふるが支援するのは287世帯、ボランティアは193名。子どもの居場所は2カ所あり、今年度中にもう1カ所増える予定だ。オンライン上の居場所「どこでも公園 あそば~す」も、不登校児を中心に利用がある。着実に活動の幅を広げている栗野さんだが、16年に教育格差の是正というビジョンを持って協力隊から帰国した後は、大学院に行きながら別会社を起業するなど、現在の形になるまでには紆余曲折があった。

   20年に食材配達をスタートしてからも「当初は友人に借りた軽トラックで、一人で10軒程度の家庭を回りました。食材は足立区から避難食の賞味期限が近いものなどを寄付してもらったりしてました」と、栗野さんのボランティアベースの活動だったという。

   大きな転機となったのは20年の春。新型コロナウイルスが広がる中、栗野さんが足立区内の困窮世帯にお弁当を届けるプロジェクトに参加した際、子ども食堂をしていた別団体と知り合って意気投合。一緒に活動をしていこうという話になった。

食材の無料配達を通して顔見知りになるにつれ、配布先世帯の方々との会話も増えていく

食材の無料配達を通して顔見知りになるにつれ、配布先世帯の方々との会話も増えていく

   その後、生活困窮家庭にチラシを配って配達希望者を募り、SNSで食材提供を呼びかけ、企業を回って食材の量や種類を増やしていき、20年夏にボランティアスタッフと共に「あだち・わくわく便」をスタート、21年2月に法人化を果たした。

「団体名の『チョイふる』は、生活困窮家庭の子どもたちもChoice(=選択肢)がFull(=たくさんある)と感じられる世の中にしたいという思いで名づけました。足立区の児童扶養手当受給世帯は5500以上あり、5年後までにすべてに範囲を広げる予定です。区外にも広めていきたいので、ノウハウを他の団体にも使ってもらえるようにしながら、全国で、世界で格差是正ができたらと思っています」

Text&Photo=ホシカワミナコ(本誌)

知られざるストーリー