[特集]カモナマイタウン!   ‒Come on-a my town!‒
地域で居場所をつくるOV

Case04   NPO法人 自立支援センター ふるさとの会
社会復帰を目指す大人たちへの生活・自立支援の場

東京都台東区

田辺 登さん
田辺 登さん
サモア/野菜/2002(平成14)年度2次隊・福岡県出身

大学卒業後、スポーツ雑誌・新聞社に勤務した後、調査会社情報誌の編集に携わる。協力隊ではサモアの高校で農業の授業を受け持った。サモアで人々の「分かち合いの精神」、「支え合いの精神」を体験し、感銘を受ける一方、日本では高齢者の困窮や子どもの虐待事件の増加などのニュースが多く、支えを必要としている人が日本にこそいると考えるに至った。JICAの求人情報でNPO法人自立支援センターふるさとの会を知り、2006年2月に入職。生活困窮者向け支援付き住宅責任者などを経て、15年から更生支援部門の担当になり、帰る場所のない出所者らの生活再建を支援している。同会にはこれまで延べ10名の協力隊OVが入職していて、協力隊経験が生きる場面も多いという。同会では現在も協力隊OVの職員を募集している。


ふるさとの会のスローガンは「認知症になっても、がんになっても、障害があっても、家族やお金がなくても、地域で孤立せず最期まで暮らせるように」。同僚の方々と田辺さん(左端)(写真提供=田辺 登さん)

ふるさとの会のスローガンは「認知症になっても、がんになっても、障害があっても、家族やお金がなくても、地域で孤立せず最期まで暮らせるように」。同僚の方々と田辺さん(左端)(写真提供=田辺 登さん)

   かつて〝山谷のドヤ街〟と呼ばれた東京都台東区の北東部に、NPO法人 自立支援センター ふるさとの会がある。バブル崩壊以降、職を失い、故郷とも縁が切れた路上生活者に対して支援を行ってきた。現在、都内5区で計26カ所の施設を持ち、生活困窮者に住まいを提供し、日常生活や就労の支援を行っている。

   田辺 登さんは、同会で更生保護を担当して8年目になる。罪を犯して服役した方などの自立を目指し、住まいや生活、就労の支援を原則、6カ月間を限度に行っているが、本人が望めば、同会の多様な支援プログラムにつなぎ、一生のつき合いになることもある。

「犯罪の多くは、生活の困窮による窃盗の類いです。出所後も前科があることなどで引き受け先がなく、行き場を失ってしまった方々です。彼らが我々の施設を退所した後も、いかに地域とつながることができるかを一緒に考え、歩んでいく仕事です」

   しかし社会復帰は一筋縄ではいかない。世間から差別され、元をたどれば生育環境にも問題があった人も多いからだ。「福祉からも、社会からも受け入れられず、心に二重のバリアがあり、職員に対して心を閉ざしてしまう人もいる。信頼してもらうまでには時間がかかります」。

ふるさとの会の日常生活支援住居施設での利用者のバイタル測定の様子。写真は佐藤信希さん(東ティモール/料理/2016年度3次隊)(写真提供=ふるさとの会)

ふるさとの会の日常生活支援住居施設での利用者のバイタル測定の様子。写真は佐藤信希さん(東ティモール/料理/2016年度3次隊)(写真提供=ふるさとの会)

   田辺さんは「自分自身にも長所と短所があって、でこぼこしている。それを自覚し、支援する側とされる側ではなく、一緒にどうやって人生を進めていくか、という姿勢で臨むことが大切」だという。

   利用者の背景を見る視点は、協力隊時代のサモアでの経験が生かされているという。

「サモアの子どもたちが缶や瓶をどこにでも捨てているので注意したら、『土に溶けないの?』と聞かれました。彼らは食事をする皿が木の葉だったから、捨てれば土に返る。それと同じ感覚で捨てていたのです。自分の価値観で善悪を決めず、背景を見ないと本質はわからないと思いました。犯罪者に対して、司法は事件を見て裁くけれど、私たち福祉の立場は、その人がそこに至る背景を理解することが大切だと思います」

   印象的な元利用者がいる。貧困家庭で育ち、反社会組織に所属して、実に13回の服役を経験した方だ。70歳で同会の施設に入所し支援を受け、退所後はアパートへ入居した。施設に居た時と同じように、アパートの前のゴミ拾いや掃除をしているうち、近所の人とも親しくなり、今ではおかずのお裾分けをもらったり、子どもたちと遊んだりして、地域に溶け込んでいるという。

「その方から、ふるさとの会に出会って、5年も刑務所に戻らないでいられることに感謝している、と近況報告をもらいました。こうした方の存在が、私のやりがいになっています」

   同会では、田辺さんのほか、佐藤信希さん(東ティモール/料理/2016年度3次隊)、佐藤信子さん<スリランカ/美容師/1989(平成元)年度3次隊>も現在、日常生活支援住居施設で活躍している。

Text&Photo=阿部純一(本誌)

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