[特集]カモナマイタウン!   ‒Come on-a my town!‒
地域で居場所をつくるOV

Case05   774(ななし)プロジェクト
高校生のやりたいことを応援する放課後の空間

岩手県釜石市

常陸奈緒子さん
常陸奈緒子さん
セネガル/村落開発普及員/2010(平成22)年度4次隊・岩手県出身

大学で国際協力を専攻し、将来はアフリカの開発支援に携わることを決意。協力隊派遣の直前に東日本大震災に遭い、いったんは派遣を諦めるが、両親からの「行ってきなさい」との後押しを受けて参加。セネガルでは故郷のことを常に気遣いながらも、協力隊の活動をやり遂げることが故郷の釜石にも還元できる力になると信じ、地域の女性や子どもの生活向上や教育支援に取り組んだ。帰国後は釜援隊(※)として約7年半勤務した後、釜援隊の任期終了に伴い、現在は釜石まちづくり株式会社に勤め、釜石市の施設運営などに携わりながら、フリーランスの立場で高校生のサポートと居場所づくりに尽力している。釜石高校でのプロジェクトのほか、別団体で官民学が連携して高校生のキャリア支援を行う釜石コンパスでも活動中。


授業や部活動が終わった後、多くの高校生が774プロジェクトに集まり、思い思いの活動をしたり、常陸さんたちスタッフと語り合う姿が見られた

授業や部活動が終わった後、多くの高校生が774プロジェクトに集まり、思い思いの活動をしたり、常陸さんたちスタッフと語り合う姿が見られた

   岩手県立釜石高校の一角にあるセミナーハウスでは、週に2回、放課後に生徒たちが気軽に集えるスペースがある。高校生と大人が力を合わせて、自分たちが使いたくなる場所を自分たちでデザインしていこうという思いで、「774(ななし=名無し)プロジェクト」と名づけられたこの取り組みの中心人物が、常陸奈緒子さんだ。

「同校の高校生は、授業の後は部活動、その後は塾や課題に取り組まねばならず、地域社会との接点が希薄になりがちでした。そんな高校生に地域の大人たちと日常的に関わり合う第三の居場所を提供するため、官民学連携で運営しています。ここで生徒たちはやりたいことに取り組み、私たちは助言や支援をしています。もちろん、特に目的がなくても、雑談したり、おやつを食べに来たり、バスの時間待ちをする生徒などもいて、好き好きに過ごしています」

   取材日も生徒たちが集い、勉強や課題の制作、進路の悩みなどを、常陸さんを含め4人のスタッフに相談していた。

   ある生徒は防災アプリを開発中で、災害発生時の逃げ遅れや、適さない場所へ避難してしまうことを防ぐため、位置情報サービス活用の可能性を探っている。避難場所を知らない人や避難訓練に参加しない人にも使ってもらえる、避難に役立つアプリの作成を目指し、東日本大震災で被災経験のあるスタッフと共に、発災時にどんな場面が考えられるかを話し合っていた。

   活動を後輩に受け継ぐために、生徒が立ち上げた「夢団」は、震災伝承・防災啓発を中心に活動している。今年3月には、横浜市のイベント実行委員会から「大震災の教訓を横浜の人々に伝えてほしい」と依頼され、15人の夢団の高校生が横浜に赴き、震災伝承や防災普及を考えるパネルディスカッションなどを行った。

高校生とのミーティングを行う釜援隊時代の常陸さん(2017年)(写真提供=常陸奈緒子さん)

高校生とのミーティングを行う釜援隊時代の常陸さん(2017年)(写真提供=常陸奈緒子さん)

「普段はおっとりしている生徒も準備段階から主体的に行動していて成長を感じました。横浜では釜石以外の高校生や大人とも交流できてよい刺激になったと思います」

   常陸さんが釜石の高校生と関わることになったきっかけは、協力隊から帰国して直後の2013年から、東日本大震災で被災した釜石市の復興まちづくりを目指す「釜援隊」のメンバーとして活動してきたことにさかのぼる。

「当時の高校生は、小学生で震災を体験し、国内外から受けた支援や励ましを覚えていて、まちづくりに参加したい、何かあった時に今度は自分が役に立ちたい、という気持ちを持った子が多くいました」

   そんな思いを持った高校生たちの声を、復興まちづくりの議論のテーブルに乗せたい、それが常陸さんの活動の原点だった。釜援隊の任期終了後も、「絶対に続けたい」と念願したのが、活動の一環で15年から携わってきた高校生の支援だった。

「将来は、学校だけでなく、釜石のまちにも高校生の居場所をつくりたいと思っています」

※釜援隊…正式名称は「釜石リージョナルコーディネーター」(復興支援員)。2013年に発足し21年の制度終了まで、住民・行政・企業・NPOなど、まちづくりに関わるさまざまな人や組織をつなぎ、官民一体の復興まちづくりを推進した。

Text&Photo=阿部純一(本誌)

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