[特集]カモナマイタウン!   ‒Come on-a my town!‒
地域で居場所をつくるOV

Case06   株式会社ユニココ
誰もが集い共に作る都会の畑

東京都西東京市

若尾健太郎さん
若尾健太郎さん
グアテマラ/村落開発普及員/2004(平成16)年度3次隊・東京都出身

大学卒業後、IT企業での勤務を経て協力隊に参加。2005年に派遣されたグアテマラの農山村で生活向上のため活動し、当時発生したハリケーン被害に際しては、復興支援のため植林プロジェクトを主導した。現地の農村コミュニティでの人間関係に引かれ、帰国後の08年から群馬県のNPO法人自然塾寺子屋に3年間勤務し、国際協力や農業の分野で経験を積む。並行して高崎経済大学大学院の修士課程で地域政策について学び、12年に地元・西東京市へ戻って株式会社ユニココを起業。代表取締役を務める。


青年から社会人、高齢者までさまざまな人が一緒に農作業を行う。作業の合間の休憩では、持ち寄ったお菓子や飲み物を前に会話にも花が咲く

青年から社会人、高齢者までさまざまな人が一緒に農作業を行う。作業の合間の休憩では、持ち寄ったお菓子や飲み物を前に会話にも花が咲く

   西東京市の閑静な住宅街に、「みんなの畑」と名づけられた30メートル四方ほどの農園がある。各種の野菜やハーブ、花などが植えられていて、毎週水曜日の午前中に人々が集まって農作業にいそしむ。農園の運営団体「ノウマチ」でコーディネートを引き受けているのは、グアテマラOVの若尾健太郎さんが立ち上げた株式会社ユニココだ。

「みんなの畑のテーマは『ごちゃまぜな農体験』。年会費5000円で、近隣の高齢者や引きこもりから社会復帰を図る方、就労支援プログラムを受ける生活困窮者や求職者などさまざまな背景の人がメンバーになっています。さらに体験料200円で誰でも見学・参加できます」

みんなの畑の様子

みんなの畑の様子

   また、障害者の働く場づくりとして就労支援施設などを通じて作業を依頼しており、それらの団体に委託料を支払っている。「この畑を地域の人々が自由に来られるサードプレイス(※)にしたいと考えているので、対象とする人は限定していません。就労支援の一環でやって来た若者がお年寄りとの作業の中で徐々に心を開き、コミュニケーション能力を高めていったりするのは嬉しいです」

   居心地の良い場をつくる工夫の一つが、自由参加の仕組みだ。活動日に来ても来なくてもよく、当日に集まったメンバーで適宜作業を分担する。参加者の一人は、「義務ではないので気負わずに続けられる。こうして週の中で習慣づけて集まれる場所があるのはありがたい」と話す。

   そんな若尾さんの取り組みの原点は、協力隊時代の経験にある。

「任地の村では、農業を中心に人々がつながり合って暮らしていました。一方、地元の西東京市では生産緑地が減り、住民間の関わりも希薄化し、私が育ってきた原風景が失われつつありました」。そこで帰属する地域を元気にしたいとの思いから、国内で知見を積んだ後、起業に至った。

畑で作業する人たち

畑で作業する人たち

   初期の事業では公的な補助金を受給しながら、高齢者に地域農家で農業体験をしてもらう活動などを行い、現在は地域再生・地方創生への支援を主な収益事業としている。

   例えば、市内のひばりが丘団地の再生を手がける団体で事務局長の業務を受託してNPO運営や地域づくり全般を手がけるほか、群馬県片品村での地方創生計画の策定、組織やプロジェクトの立ち上げなどにも携わっている。みんなの畑の運営は「ある意味、CSRや広報部門に近い」と話す若尾さん。

「とはいえ、いずれは都市農地でお金を生み出し、高齢者や障害者の方々も輝ける仕組みを実現したいですね。自らの周りの地域の暮らしを良くしていくことが大切だと思っていて、その中で一人社長として自分も収益を出して食べていければと頑張っています」

※サードプレイス…自宅や職場以外の、居心地の良い〝第三の場所〟のこと。

Text&Photo=飯渕一樹(本誌)

知られざるストーリー