JICA海外協力隊員ってどんな人?

CASE2   思い切って仕事を辞めて参加
任地では社会人経験を生かし、生産者を支援
帰国後は国際協力の道を突き進む

30代で派遣された西岡大介さんの場合
▶ 企業を退職し、協力隊へ参加
▶ 帰国後:大学院留学を前に、JICAの民間連携事業部に勤務

Lao Handicraft Festival で。商工省、ラオス国立商工会議所、ドイツ国際協力公社の方々と

Lao Handicraft Festival で。商工省、ラオス国立商工会議所、ドイツ国際協力公社の方々と

西岡大介さん
西岡大介さん
ラオス/コミュニティ開発/2019年度3次隊・大阪府出身

高校時代から海外に興味を持ち、大学では国際金融のゼミに所属。ベトナムやカンボジアを旅行し、「先進国よりも開発途上国のほうが面白い」と感じた。金融機関に7年間勤務した後、退職して協力隊に参加。帰国後、JICAで民間企業の海外展開支援業務に従事している。

ウドムサイ県で行った金融リテラシーのセミナー

ウドムサイ県で行った金融リテラシーのセミナー

「いずれは海外業務に関わりたい」という思いで、企業の海外展開を支援する部署のある地元の信用金庫で働いていた西岡大介さんは、30歳を前に、「このままでいいのか。より社会に役立つことをしたい」と感じていた。

   そんな時、協力隊に参加した幼なじみから話を聞いた。協力隊といえば、教育や医療に関する活動のイメージが強かったが、それ以外の職種があることも知った。コミュニティ開発の職種なら、自分の専門や経験も生かせると思い、応募を決めた。

   当初は、勤務先を休職して参加することを考えた。勤務先にはもともと休職制度があったが、ボランティア活動で長期、休職した例はなく、社内でも議論になったという。結局、休職は認められず、西岡さんは退職の道を選んだ。

「不安よりは楽しみな気持ちのほうが大きかったです。行ってみたら何とかなると思いました」。母や2人の姉も応援してくれた。高校時代に父を亡くした西岡さんには「人生は一度きり。悔いのないように生きよう」といった気持ちも強かったという。

   合格後、2019年12月に会社を退職し、派遣前の訓練を受けていた20年2月、新型コロナウイルス感染症の流行のため、派遣中の協力隊員全員の一斉帰国と新規派遣の延期が決まった。

ラオス日本人商工会議所との意見交換の様子

ラオス日本人商工会議所との意見交換の様子

   1年余り待った21年8月に着任したのは、ラオスの首都・ビエンチャンにあるラオス国立商工会議所の中小企業支援センター。半年かけて同僚と調査を行った結果、北部のウドムサイ県を重点に活動する方針を決めた。同県を通って、ビエンチャンと中国雲南省昆明とを結ぶラオス・中国高速鉄道が開通した直後で、地域経済成長の期待が高まっていたからだ。観光客の増加を見込んで、地元の葛や綿を活用した手工芸品の開発やマーケティングを強化しようと、西岡さんの前にも5人の協力隊員が活動していた。住民や商工業者のやる気も高かった。

   しかしここで西岡さんが注目したのは、住民の金融リテラシー、つまりお金に関する知識や判断力を高めることだった。

「商品をいくらで売るか決める時も、経費や利益のことはあまり考えられていませんでした。首都の手工芸品の展示会で販売する時も、輸送コストを考えず、地元と同じ値段にしようとしていました」

   金融リテラシーのセミナーを始めることを決めた西岡さんは、日本の民間金融機関が子ども向けに作成した著作権フリーの金融教育教材をラオ語に翻訳した。それを用い、西岡さんが英語で専門知識も踏まえて説明し、それを同僚がラオ語で住民に説明することで、理解を深めた。

「無駄遣いをやめるにはどうしたらいいか」といったテーマを決め、グループで話してもらうと、「iPhoneは高いので、格安のスマートフォンにする」「ノーブランドの安価な衣服を買う」など、話し好きのラオス人の議論は盛り上がったという。

   活動以外に西岡さんにはもう一つ、尽力したことがある。県内で発生した洪水被災者の支援だ。

2022年にウドムサイ県で豪雨災害が起きた。寄付された古着は他の隊員らと仕分け、赤十字社の方々と配布作業も行った

2022年にウドムサイ県で豪雨災害が起きた。寄付された古着は他の隊員らと仕分け、赤十字社の方々と配布作業も行った

   洪水は22年8月、西岡さんがウドムサイ県を重点地域に決めてまもなく発生した。大雨で川の氾濫や土砂崩れが発生し、人の胸の高さまで浸水した。コロナ禍で生活基盤が揺らいでいた中、多くの家畜が流され、育てていた農作物もだめになった。「何とかできないか」と西岡さんは、ラオス派遣中の他の隊員と共に立ち上がった。

   JICAラオス事務所にも協力してもらい、ラオスで試合をする予定のあったサッカーのU20(20歳以下)日本代表チームに応援メッセージを依頼した。激励のメッセージとユニフォームが届き、試合後の11月にビエンチャンで開催された手工芸イベントのブースで展示し、募金を呼びかけた。

「ユニクロ」を展開する株式会社ファーストリテイリングには、隊員の発案により、店舗で客から回収している使用済みフリースの提供などを頼んだ。「被害地域は冬には気温が一桁になります。絶対に冬服が必要になると考えました」。

   年末、88,400着の衣類が届き、延べ11人の隊員で、3郡の子どもや大人の人数に合わせて、仕分け作業を行った。ラオス赤十字社と一緒に被災地を回り、約13,500人の住民へ配布した。

「ラオスの人の優しさに助けられ、人に恵まれました」と西岡さん。特に深く信頼し合うことができたのが、ウドムサイ県商工会議所の中小企業センター長だ。「家に招いてくれたり、ご飯を食べに誘ってくれたりして、『おまえは俺の息子だ』とまで言ってくれました。言葉も文化も違う人とそういう関係を築くことができたのは、自分の財産です」。

   退職を決断した時点で、西岡さんは協力隊活動後は、大学院に進んで開発経済学について学び、国際協力の道へ進もうと決めていた。イギリス留学を前に、現在はちょうど任期つきの募集のあったJICAの民間連携事業部に入構し、途上国で社会課題の解決につながるビジネスを展開しようとする企業を支援する仕事に関わっている。

応募者へのMessage

人生は一度きりです。行動を起こさなければ、何も変わらず、悔いが残るかもしれません。一歩踏み出すことが大事で、協力隊がその一歩になるといいと思います。でも協力隊はあくまで途中の段階。それを踏まえて自分がどうなりたいか考えておくことも大事だと思います。


持って行ってよかったモノ

職種ガイド:コミュニティ開発

地域住民が望む生活改善や収入向上、地域活性化への寄与などを目的に、住民とともに地域の開発課題解決のために活動する。活動分野は、農業普及、保健医療、水・衛生、地場産業振興、村落開発事業など多岐にわたる。ラオス国立商工会議所の中小企業支援センターに配属された西岡さんは、地域小規模事業者や郡行政機関職員に対して金融教育と地域観光開発分野で、人材強化支援に取り組んだ。


Text=三澤一孔 illustration=サイトウトモミ 写真提供=西岡大介さん

知られざるストーリー