JICA海外協力隊員ってどんな人?

CASE6   資格や経験がないながらも新卒参加
活動分野の勉強を重ね
周囲の人にも支えられてやり切った2年間

新卒で参加した林 貫太郎さんの場合
▶ 国際協力を志し、未経験ながら環境教育隊員に
▶ 帰国後:現地での経験を糧に国際協力機関での仕事を目指す

6月5日の世界環境デーに首都チュニスで行われた展示会にて。JICAブースで自身の活動やJICA事業についての説明を行った

6月5日の世界環境デーに首都チュニスで行われた展示会にて。JICAブースで自身の活動やJICA事業についての説明を行った

林 貫太郎さん
林 貫太郎さん
チュニジア/環境教育/2021年度2次隊・大阪府出身

中学生の頃から海外への興味を持ち、高校・大学では特に国際関係分野を重点的に学ぶ。大学時代の「国際協力論」の授業やオーストラリア現地調査、タイ留学を通じ、「GDPや貧困指数ではなく、各国の特色に価値を見いだしながら発展を図ることに携わりたい」との思いから国際協力の道を意識した。協力隊への応募・合格後、コロナ禍での約1年半の待機を経て赴任。2023年10月に任期を満了して帰国した。

   林 貫太郎さんは、大学で人間の安全保障の分野を中心に国際関係を学ぶ中で、国際協力に関わりたいとの思いを持った。「担当講師がパラオでの国際協力に関わりのある人で、海面上昇や自然災害の問題、海の自然環境の保全などのテーマについて、解決策をグループで話し合ったりするうち、自分にもできることがあるのではと思うようになりました」。

   ただ、自らにはまだ経験や資格が欠けているとも感じていた林さん。「NGOや開発コンサル系の企業も検討したのですが、やはり自分の状況に一番合っているのは、語学や資金面、活動面のサポートが充実した協力隊だと考えました」。

配属先の同僚たちとイベント準備のためゴミ拾いをする(写真提供=JICAチュニジア事務所)

配属先の同僚たちとイベント準備のためゴミ拾いをする(写真提供=JICAチュニジア事務所)

   そうして協力隊への挑戦を始めたが、大学4年生の時の春募集では合格に至らなかった。並行して進めていた就職活動では一般企業の内定を得たが、「企業に入れば、仕事でいっぱいいっぱいになってしまう。あくまでも国際協力の道を目指したい」と、秋募集に再度応募。その際、職種にこだわらず、「市民団体で働く経験が将来役に立つのではないか」と考えて、チュニジアのNGOで働く環境教育の要請を選んだところ、卒業直前の2020年1月、合格通知を受け取った。

   ところが、世界的な新型コロナウイルス感染症の感染拡大で林さんの派遣前訓練は延期になった。語学や環境教育に関する勉強を続け、派遣再開を待ったが、「『きっと行ける』と思いつつも、やはり就職すべきかと葛藤を抱える時期でした」。

   派遣前訓練は合格通知から約1年半後の2021年夏から駒ヶ根青年海外協力隊訓練所で行われることになった。訓練所での訓練は、45日間と短く制約も多いコロナ禍の中の体制だったが、それでも「語学を重点的に勉強しながら、他の候補生との交流もできて、いい時間を過ごせました」。

   満を持して赴任したチュニジアでは、環境問題などに取り組む現地NGOのコルバ自然環境保全協会に配属された。林さんへの要請は、既存プロジェクトの管理と新たなプロジェクトの企画を支援すること。ただ、約30年の歴史がある同協会は、欧州各国から助成金を得て自発的にプロジェクトを管理・運営しており、「自分が必要ないくらいプロフェッショナルな取り組みをしている」というのが第一印象だった。

   カウンターパート(以下、CP)からは「意見や提案があれば何でも言ってほしい。興味がある活動に自由に参加して」と言われたが、もともと環境分野が専門ではないということもあり、最初から提案するのは難しかった。スタッフは各自の担当プロジェクトで忙しく、全体で企画を考えるような会議もなかった。

気候変動と自然災害についてのワークショップでプレゼンする林さん

気候変動と自然災害についてのワークショップでプレゼンする林さん

   林さんは「教えることよりも勉強すべきことが多い」と感じ、環境問題について自ら情報を集めて学ぶと同時に、「日本から来た自分にしかできないことをやろう」と考えた。そんな折、現地にある別の援助機関で働くチュニジア人の友人から提案されて着目したのが、気候変動に関する取り組みを、日本に多くの知見がある災害対策と絡めて実施することだった。チュニジアでも近年は自然災害が増えているものの、人々の間に気候変動との関係への意識が薄いと感じたことも背景にあった。

   友人と共に企画を練りつつ、配属先でも普段の会話の中でアイデアを口にすると、「忙しいCPやスタッフも、どうしたらプロジェクトの中に盛り込めるだろう、と考えてくれました」。企画への協賛者を探した結果、災害対策を含む気候変動への適応に関する地域の取り組みを、映像・音声配信サービス「Podcast」を通じて推進するプロジェクト「Green-Ness (Nessはアラビア語のチュニジア方言で『人々』の意)」が、南アフリカ共和国のNGOによる助成で実現できる運びとなり、林さんの帰国後に正式スタートした。

   経験や専門性が足りない中でも、勉強しながらいろいろ提案し、徐々に日本の事例などを教えてほしいと言われるようにもなったと振り返る林さん。自分にできることを見いだして活動した2年間だった。

「新卒での参加で、配属先の人たちの役に立てるのか不安を抱えていましたが、みんな私を温かく見守ってくれて、ラマダンの期間に自宅で伝統料理を振る舞ってくれたり、私が病気の時には病院まで連れて行ってくれたりと、単なる同僚ではなく家族のように接してくれました。20代での協力隊参加は、現地の人にかわいがってもらえるという意味でもよかったです」

   23年10月の帰国後は、国際協力に関係する機関での仕事を探している林さん。

「協力隊に参加して、国際機関やJICA、日本大使館の人が現地で実際にどのような活動をしているかを知ることができましたし、いろいろな人と出会って価値観の幅も広がったと思います。隊員は金銭面も含めてさまざまなサポートも得られるので、国際協力の分野に進みたいと考える人は、新卒でも協力隊に参加するというのは選択肢の一つだと思います」

応募者へのMessage

新卒での参加だからといって不安を感じ過ぎなくてもいいと思います。専門的な経験がなくても、日本の基本的な知識・技術を伝えたり、現地へ行ってから調べて身につけた情報を生かすこともできました。いろいろな人と出会うことで、人脈や自身の価値観の幅を広げられるという意味でも、協力隊への参加はお薦めです。


持って行ってよかったモノ

職種ガイド:環境教育

行政機関、自然公園などに配属され、教材・プログラム開発、イベントの企画、指導者層への助言、廃棄物処理の現状調査やゴミ処理・収集ルートの分析・モニタリング、エコツーリズムの提案など、多様な活動を行う。林さんは地域開発や環境保全に取り組むNGOに配属され、ESD(持続可能な開発のための教育)の考え方を取り入れたワークショップや、気候変動対策と防災を絡めた広報活動などに注力した。


Text=三澤一孔 illustration=サイトウトモミ 写真提供=林 貫太郎さん

知られざるストーリー