この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

料理

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:15人(累計:181人)
  • 類似職種:家政・生活改善、栄養士、食品加工

※人数は2024年1月末現在

CASE1

内山淳人さん

職業訓練校の学生の
食への視野を広げる

内山淳人さん
キルギス/2019年度2次隊・神奈川県出身

PROFILE
子どもの頃から料理好き。大学で環境教育を学んだ後、料理人を目指しイタリアンレストランに就職。約7年のレストラン勤務を経て協力隊に参加し、4カ月でコロナ禍により帰国。1年間の待機中は、協力隊OB・OGと共に任地の料理を紹介する『くらして初めて知った(ど)ローカルごはん』(Amazon電子書籍版とペーパーバック版)に参加。再赴任後に7カ月間、活動した。現在、ウズベキスタンにある日本料理店の料理長。

配属先:第10職業訓練校

要請内容:日本料理について詳しい知識を持った教師がいない職業訓練校の料理コースで、生徒と同僚教師に日本料理の正しい調理法と味つけを指導する。また、料理の種類は問わず、現地で入手可能な食材で調理できるものを指導する。

CASE2

松本やよい(旧姓 吉岡)さん

日系団体を巡回して
100以上の料理を紹介

松本やよい(旧姓 吉岡)さん
フィリピン/農産物加工/1974年度1次隊、SV/エクアドル/栄養改善/2010年度2次隊、日系SV/ブラジル/料理/2018年度1次隊・佐賀県出身

PROFILE
短大を卒業後、食品会社勤務を経て協力隊に参加。フィリピンで農産物加工品の開発などを行う。帰国後、病院勤務、管理栄養士の資格取得、公立大学への進学、特別養護老人ホーム勤務など多くの経験を積む。定年退職後、SVとしてエクアドルで貧困農村の子どもの栄養改善に携わる。任期中に旅行し興味を持ったブラジルで活動したいと日系SVに参加した。

配属先:バイア日伯文化協会連合会

要請内容:配属先に加盟している日系団体を中心にブラジル東北地域を巡回して日本料理の講習会を開催し、和食を普及すると共に、同地域の日本食レストランの料理の質向上のための支援を行う。

「料理」隊員は職業訓練校などに配属されて、基本的な調理技術、各国料理の調理法、食品衛生管理、栄養学などを座学や実習を通して指導する。配属先のニーズに即したレシピを工夫する力、授業計画を立てる力が求められる。また、飲食業振興のためにテーブルセッティング、接客サービスなどを指導することもある。

CASE1

実習を通じて料理人を目指す
学生に諸外国の料理を教える

   内山淳人さんの派遣先はキルギスの首都ビシュケクにある職業訓練校の料理コース。キルギス料理やロシア料理を教えることが主となっており、外国料理を教えられる教員がいないことが要請の背景だった。派遣から4カ月でコロナ禍により一時帰国となり、再派遣後に7カ月間、活動した。12人1グループ当たり全8回の調理実習を繰り返し、日本料理と自身の専門であるイタリア料理などを教えた。

   市内には日本食や中華、イタリアン、フレンチなど多くの分野の飲食店が増え続けているが、日本料理といえば「スシ」であり、生魚の入手が難しいためカニカマやアボカドを使った巻き寿司を指すことや、イタリア料理は「ピザ」中心で、他の外国料理も知る機会が少ないこと、地方出身の生徒は外国料理に対してより保守的な傾向があることを知った内山さん。

「将来、国内外で料理人として働く生徒たちに、どんな料理が日本や外国にあるのかを知って、食文化に興味を持ってもらいたいと考えました」

   日本料理については、だしの取り方など基本となるものを紹介しながら、「生徒たちは好みに合わない料理をあからさまに嫌がります。実習後もまた作ってもらえるように、自分の日本料理観を押しつけないことにしました」。

   校長に味見してもらってキルギス人の好みを探り、日本料理やイタリア料理、デザートまで幅広く教えた。評判が良かったのは、照り焼きチキン、チキン南蛮、ホワイトシチュー、しょうゆラーメン、天ぷら、お好み焼き、ガトーショコラなどだ。

「寿司以外の日本食に初めて触れた生徒や同僚が多く、新鮮に感じたようです。生徒たちはいつも楽しんで実習し、欠席することなく参加してくれました」

内山淳人さん

最大のピンチ(任期中盤)

語学力です。1年間の特別待機中もキルギス語学習を続けていましたが、再派遣後も語学力不足を感じました。調理実習の準備ではレシピの作成にとどまらず、食材購入の予算をもらうために材料の分量や価格だけではなく切り方まで詳細に記入した予算申請書を作成する必要があり、食器や道具類の手配も管理している部署に申請します。最初はそれぞれの担当部署がなかなかわからず、キルギス語がもっとできればもう少し楽だっただろうと思いました。


最高のやりがい(任期中盤)

職業訓練校で料理実習を行う内山さん

職業訓練校で料理実習を行う内山さん

1回の調理実習では4つの料理を作り、後片づけまで3時間で終えなくてはなりません。調理法をわかりやすく伝えられるよう、事前に食材を切って手順に沿って並べ日本のテレビの料理番組のように調理法を説明したところ、同僚教師が感心し、残してきたレシピも使って引き継いでくれています。また、キルギスでは遊牧民の暮らしを反映した羊や馬などの肉、伝統的な小麦料理などの食文化に触れることができ、料理隊員としての醍醐味を感じました。


CASE2

現地にある食材で
日系社会が求める「日本料理」を

   松本やよいさんの配属先はブラジル東北地域の日系団体を統括する組織で、主な活動は傘下の婦人会を対象にした和食の料理講習会の実施。中心となるバイア州は日本の面積の1・5倍。移動距離が長いため、1カ所に4、5日滞在し、材料の下ごしらえから婦人会メンバーが集まり、わいわいと楽しむ講習会になった。

   巡回は、日系人のさまざまな暮らしぶりを見る機会にもなった。都市部から遠く離れた農業地帯で暮らす3世が赤道直下で工夫しながらレンコンやゴボウなど日本の根菜を栽培したり、レモンを凝固剤に自作の木型で豆腐を作っている人もいた。松本さんはそうした和食への思いに真摯に向き合った。

「伝統的な和食の他に、親が作ってくれた家庭料理を自分も作れるようになりたい、出稼ぎに行った日本で食べたものを作りたいというリクエストがあり、100以上の料理を教えました」

   日系人が集中して住むサンパウロ州とは異なり、日本食材の入手が難しい上に高価なため、うどんやラーメンの麺の打ち方や、中華まんは皮の作り方から教えた。子どもからお年寄りまで大勢で集まるパーティー好きなブラジルの文化に合わせた料理として「おにぎらず」(※)を紹介したこともある。

「酢飯が苦手な人もいるため、寿司の代わりにおにぎらずを教えると、作り方が簡単で手も汚れないと好評でした」

   コロナ禍によって任期を4カ月残して帰国した松本さん。教えた料理をポルトガル語のレシピ本にするためカウンターパートと連絡を取り合って完成させ、JICAの協力によりブラジルで印刷した。その後、松本さんは日本でも自費出版し、ブラジル食材店や関係自治体で無料配布している。

※おにぎらず…皿や器にラップを敷き、上にのりをのせ、中心にご飯を広げ、好みの具材を真ん中に置き、のりの四隅を寄せて簡単にまとめる、にぎらずに作れるおにぎり。包丁で半分に切って盛りつけると見た目もきれいで、食べる時も手が汚れない。

松本やよいさん

最大のピンチ(任期序盤)

着任早々、3日間で約4万人が集まる日本祭りで日本料理の講習会をしてほしいと言われ、前日に会場に行くと、そこはゴミがたくさん散乱している部屋でした。担当者が出張中で引き継ぎがなされておらず、ガスやテーブルもなく冷蔵庫が1つあるだけ。まだポルトガル語をうまく話せなかったので、身ぶり手ぶりで掃除用具を借り、お祭りにブースを出している人たちにガスや水の引き方を聞きました。配属先スタッフは祭りの準備に忙しく手伝ってもらえず、途方に暮れました。


最高のやりがい(任期終盤)

講習会後に料理を味わう婦人会の方々

講習会後に料理を味わう婦人会の方々

一番嬉しかったのは、私が作ったピーナッツ豆腐を食べた日系3世の方が「懐かしい。おばあちゃんがよく作ってくれました。何十年かぶりで食べられました」と喜んでくれたことです。それから、地方での講習会で同じ地域に2回目に行った時、レストランを経営している日系の方が「前回教えてもらったラーメンをレストランで出すようにしました」と新メニューの写真を見せてくれたこともありました。私が教えたものにアレンジを加えて、ブラジル人に好まれるものに変えていました。

Text=工藤美和 写真提供=内山淳人さん、松本やよいさん

知られざるストーリー