【特集】青年海外協力隊事務局発座談会
企画調査員(ボランティア事業)とJICA海外協力隊
協働のカタチ

現役隊員が派遣国で最もお世話になり頼れる存在が、「在外事務所の企画調査員(ボランティア事業)」(通称:VC‐Volunteer Coordinator)ではないだろうか。青年海外協力隊事務局内で、VC経験のある職員に集まってもらい、VCの仕事全般、また隊員活動をうまく側面・伴走支援するコツを聞いた。

本座談会に参加してくださった、青年海外協力隊事務局在籍のVC経験者の皆さん

本座談会に参加してくださった、青年海外協力隊事務局在籍のVC経験者の皆さん
(写真左から)
渡邉宏和さん 隊員経験:なし VC 経験:ボリビア
太田貴子さん 隊員経験:ケニア/観光業/ 1999年度2次隊・熊本県
VC 経験:ブータン、パキスタン、フィジー、エジプト、モルディブ、ガーナ、ミャンマー
若井郁子さん 隊員経験:モルディブ/バドミントン/1996年度3次隊・埼玉県
VC 経験:ラオス、パキスタン、バングラデシュ、バヌアツ、エチオピア、モンゴル、モルディブ
榊原克利さん 隊員経験:カメルーン/コミュニティ開発/2018年度3次隊・愛知県
VC 経験:マダガスカル

企画調査員(ボランティア事業)の業務を知ろう

企画調査員(ボランティア事業)(以下、VC)は、「国際協力の表舞台」に立つJICA 海外協力隊を陰で支える「ボランティア事業のプロ」として、在外事務所などの拠点に勤務し、協力隊活動全般をサポートする。2024年2月現在、72カ所の在外拠点で166人のVC が勤務している。主な業務内容を「2023年度第2回企画調査員(ボランティア事業)募集要項」から見ていく。

■ 事業計画策定に関する業務
・該当国の開発課題の分析、他事業やスキームとの連携の検討
・国連や国際機関、NGOなど他機関との連携の検討

■ 案件形成・要請開拓に関する業務
・協力隊派遣に関する現地ニーズの確認(要請条件の調査や助言含む)
・相手国関係者との折衝(個別案件と事業計画の確認)

■ 活動支援、生活支援に関する業務
・安全対策や健康管理(情報収集や調査・分析)
・隊員の助言者・メンターとしての役割(コーチング)

■ その他
・JICA本部との調整、経理業務や事務処理
・必要に応じ、ボランティア事業以外の業務(技術協力、有償・無償資金協力、経理、調達業務などの一部)


【座談会Vol.1】
要望調査票作りから隊員の受け入れ準備、生活支援まで。
私たちは「何でも屋」と思っています。

編集室   上で紹介したVCの仕事を具体的に教えてもらえますか。

渡邉さん   VC業務は要請開拓と隊員の活動支援に大別されると思います。JICA海外協力隊はODAの一環なので、日本政府が定めた国別開発協力方針・事業展開計画に基づくことはもちろん、現地の社会課題や現場の声に寄り添った要請開拓、そして事業計画をじっくり時間をかけて作っていくことが大切です。

きめ細やかな調整業務をすればするほど事務作業も自然と増えてしまうので、そこを上手にやりくりするのも大事ですね。

若井さん   要請開拓を具体的に言うと、配属先となる政府機関やNGOなどを回って「要望調査票」を一つずつ作っていく業務です。場合によっては「新しいプロジェクトをやってもらう」といったざっくりした要望だったりするので、何度も訪問して課題やニーズをつかんで具体的な内容にしていき、なおかつ相手国政府からの正式な書類を取りつける必要があります。

太田さん   先方のニーズをしっかりとくみ取った上で要望調査票を作らないと、隊員が来た後でミスマッチが起きてしまいます。年に2回の隊員募集に向け、多くの要望調査票を丁寧に作るのはかなりボリュームのある作業です。

榊原さん   日本政府の事業展開計画と相手国のニーズを踏まえつつ、隊員が実際にどこで・だれと・どのように活動をするのかを想像しながら作成する必要がありますよね。

自分の要請が派遣国の課題のどの部分に当たるか確認しよう

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編集室   隊員にとって自分ごとになるのは、隊員支援業務かと思います。こちらはどんなことがありますか。

若井さん   例えば受け入れ準備です。隊員の活動場所を提供するのは相手国の役割ですが、執務室すら用意されていないことがあったりします。必ず現場に行って確認しています。

榊原さん   隊員の住居も同じですね。住居も基本的に配属先が用意することになってはいるものの、事務所で探す場合もあります。いずれにしても最終的に我々や安全管理担当者の目で現物を見て、安全面などで問題がないかも含めて確認します。

若井さん   隊員が住む家のドアの鍵を二重ロックにするために、鍵を買って取りつけるといったこともありますよね。とにかく私たちは「何でも屋」と思っています。

隊員が到着してからは、語学学校やホームステイでの「現地語学研修」があります。そのアレンジも私たちの仕事ですし、バスの乗り方や買い物の仕方なども教える必要があります。最寄りの病院の場所と利用方法も伝えます。

渡邉さん   生活面のケアは隊員の安全と健康にダイレクトに影響するのですごく大事ですよね。隊員は現地の方たちと同等の水準で生活しますが、それでいて最低限の安全と健康は堅持する、という微妙なバランスを取る必要があるんです。

榊原さん   配属先や政府機関への表敬訪問の手配や引率も欠かせません。病院や警察などにも「この隊員に何かあった時はよろしくお願いします」と挨拶に伺います。1日で何件も回るので、その日は隊員本人も私たちもクタクタになります。

渡邉宏和さん
渡邉宏和さん

PROFILE
大学休学中に欧州への遊学(英国、スペイン)と南米での在外公館派遣員(ボリビア)を経験。卒業後、在ボリビア日本国大使館開発協力班やJICAボリビア事務所ボランティア班で国際協力に従事。9年間の海外勤務を経て2019年に帰国し、青年海外協力隊事務局にて事業評価や企画調査員(ボランティア事業)の赴任前研修を担当。21年に職員登用され、現在は同青年海外協力隊事務局で南部アフリカ地域の国担当や栄養分野の担当のほか、ナショナルスタッフ研修の企画・運営などを行っている。

▶渡邉さんのキャリアパスはこちらで読めます

編集室   隊員からの相談事はどのタイミングから多くなる印象がありますか。

若井さん   だいたい任地に着いて2、3日のうちに何かあります(笑)。「家の水が出ません」とか「大家さんに家賃を請求されました」など、生活周りからでしょうか。

渡邉さん   個人差はありますが、特に最初の3カ月~半年は、今まで体験したことのないような環境の中で精神的にも肉体的にも不安定になる場合が多いと思います。

繰り返しになりますが、本人の意思を尊重しながら最低限の健康と安全をどのように担保するかは、すべてのVCが頭を悩ませる点だと思います。

榊原さん   性格的に助けを求めるシグナルを出せない人もいるので、まったく相談がないのも心配ですよね。現地になじんでもらうためにVCは世話を焼き過ぎないようにしていますが、隊員の様子は常に気にしています。

太田さん   最初の3カ月程度は任地から離れないことを原則とするルールを設けている事務所もあります。現地での生活と人間関係に慣れることが活動の大前提だからです。

活動報告会の仕切りや隊員総会の手配などもVCの仕事の一つ

活動報告会の仕切りや隊員総会の手配などもVCの仕事の一つ(写真提供=原田真梨子さん)

渡邉さん   在外事務所から遠い任地で活動する隊員も多いので、協力隊事業に理解がある現地のキーパーソン(具体的には日本で研修したことのある方や技術協力プロジェクトの関係者など)を隊員の周りに配置しておくこともとても有効です。信頼できる人間が近くにいてくれていると思うだけで、 VCも気持ち的に余裕が生まれます。

若井さん   現地のキーパーソンに何かお願いする時には、在外事務所のナショナルスタッフ(以下、NS)に動いてもらうこともあります。とはいえ、VCは基本的に気が休まることがありません。寝る時もベッドの脇に携帯電話を置いて寝て、隊員に何かあったらすぐに対応できるようにしています。

太田さん   VC同士も密接に連携しています。例えば隊員からの相談事や何かトラブルが起きたという時、男女それぞれのVCがいる場合は、内容によっては男性が、または女性が対応するなどの役割分担が可能です。

当然、VCも事務所も隊員に対して一枚岩で当たります。人によって対応や言うことが変わったりしたら、隊員からの信頼をなくしてしまいます。隊員が依存も孤立もしないように、組織として隊員を見守っています。

榊原さん   締め切りがある事務仕事も膨大にある中で、隊員という現場は待ってくれませんからね。

VCは常に優先順位を把握しながら動く必要があります。隊員から質問や提案があり、事務所としての回答を要する場合などは、上長に確認した上で回答をするようにしています。

太田さん   隊員が書く活動報告書は2年間で5回の提出義務があります。これにもVCがコメントを書きますが、報告書の内容によってはかなり考えて書くようにしています。

若井さん   中間面談や活動報告会のアレンジも私たちの仕事です。飛行機のチケットを紛失してしまう事があるなど、やっぱり必ず何か起きるんですよね。新隊員が落ち着く頃にはその次の隊次の隊員たちが赴任してきたりするので、また受け入れ準備も必要です。

渡邉さん   意外と思われるかもしれませんが、榊原さんが言われるようにVCには実務の力がとても大切なんです。隊員支援と同時並行でいろいろな業務をこなす必要があり、ルーティン業務だけでも年間スケジュールはびっしり。予算管理や広報発信、有事対応などまで含めると…。

太田貴子さん
太田貴子さん

PROFILE
国際会議運営会社や旅行会社など民間企業勤務を経て、協力隊に参加。ケニアのモンバサにある職業訓練校の観光コースで講師として活動を行う。帰国後は、複数のJICA在外拠点での企画調査員(ボランティア事業)業務のほか、二本松訓練所、青年海外協力隊事務局での国内支援業務など、現在まで20年以上にわたりJICAボランティア事業に関わっている。2023年6月より青年海外協力隊事務局海外業務第一課で東南アジア・大洋州地域6カ国の国担当として、2度目の勤務についている。


つづく(座談会Vol.2のページへ)

Text=大宮冬洋 Photo=ホシカワミナコ(本誌)

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