失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:約束した予定を守ってもらえない

今月のお悩み

▶セミナーに来ると言ったのに来なかったり、来たとしても大幅に遅れるという人が多いので、
イライラします(環境教育/女性)

   地域の人を集めてコンポストの作り方を教えたり、ゴミの分別の指導をしたりといった講習をしています。

   ただ、開催日に「行くよ」と言ってくれていた人が来なかったり、集合時間になっても集まらなかったり、講習会中もあまり熱心ではなかったり。結果的にコンポスト作りも続く人がほとんどいません。

   先輩隊員には「あるある話」と言われて慰められますが、イライラすることが多いので、気持ちの切り替え方などがあれば知りたいです。

今月の教える人

 岡本龍太さん
岡本龍太さん
タンザニア/コミュニティ開発/2017年度4次隊・広島県出身

大学卒業後、大手生命保険会社に就職し、営業や人事を担当。2020年3月に協力隊活動を終え帰国。協力隊経験を生かしてタンザニアで仕事をしたいと、井﨑 奨さん(タンザニア/体育/2016年度3次隊)、三戸勇輝さん(タンザニア/コミュニティ開発/2016年度4次隊)と20年12月にWATATU株式会社を設立し、代表取締役に就任。タンザニアの農業事業のほか、日本の中小企業の海外進出支援や協力隊OVの就職支援などを展開する。

岡本さんからのアドバイス

▶まずは自分のイライラを書き出してみてください。
俯瞰して自分の思考について考えてみよう

   タンザニアOV3人でつくった僕たちの会社、WATATUでは「協力隊転職ナビ」事業として現役隊員の方やOVに向け就職活動や転職活動の支援をしています。事業の一環として現役隊員の活動の悩みに対応すべく、僕たちにモヤモヤをぶつけながら思考を整理してもらう「壁打ち企画」を実施したり、「本当に必要とされる活動とは?」などのテーマを立てて現役隊員向けのオンラインセミナーを開催したりしています。そのため、OVや現役隊員の方からさまざまな相談を受けます。

   皆さんを悩ませている任地の人間関係のイライラは大きく分けると四つあります。「物やお金をねだられる」「約束や時間を守ってもらえない」「一生懸命やってくれない」「(からかいで)ばかにしてくる」で、この悩みは僕たちの隊員時代はもちろん、それ以前の隊次のOVも感じてきたことだと思います。

   僕からのアドバイスは「書き出し」し、「自分はこういうことがつい気になってしまう」と客観視すること。書くことでたくさんあると思った悩みが案外少ないことに気づいたり、言葉にしてみると大したことではなかったと感じるようになります。

   例えば、「自分は時間や約束を守ってもらえないことがどうしようもなく嫌」ということを書き出したとします。次に「それはなぜか」と理由を深堀りしてみます。「自分は子どもの頃から時間や約束を守るようにしてきた。それが人との信頼関係を築く上で最も基本的なことだと思っている。だから、時間や約束を守らない人について相手との信頼関係を築こうとしていないと感じてしまうんだ」というように、自己分析するんです。

   ここまでやるだけでも、冷静さを取り戻して対応策を考えられるはずですが、さらに状況が許すなら、相手と対話してみましょう。「私は時間や約束を守らない人を見るとイラッとしてしまうんだ。なぜなら、小さい頃から時間や約束を守るように言われてきて、それが信頼関係を築くために大事だと思ってきたんだけど、どう思う?」などと問いながら、相手の意見を聞いてみてください。

   僕の経験からすると、時間に関しては「バスが来ない」「家事が終わらなかった」などの説明をされたり、「なんで君はそんなに怒るの?」と逆に質問されたりして、わかってもらえないことのほうが多いと思いますが、それでも相手に自分の生きてきた環境や考え方は伝わるので、その後の人間関係は違ってくるんじゃないでしょうか。

   あなたも相手の背景を聞くことで、少し相手に歩み寄れるんじゃないでしょうか。

   僕はタンザニアで改良かまどの作り方を広める活動をしましたが、講習会をこの日にやると伝えておいても誰も来ない。一緒に行動しているカウンターパート(以下、CP)も「来ないから別の日にやろう」と全く怒らない。しかも、朝のCPとの待ち合わせも大抵CPが遅刻し、「朝食を食べてないなら、食べていくぞ」って。「出ないと間に合わないよ」と伝えても、「食べていかないと一日持たないだろう」って。そんな発想なので、「なんで僕一人だけこんなに怒ってたんだ?そもそも自分の感覚がマッチしていないのかも」と思うようになりました。

   一方で、弊社の現地スタッフは皆、始業時間を守ります。最初からそうだったわけではなく、対話して「全員が時間どおりに来て仕事を始めたほうが効率はいいし、仕事がスムーズに進むので他のことに時間を使える」ということが共有できてから、遅刻がなくなりました。

   対話の注意点としては、「自分の考えが絶対に正しい」という思い込みを捨てること。「自分はこういう背景でこれが正しいと思うんだけど、あなたはどういう背景でそういうふうにしているの?」そこを共有し合って初めて「じゃあ、どうしようか?」と考えることができます。

   任期序盤の頃は、異文化にモヤモヤすると、「これだから〇〇人は……」などと思いがちですが、日本人でも人によって考え方や行動が違うのと同じで、派遣国の人もそれぞれです。活動していくうちに「この人は約束を比較的守ってくれるから自分にとってやりやすい」といったことがわかってきます。そこを突破口に活動が広がっていくので、自分の感情の客観視と対話を心がけてみてください。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=岡本龍太さん ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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