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「コロナに負けるな!」ガボン・JICAボランティアによるリモート活動

2020年10月10日

JICAガボン支所長 米崎 英朗

ボランティア全員が緊急退避

新型コロナウィルスのアフリカ感染拡大は3月ごろから加速し、ガボンでは3月12日に第一例が報告され、政府は直ちにコロナ対策委員会を設置し対応を開始しました。巷で空路を含む国境閉鎖の噂が飛び交う中、事務所では奇跡的にトルコエアー特別便を確保することができ、3月19日にボランティア全員を退避させました。その日に空港は閉鎖。まさに危機一髪でした。

しかし、任期半ばで心の整理もつかないまま退避しなければならなかった、ボランティアの心境はいかばかりだったでしょうか。私もOBですから、その無念な気持ちは痛いほどわかります。日本人スタッフ一人になった事務所では、ボランティアのために何をすべきかしばらく模索し、彼らの喪失感を少しでも埋め、引き続きすべての配属先とつながっていられるような環境を維持していくために、やるべきことをやると決めました。

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3月19日空港にて

「コロナに負けるな!」を合言葉に

4月、ガボン政府はコロナ対策措置をさらに強化し、国境の閉鎖に加え、国内移動制限、夜間外出禁止、公共交通機関の乗車制限、10名を超える集会の禁止、等の厳しい措置を打ち出しました。このような中、事務所はすべての隊員配属先および関連省庁にレターを送り、首都リーブルビルについては私とナショナルスタッフで配属先をひとつひとつ訪問の上、急な退避に至った経緯を説明して回りました。また養老院や児童養護施設には石鹸やおむつなどの緊急支援物資を配布しました。

5月以降は、同様の説明のために内務省の許可を取り、地方にも出張しました。このころ事務所でもネットミーティングができる環境を構築し、各配属先を回る際に、必ず退避中の隊員と繋ぎ、対話ができるよう心掛けました。幸いガボンは光ケーブルが設置されており、インターネット環境が良いので助かりました。ボランティアたちは、久しぶりに会うカンターパートや自分の配属先の様子を、画面越しに見ることができて嬉しそうでした。

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引き渡し式

こういった一連の活動は、「コロナに負けるな!」を合言葉に、以後も定期的に実施しています。そのような中、先日ようやく一つのプロジェクトが実を結びました。それは、地方都市ランバレネに派遣された助産師隊員のコロナ対策支援です。ここは、かつて献身的な医療奉仕活動でノーベル平和賞を受賞したシュバイツアー博士が病院を開いた街。隊員は、この街の母子保健センターで妊産婦で活動を始めて、僅か3か月目に退避となってしまいました。

事務所では、退避中の彼女と密に連絡を取りつつ、同センターに対するコロナ対策支援の準備を行い、簡易手洗いタンク、石鹸、などの調達のほか、手洗い啓発パネルを作成しました。そして9月、ようやく引き渡し式にこぎつけました。当日は、州保健局長他カウンターパートの皆さん、また日本からは同助産師隊員他、同OG、調整員もネットで参加しました。現地関係者からはお礼の言葉が述べられ、同隊員もフランス語で立派なスピーチを行いました。

なお、同様のコロナ対策支援は、別途小学校・幼児教育隊員配属先に対しても行う予定で準備を進めていますが、現在教育機関は閉鎖されているため、11月に予定されている開校後に引き渡しを実施したいと考えています。

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日本からもネットで参加

アフリカ・ガボンのコロナ感染状況

アフリカで初めて感染者が見つかったのは2月14日(エジプト)。その後大陸全体で感染拡大が始まり7月にピークを迎えて以降は、新規感染者数は減少傾向にあります。10月3日時点のアフリカ54か国の累積感染者数は1,506,887人(致死率2.4%)。むろん楽観は禁物ですが、多くの国が脆弱な医療体制にも関わらず、感染をこの程度で食い止めていることは、私は評価に値すると思っています。

色々な文献・論文を読んでみると、アフリカの感染が比較的抑えられている理由として、ロックダウンなどの措置や医療体制の整備が早急に行われたこと、なにより過去アフリカ諸国がエボラ出血熱やマラリアなど深刻な感染症に苛まれてきたゆえに、すでにコロナに対抗する「準備」ができていたこと、と分析しています。また、これまで日本はじめ各援助国が、人材・インフラ面でアフリカ保健医療に膨大な援助を行ってきたことも、コロナ感染拡大を食い止める一助となっていると思います。

さてガボンは3月12日に第一例が報告され、現在の累積感染者数は8,808人。死亡は54人で、致死率は0.6%と低くなっています。ガボン政府は、感染確認後直ちにコロナ対策委員会を設置し、各種措置を早急かつ厳格に実施してきました。最近委員会が公表した左のグラフは1週間毎のPCR検査総数に対する陽性率の推移ですが、5月下旬~6月上旬をピークに9月では1%未満にまで下がっています。したがって、現時点では感染拡大を抑えられていると解釈していいでしょう。

特筆すべきはその重篤化対策で、10万人当たりICU33床(アフリカ54か国中1位)、同人工呼吸器数は4.7台(同3位)となっています。(資料:5月ロイター通信)

ちなみにコロナ対策委員長は就任時保健次官でしたが、その功績を評価され7月の内閣改造で保健大臣に抜擢。実は、同大臣には次官時代からJICAのパートナーとして、ボランティアの帰国報告会にも出席いただくなど、ご支援をいただいてきました。

また大臣は、当地国際赤十字代表として東北大震災の際は、ガボンの義援金を取りまとめてくれた日本シンパでもあります。JICAはこれから母子保健分野の協力を強化するところですので、大変心強く思っています。

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コロナ陽性率の推移(3月12日~9月12日)

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ギー 保健大臣を表敬

これからも、ガボンと日本をつなぐ

ボランティア配属先回りは、最低でも四半期に一回行っています。もちろん技術協力プロジェクトなど、ボランティア以外のサイトも訪問します。地方出張の際は、あまり時間を取れませんが、10分でもいいから日本人の私が顔を見せてボランティア・JICAとつながっているという意識を、カウンターパートに持っていただくことが大事。そしてどこに行っても感じることは、みなさんのボランティア・専門家に対する家族のような温かい気持ちと、ボランティアたちのガボンを思う熱い心です。

先日も野菜栽培隊員の畑を訪ねました。ここは前述したシュバイツアー病院の敷地内にあり、病院食向けの野菜を栽培しています。ボランティアは、着任時草ぼうぼうで荒れ放題だった畑で、カウンターパートに根気強く土壌の整備と栽培方法を教えましたが、急な退避から3か月も経っていたため、正直私自身もまた元に戻っているのでは、と心配していました。

しかし現場では、なんと写真の通り立派に運営管理されていることを確認。パソコン画面で現場を見た隊員は、とても喜んでいました。ボランティアにとって、こんなに嬉しいことはありません。 私もとても感動しました。

彼に限らず、医療関連施設、福祉施設、教育機関、水産施設、柔道場など、他の配属先を回るたびに、ボランティアたちが残していった足跡を感じ、毎回とても感銘を受けています。

最近、この活動から一番元気をもらっているのは、ほかでもない自分であることに気づきました。

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かつてシュバイツアー博士が開いた野菜畑

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技術移転の成果が確認でき、隊員も満面の笑み

ボランティアのために、いまJICAが行うべきこと

ボランティアは、帰国後、国際協力人材としての活躍や、任国での経験を日本国内に還元することが期待されています。これからの日本、また世界にとって極めて貴重な人材です。そのためには、彼らの活動を悔いのない、充実したものにしなければなりません。したがって、退避したボランティアたちが少しでもでも達成感が得られるよう、力を尽くすことがJICA在外事務所の役割だと認識しています。

コロナは、無情にもボランティアとカウンターパートを引き離しましたが、彼らの持続する情熱には絶対に踏み込ませない。

いつかコロナが去り、隊員とガボンの人々が、またふたたび笑顔で充実した毎日を過ごす日々を信じて、「コロナに負けるな!」 活動を続けていきたいと思います。

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またこんな穏やかな日々が戻りますように