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COVID-19により影響を受けている子どもたちへの支援について

2020年10月30日

モンゴル事務所
次長 吉村徳二

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モンゴルでのCOVID-19感染は累計340件(10月30日時点)発生しているが、いずれも外国からの入国者の持ち込み事例であり、モンゴル国内ではモンゴル人同士の感染や死者は発生していない。約330万人という人口規模の小さい国とはいえ、COVID-19対策では成功している国の一つである。モンゴルは医療体制が脆弱で、かつ毎年のように呼吸器系の感染症やペスト等の人間・家畜に共通する伝染病が発生するためCOVID-19に対する警戒心が強いモンゴルは、国境封鎖や国際定期便の運航停止などの措置を早期に実施してきたことが成功の要因と思われる。

その一方で、様々な課題も生じている。2020年1月には教育機関も閉鎖され、子どもたちはテレビ等を通じての遠隔での授業を受けることとなった(注:9月1日より授業は再開している)。遠隔授業に不慣れな教師も生徒たちの学習の理解状況を確認できず多くの子どもが授業についていけなかったり、親が出勤し家に残された子どもが電気や火災の事故に巻き込まれたり、経済的に窮した家庭では子どもヘの家庭内暴力の増加等の社会問題がマスコミで取り上げられるようになった。

このような状況下、COVID-19により特に影響を受けやすいモンゴルの子どもたちに対し、JICAとして何か出来ることは無いか、モンゴル事務所のスタッフでアイデアを出し合い、子どもたちを助けるための支援を積極的に展開している。

一つは貧困層が多いといわれているゲル地区住民に対する、国産野菜の普及促進のための調査である。「農牧業バリューチェーンマスタープランプロジェクト」のプレパイロットプロジェクトとして7月下旬から約1か月にわたり実施したもので、ゲル地区住民約100世帯、600人に対し、モンゴル国産の食材やお弁当を週に2回配布(食材は1回)し、どのような国産の食材がゲル地区住民に受け入れられるかを調査した。調査対象はホロー(地区)行政の協力を得、社会的な脆弱層である多数の子どもや障害児のいる家庭を中心に選定した。アンケートでは食材の嗜好に関する有益な調査結果が得られたのみならず、配布期間中は家庭内で多かった喧嘩や口論も少なくなったとの感想が寄せられた。特に学校や幼稚園での軽食が提供されない夏休み期間中であったために、本パイロットプロジェクトは経済的窮状にあるゲル地区住民の人道的な支援効果もあったといえる。

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お弁当を食べる子供たち

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プレパイロットプロジェクトを実施したNGOのスタッフの方々と

もう一つの取組は、視覚障害児への支援である。既述のとおり休校措置期間中モンゴルの子どもたちの学習は主にテレビ等による授業放映に頼ることとなった。休校措置には特別支援学校も含まれているが、TV授業には手話通訳が配置され、知的障害児・身体障害児向けの授業教材は別途作成されている一方、視覚障害児への特段の配慮はされていなかったため、多くの視覚障害児が授業から取り残される恐れがあった。そのため、在宅でも学習可能な環境を提供するために、モンゴル語対応のDAISY(アクセシブルな情報システム)機材を調達し、16歳未満の視覚障害児や子ども、教師、父兄を対象に使用方法の研修を行うことにより学習環境の整備を支援した。

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DAISYを使用する生徒たち

モンゴル国内での規制措置はほぼ緩和され、9月より教育機関も活動を再開し通常の対面型の授業に戻ったが、今後の状況や例年多発するインフルエンザや肺炎等の感染症の流行次第では、遠隔のTV授業に戻ることも想定される。COVID-19と共存しつつ、社会的に脆弱な立場にある人々を誰一人も取り残されない社会モデルを構築するためにも、JICAとしても新たな支援モデルを模索していきたい。

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DAISYを使用する生徒たち