開催日時:2017年6月10日(土)14:00〜17:30
会場:JICA関西国際センター ブリーフィング室
主催:REDD+ プラットフォーム(事務局:JICA/森林総合研究所)
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「国際協力ソーシャルビジネスカンファレンス 〜開発途上国の課題を解決するビジネスの視点を学ぶ〜 in 神戸」が、6月10日(土)、JICA関西国際センター(兵庫県神戸市)で開催されました。このカンファレンスは、『森から世界を変える REDD+ プラットフォーム』(事務局:JICA/森林総合研究所)が主催する2017年度の企画である「森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード」プロジェクトのキックオフイベントです。
「森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード」では、イノベーティブなマインドを持つ若者(18歳~39歳)の参加を募集しています。まず、7月に開催されるワークショップにおいて、途上国で森林保全を実践している企業やJICAからの報告を通して途上国の森林保全の現状を知り、『森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード』総監修を務めるビジネスプロデューサーの谷中修吾氏などからソーシャルビジネスのフレームワーク作成について学んだ上で、途上国の森林を保全しながらビジネスとしても成立するイノベーティブな「ソーシャルビジネス」のアイデアを提案してもらうプロジェクトです。
カンファレンスの冒頭では、東京で参加してくれたパックンマックン(『森から世界を変えるREDD+ プラットフォーム』のオフィシャルサポーター)から「東京のカンファレンスは楽しく盛り上がりました。神戸のみなさんも楽しんでください!」と伝えるビデオメッセージが紹介されました。
神戸のカンファレンスには51名の若者が参加してくれました。谷中修吾氏によるイノベーターTalkではさまざまなソーシャルビジネスの事例や、社会の問題を解決するソーシャルビジネスのポイントを解説。続いて、豊嶋絵美氏(JICA地球環境部)と中嶋弘光氏(UCC上島珈琲株式会社)がエチオピアの森を守るための「森林コーヒー」プロジェクトを紹介。宍戸健一氏(JICA関西国際センター 所長)が、地球温暖化や世界の森林減少の現状と、REDD+ について解説するプレゼンテーションを行いました。
最後に、日本におけるREDD+ 推進のキーパーソンでもある松本光朗氏(森林総合研究所 関西支所長)を迎え、豊嶋氏がファシリテーターとなって登壇者のみなさんによるパネルディスカッションと会場からの質疑応答が行われました。会場からは興味深い質問が相次いで、集まった参加者たちの森林保全とソーシャルビジネスに対する真摯な姿勢が感じられる、有意義なカンファレンスとなりました。
パックンマックンからのビデオメッセージに続き、宍戸健一氏による「イントロダクション」では、参加者のみなさんに「森林保全とソーシャルビジネスを考える有意義な時間にしていただきたい」という思いとともに、このカンファレンスの目的などが説明されました。
またこの日、会場にはこの後の「プラクティスTalk」で紹介されるエチオピアの森に自生するコーヒーの木から採取された豆を使った「森林コーヒー」が、UCC上島珈琲株式会社のご協力で用意されていることが紹介されました。
「プラクティスTalk」では、エチオピアにおける「森林コーヒー」の取組が紹介されました。エチオピアにおける急激な森林減少への対策としてJICA(国際協力機構)は2003年からジンマ県ベレテ・ゲラ森林優先地域において、参加型森林管理の支援を実施しています。その中で、JICAは野生のコーヒー(森林コーヒー)を活用した森林保全の支援を行っており、マーケティングやコーヒーの品質向上支援においてUCC上島珈琲株式会社の協力を頂いています。
JICAの本部でこのプロジェクトを担当する豊嶋氏(JICA地球環境部)は、エチオピアの民族衣装をまとって登壇。なぜ、JICAがエチオピアの森を守る取組を行っているのか、そして、このプロジェクトでどんな取組が行われているかといったことが説明されました。
エチオピアでは19世紀には国土の半分以上を占めていた森林が、人口増加や農地拡大、薪炭の過剰採取などによって急激に減少しています。JICAが進めているプロジェクトでは、住民参加型の森林管理ルールを明確にするとともに、森の中に自生する天然のコーヒーの木から採取するコーヒー豆(森林コーヒー)に、国際環境NGOが発行する『レインフォレストアライアンス』の認証を取得してプレミアム価格で販売できるビジネスモデルを策定しています。
認証を維持するためには森を守ることが必要であり、現地の人たちにとっても、森を守ることが自分たちの生計向上に繋がる仕組みを構築することができてことが、わかりやすい事例として紹介されました。
「森林コーヒー」は、現地の人たちが広大な森林に入って採取してきますが、自然に生育している豆を採取してくるので、プレミアム価格で取引されるための品質を維持、管理するためには、専門的なノウハウが不可欠です。豊嶋氏に続き、UCC上島珈琲株式会社の中嶋弘光氏から、実際にどのような取組を行っているかなどが説明されました。
UCCがこの取組に参加した2011年の当初は、収穫したコーヒー豆は成熟度がバラバラのものがそのまま出荷されていました。未熟だったり過度に成熟した豆(欠点豆)が混ざっていると、コーヒーの味を損なうことがあります。そこで、収穫方法やその後の仕分け、処理方法などに関するセミナーを行って指導。着実に品質向上を実現しています。
品質管理を徹底した最上級の豆は「Top of Top」としてブランド化されています。上質なコーヒー豆が高値で取引されることで、現地の生産者のモチベーションが向上し、さらなる品質改善の力となり、着実な生計向上に結びついていることが紹介されました。
続いて、JICA関西所長の宍戸健一氏のプレゼンテーションでは、地球にとって森林が果たしている役割についての説明があり、続いて、世界森林減少の現状や、森林保全のために1970年以降、JICAがどんな取組を行ってきたかが紹介されました。
当初は植林への支援などを中心に取り組んできたものが、1990年代からは現地の住民参加型の森林管理への取組となり、さらに、今ある森を守ることにインセンティブを与える「REDD+」へと発展してきた流れなどをわかりやすく解説。発展途上国の森林保全は「援助」だけで実現することが難しく、だからこそREDD+ような、森林を保全することで現地の人にインセンティブが与えられる取組に意義があり、今回のカンファレンスや「森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード」のテーマである、森林保全とビジネスモデルの両立が不可欠であることが説明されました。
また、東京でのカンファレンスで紹介された兼松株式会社などによるインドネシアでの取組や、JICAとJAXAが連携した人工衛星『だいち2号』を活用した熱帯林監視システムなど、日本が積極的に推進するREDD+の取組などが具体的に紹介されました。
「日本国内の森林保全の現状や課題」について、森林コーヒーが取得している「レインフォレスト・アライアンスの概要」などについて、さらには「ソーシャルビジネスを立ち上げる中で、ビジネスとしてマネタイズするためのポイントは?」など、参加者のみなさんの真摯な質問に登壇者が回答し、充実した論議が交わされました。
ソーシャルビジネスの進め方に対する質問への谷中氏の回答として示された「ソーシャルビジネスの成果として大切なのはキャッシュだけでない。社会的な課題を解説するための持続可能なソリューションを生み出し、たとえば現地通貨のような付加価値を組み合わせていくことも重要」というポイントは、7月に開催される「森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード」のワークショップにも通じる示唆となりました。
東京でのカンファレンスでは、ソーシャルビジネスのスキームを構築するためには「問題解決への強い思いとともに、自らが楽しむことも大切」というポイントがクローズアップされました。今回、神戸でのカンファレンスでは、さらに持続可能な取組を発想して発展させていくために、より具体的なビジネススキームについての議論が深まった印象です。
カンファレンス終了後に約1時間、登壇者と参加者がコミュニケーションを図るための交流会の時間が設けられました。UCCが用意してくれた「森林コーヒー」をいただきながら、会場内のあちらこちらで会話の輪が作られます。何人か、参加者の感想をご紹介します。
久米美希奈さん(右)と関口佳那さん(左)は、徳島県の高校2年生。昨年の夏休み、久米さんがJICAの体験プログラムに参加したことをきっかけに国際協力への関心を広げ、今回、関口さんを誘って参加してくれました。
「国際協力と森林保全の大切を具体的に知ることができました。これから、自分にできることを考えてみたいです」(久米さん)
「どんな課題を解決したいのかしっかりと考えて取り組むことの大切さを感じました。今日の経験を、大学進学の進路決定などにも活かしたいと思います」(関口さん)
中村俊一朗さんは、IT企業でシステムエンジニア。学生時代に海外ボランティアの活動に携わったことがあり、ソーシャルビジネスにも興味があって、今回のカンファレンスに参加してくれました。
「谷中さんのプレゼンテーションで提示された具体的な事例が興味深かったです。キャッシュだけではない価値を生み出すことが大切であることや、企業との関係構築など、普通のビジネスにも参考になる点がたくさんあったと思います。7月のワークショップにも、ぜひチャレンジしたいですね」
大崎真幸さん(右)小畑皓平さんは、神戸大学大学院で建築を専攻しています。東日本大震災の復興支援で「失われた街 模型復元プロジェクト」を手掛けており、森林保全や国際貢献にも興味あるということで、カンファレンスに足を運んでくれました。
「私は建築を学んでいるので都市に目を向けてしまいがちですが、森林を守りながら生計を向上させるソーシャルビジネスのあり方には新鮮な発見がありました。森林保全の取組からの発想は、建築にも応用できるところがありそうな手応えも感じています」(大崎さん)
「震災復興の模型復元プロジェクトを通じて、コミュニティなどソフト面の大切さを感じています。森林保全におけるソーシャルビジネスの事例でも、やはり現地のコミュニティとの信頼関係などが重要であることを知り、ますます興味をもちました。7月のワークショップにも参加して、街づくりにまで視野を広げたビジネスモデルを考えてみたいですね」(小畑さん)
村上遙香さん(右)と冨田聖夢(みゅう)さん(左)は、神戸市内の高校2年生です。今回は、スーパーグローバルハイスクール(SGH)のプログラムの一環として参加してくれました。
「ソーシャルビジネスについての研究をはじめたばかりなんですが、今日は、たくさんの事例を知ることができてよかったです。とくに、ソーシャルビジネスでは直接的な利益だけではなく、間接的な利益を生み出すことが大切という点が印象に残りました」(村上さん)
「ソーシャルビジネスの立ち上げにはスピードも大事。年齢も関係ないという点に勇気をもらいました。もし可能であれば7月のワークショップにも参加して、もっと詳しくビジネスの進め方を学んでみたいです」(冨田さん)
全員の声をご紹介できないのが残念なほど、神戸でのカンファレンスも、東京同様にとても有意義な時間となりました。いよいよ、7月に開催される「森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード」のワークショップは、現在参加エントリーを受付中(下記リンク参照)です。
応募資格の年齢は18歳〜39歳となっていますが、今回の高校2年生のみなさんのように、真摯にソーシャルビジネスと森林保全を学ぼうとする方であれば、オブザーバー的にご参加いただけるようにすることも検討中ですから、まずは指定のフォームにてエントリーしてください。意欲あふれる方のエントリーをお待ちしています。