『森から世界を変える
ソーシャルビジネスアワード』
インドネシア・スタディツアー
REDD+オフィシャル特派員の
経験・知見を共有するための
帰国報告座談会レポート(第2回)

インドネシアの森林と
ソーシャルビジネス、
行って、見て、
どう感じた?

自らのビジネスアイデアの可能性を、現地で実際に探って来るという大きな目的を持つREDD+ オフィシャル特派員。インドネシアでのスタディツアーに参加した4人の声を、座談会スタイルで紹介します。

2017年9月30日、無事インドネシアのスタディツアーから帰国したREDD+オフィシャル特派員の4人を迎え、帰国報告座談会が行われました。

座談会には7月のワークショップや8月のプレゼンテーションの参加者、昨年のREDD+オフィシャル特派員も加わり、充実した座談会になりました。その様子を2回にわたりご紹介します。

第2回は自分たちのビジネスアイデアの実現可能性について、現地でどのように感じたのか、そして、途上国でのソーシャルビジネスはどれくらいのポテンシャルを持っているのか、をお伝えします。

第1回はこちら

スピードボードから見た風景

黒岩健一さん 今回私達は、熱帯林専門のVRコンテンツを作るという自分たちのアイデアの妥当性を検証するため、実際にVR撮影をインドネシア各地で行いました。カリマンタンのクタパンでは、市内からグヌンパルン国立公園につながるシンパン川をスピードボードで川下りしたのですが、その際、川沿いの樹木上にテングザルを見つけました。また、国立公園内の森に入った際にはオランウータンを見つけることもできました。VRコンテンツとして、熱帯林や熱帯林に住む動物を、まず撮影しました。

参加者 テングザルはたくさんいたのですか?

高橋美佐紀さん 今回はかなりの数のテングザルを見ることが出来ました。テングザルを近くで見ることはなかなか難しいですが、それでも木が揺れていると見つけやすいですし、鳴き声も聞こえました。


写真前から赤塚さん、門田さん、黒岩さん、高橋さん。インドネシアの赤道モニュメント前で。

赤塚千春さん 鳴き声に関連することですが、私たちのビジネスアイデアでは、日本の参加者にまるで熱帯林の中にいるかのような感覚を得てもらうことを目的としていて、その手法として「VR映像」を選びました。けれど、熱帯林にいるかのような感覚を得るには映像の力だけではなくて、熱帯林の中の空気、虫の鳴き声、土や葉の上を歩く際に出る音、その上を歩く時に足にかかる踏み心地、目の前に出てきた葉や虫に驚く瞬間といったことを表現することができないか?という新たな課題を見つけることができました。

竹村英晃さん(昨年のREDD+オフィシャル特派員) 僕らが昨年行った時も、同じ場所でテングザルを見ることができました。

豊嶋絵美さん(JICA地球環境部) 訪れたグヌンパルン国立公園のエリアはIJ-REDD(Indonesia - Japan Project for Development of REDD+ Implementation Mechanism )と言われるプロジェクトサイトです。そこでは違法伐採や火災からの森林保全と共に、沿岸から山岳部までの生物多様性の保全も行なっています。こうした活動をJICAのプロジェクトで支援しています。


テングザルも見ることができた

VRコンテンツをどうつくるのか

黒岩さん 視察では、熱帯林だけでなく、熱帯林に関わる人々の取組や暮らしも撮影することができました。現地の消防隊を訪問した際には、消火機材や彼らの消火活動のデモンストレーションを撮影しました。また、ゴロンタロ州のボアレモ県では、森林保全の取組として、焼畑に代わる作物としてカカオ栽培が行われています。また、カカオからチョコレートを作る取組も始められていることから、カカオ農家さんによるカカオ栽培の様子や、現地の農業局の職員さんによるチョコレートの作り方をVRで撮影しました。チョコレートの製作過程や原料となるカカオの栽培の様子もまた、チョコレート好きな人にとっては、魅力的なコンテンツになるかもしれません。


現地の消防署の様子(撮影:高橋美佐紀)

赤塚さん 当初のアイデアでは、VR映像を見ている人に対して、目の前に現れたことに関する情報、例えば植物や動物の名前が画面上に浮かぶことで、学習機能を持たせることを考えていました。しかし現地での実体験を経て、私たちが想定していた以上に積極的な情報説明が、VRコンテンツには重要なのではと思いました。具体的には、VR映像を見ている人は本人の関心に応じて見たいものを見て、進みたい所に向かう、知りたいことのみ知るという形ではなく、「ガイドとともに歩き、説明を受ける」といった形が適切かもしれません。さらに、現地と生中継を行い、VR体験者が「これは何をしている場面ですか?」「あの木の名前は何ですか?」などとリアルタイムに疑問を投げかけることができ、それに答えられるような工夫があるとさらに熱帯林への理解も深まり、体験者の満足度も上がるのではないかと感じました。

参加者 どこへ行っても同じような鬱蒼な森、という感じではないのでしょうか。つまり、VRコンテンツは似てしまいませんか。

赤塚さん 今回インドネシアは乾季だったのですが、これが雨季だったらまたもっと森の状態や風景も違うのでないかと思います。また、VRのアイデアはインドネシア限定ではないので、例えばこれがブラジルなどの違う国だともちろん違う森になり、生息している生き物も違うので、十分多様なコンテンツになりうると思います。


川下りでの撮影の様子(撮影:高橋美佐紀)

インドネシアの食事、おいしかった?

参加者 現地の食事はどうでしたか。特に、ビジネスアイデアとして、料理教室を検討されているHUTANのおふたりはどう感じましたか。

門田正吾さん 現地では移動に多くの時間を取られ、あまりゆっくり食事をとる時間がありませんでした。朝はたいていホテルの朝食かお弁当で、昼や夜はお店で食べました。何を食べていたかというと、やはりナシゴレンなどです。お米が多かったですね。

豊嶋さん 日本人に比べインドネシアではコメを大量に食べますよね。なぜでしょうか?おかずの味付けが濃いからでしょうか?

高橋さん 辛いからでしょうね。実はスタディツアーで、体重が少し増えました(笑)。

黒岩さん 私も増えました(笑)。

門田さん 現地のビーフンもおいしかったなぁ。

高橋さん おいしい伝統料理やインドネシアでスーパーフード(*)になりうるものを数多く知ることができました。

門田さん 一方で、スーパーフードは現地ではまだ浸透しておらず、現地の研究機関の方々も詳しくはありませんでした。ただ、ブラジルで有名なアサイーなどの成功事例があるだけに、インドネシアでのスーパーフード栽培には可能性があると思います。


現地の食事風景(撮影:高橋美佐紀)

現地の生産農家が求めているもの

高橋さん 私は、現地の生産者にとって何が仕事のモチベーションなのか、ということを直接質問したのですが、「子どもに良い教育を受けさせること」という答えがほぼ全員からありました。このことから「子どもの教育」を新しい価値として還元できるような仕組みが必要なのではないかと思いました。つまり、必ずしも生産者と消費者をつなげる必要はなく、「つながるHUTANプロジェクト」の参加農家は学資保険に加入できる、といったものの方が意義があるということがわかりました。みなさんアグロフォレストリー(**)作物を輸出できるのならしたい、という強い希望をお持ちです。 ただ、スーパーフードを育てるアグロフォレストリーを導入する際、やはり種などの初期投資がネックになりますね。

門田さん 行ってみてわかったのですが、やはり現地の農業は色々問題を抱えているので、現時点では僕たちの考えていた事を、そのまますぐに実現はできないと思いました。最初のアイデアではスーパーフードの農業方法を定着させて、できた作物を使って何かやろうと、ざっくりとは思っていたのです。けれど、そもそも現地の農業をめぐる環境自体が問題を抱えているのに一足飛びでそれはできない、ということです。


現地での聞き取り取材

アグロフォレストリーでスーパーフード栽培の実現は段階が必要

門田さん 僕は「学生でもできる事があるよね」と言っているのですが、それは個人的に環境や農業関係の学生団体って他の分野に比べると少ないなと感じているからです。学生が森林保全やソーシャルビジネスのプロジェクト全体において、どのような役割を担えるのかという点はまだ具体的にはアイデアはないのですが、どこか学生だからこそできるということがあるはずです。現地の方に農作物に関する情報を少し伝えただけでも「あ、その情報が欲しかった」「聞けて良かった」と言っていた農家の方々もいたと高橋さんから聞きました。例えば、そうした情報提供は学生でもできるのではないでしょうか。

確かにお金は発生しにくいとは思いまずが、学生が担えるところは必ずある。それが役に立って農業問題の解決ができたときになって、ようやく「できた作物をどうするか」という段階に進める。輸出する先は、日本でも中国でも資金になればどこでもいいとも言える。そんな風に、徐々に段階を踏んでいけばアグロフォレストリーでスーパーフード、というアイデアの可能性はあるのかなと、現地で思いました。

高橋さん 私たちのビジネスアイデアでは、プロジェクトの収益を得るために、料理教室の開催や、アグロフォレストリーでつくられたスーパーフードをパックで売って、ということを考えていました。けれど、門田さんのいうように、すぐにそこまではできない。ですが、今回、ゴロンタロでカカオの事業をされている矢崎慎介さん(株式会社兼松)に伺ったお話がアイディア実現のヒントとなりました。 ボアレモにおける活動では、REDD+プロジェクトとしてカカオの栽培を推進し、クレジット(CO2排出権の取引量)を増やすことを目指しています。現地の方々を支えられる資金メカニズムにもつながる点がREDD+の強みだと思います。REDD+のような仕組みと上手に組み合わせることは、事業の初期投資にもつながるでしょうし、私たちのアイデアについても実現性が高まるのかなと思いました。


現地の視察チームと昼食

行ってみて感じた、途上国でのソーシャルビジネスの可能性

豊嶋さん 最後に、インドネシアへ行ってみて、発展途上国でのソーシャルビジネスの可能性はあると思いますか。ちょっと難しいんじゃないか、それともけっこうあるのではないか、などどう感じましたか。

高橋さん 可能性、大ありだと思います(笑)。私自身、大学で環境を専門に学んでいるので、むしろビジネスは苦手だなと思っていたんです。ですが、世の中の、環境のことをあまり気にしていないような人たちをどうやって環境問題に巻き込んだらいいのかと考えていたときに、そのような人にフィットする新しい価値を作り出すことで環境に目が向くのではないかと気づいたのです。私は、まだまだ環境問題について気にしている人が世の中にそれほど多くないのではないか、と思っていますが、環境を守ることと利益を生み出すことをリンクさせることができるといった点で、環境問題に目を向けていなかった人たちも、環境保全に巻き込むことが可能になるソーシャルビジネスには、大きな可能性があると思います。

赤塚さん 私は企業のCSR部門で働いているのですが、最近のキーワードでCSVというのがあります。これはクリエイティング・シェアード・バリュー(共通価値の創造)の略語ですね。今盛んに言われているこの考え方は、社会課題の解決を目指す事業のことであり、収益性を伴うものです。それはまさにソーシャルビジネスなのです。あらゆるビジネスが「ソーシャル」であるべきだ、という流れもできているので、可能性もあるでしょう。どんどんそういうビジネスが増えていく土壌も、もうできているという感覚があります。

門田さん 可能性、あると思います。その理由は、まだまだ社会問題、解決すべき課題が多すぎると現地で感じたからです。それに、日本でビジネスが生まれるくらいなら、課題が山積している東南アジアでは尚更必要とされているのではないかなと思っているので、可能性は多くあります。

黒岩さん 自分もあると思います。途上国の問題を解決するためには、公的機関、NGO・NPO、企業のCSR等様々な側面からアプローチできます。その中の一つとしてソーシャルビジネスも可能性があると思います。もちろん、それぞれのアプローチごとに強みや弱みがあると思うので、本当にソーシャルビジネスに適した分野なのかを意識することも大事だと感じました。

豊嶋さん 現地での充実した視察がよくわかりました。みなさんどうもありがとうございました。


このサイトでは今後も、「森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード」で生まれたビジネスアイデアの進捗と、集まった参加者たちの活躍を報告していきます。お楽しみに。

* スーパーフード:栄養バランスに優れ、一般的な食品より栄養価が高い食品であること。 あるいは、ある一部の栄養・健康成分が突出して多く含まれる食品であること。

**アグロフォレストリー:熱帯雨林にカカオ、コショウ、パッションフルーツ等の熱帯作物を混植し、森林生態系を維持しながら農業経営を行う技術。森林保全と農業経営を両立させる「森をつくる農業」として注目されている。

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