森から世界を変える
ソーシャルビジネスアワード
振り返り対談

森林保全と国際協力に
ソーシャルビジネスの発想が
貢献できる可能性を実感

森から世界を変える REDD+ プラットフォーム』が18歳~39歳までの若者を対象に2017年夏に実施した『森から世界を変えるソーシャルビジネスアワード』では、北は北海道、西は鳥取まで全国から集った参加者たちから、途上国の森林保全の貢献できるようなユニークなビジネスアイデアが、数多く生まれました。

今回の企画は、6月に東京と神戸で開催されたソーシャルビジネス カンファレンスから始まり、7月に同じく東京・神戸開催のワークショップ、8月の東京でのプレゼンテーションを経て、2組4名が最優秀賞を受賞。受賞者を「REDD+ オフィシャル特派員」として9月にインドネシアへ派遣しました。帰国直後には報告会を開催。9月末のグローバルフェスタのSDGsステージ(SDG:Sustainable Development Goals)での発表や、12月の『エコプロ2017』でワークショップを開催するなど、プログラム全体を通じて森林保全や国際協力、そしてソーシャルビジネスへの学びを深めることができました。

はたして、今回の企画はどんな成果を挙げたのでしょうか。JICA地球環境部の森田隆博氏、自らもソーシャルイノベーターとして活躍する本ソーシャルビジネスアワード総監修の谷中修吾氏のふたりがおよそ半年間の企画を振り返る対談を行いました。

それぞれにプロフェッショナルな立場で森林保全や国際協力、ソーシャルビジネスに関わるおふたりですが、若者たちの柔軟な発想や、新しいチャレンジに立ち向かうエネルギーに触れ、途上国の森林保全、そして国際協力にソーシャルビジネスが貢献できる可能性の大きさを実感する機会となったことが語られました。

ソーシャルビジネスアワード企画全体の手応え

東京ワークショップ参加者のみなさん。

森田 企画の準備を始めた段階で谷中さんから「ビジネスアイデアを考えるワークショップを実施する」という提案をいただき、とても有意義な取組みになったと感じています。参加者にはワークショップやプレゼンテーションを通じて実際に社会を変革するためのアイデアを練り、さらにそのアイデアをどのように実現していくかというところまで踏み込んで考えていただくことができたのではないでしょうか。

ソーシャルビジネスというテーマを設定したことで一般社会人の方の参加も多く、対象の幅が広がったことも評価できます。また、今回は東京だけでなく神戸でもワークショップを実施しました。日本でも途上国でも森林保全の主戦場は「地方」ですから、アウトリーチの範囲を広げることができたのも大きな成果になったと思います。

谷中 森田さんのご意見に全く同感です。東京でも関西(神戸)でも、それぞれ個性的で質の高い参加者の方が集まりました。関西でのワークショップ会場は神戸でしたが、中国・四国地方など他県からの参加者が多かったのも印象的です。国際協力やソーシャルビジネスをテーマにして学びを得られる機会は、やはり首都圏に集中しているという現状がありますので、東京と関西の2箇所でこの企画が実現できたことの意義も大きいと思います。

森林保全におけるソーシャルビジネスの可能性

神戸ワークショップ参加者のみなさん。

谷中 今回の企画では、あえて「REDD+」を前面に立てず、ソーシャルビジネスをキーワードとして参加者を募集しました。20〜30代で最初から「REDD+」に興味を抱いている人は少ないでしょうが、ソーシャルビジネス、あるいはソーシャルスタートアップに興味を抱いている方はたくさんいます。そこで、ソーシャルビジネスを考えるテーマとして森林保全を取り上げることで、社会起業を志向する多くの方々にとって、地球環境問題が一気に身近になるわけです。

ビジネスアイデアを練り上げるプロセスを通じて、森林を取り巻く社会的課題の現状、森林保全と国際協力の関係や仕組みについても理解を深めることができたのではないかという手応えがあります。また、持続可能な森林保全事業を考える上で、実利的な価値を生み出すというビジネス的な視点も有効だったと思います。

森田 やや複雑な仕組みである「REDD+」を、シンプルに「森林保全」という言葉に置き換えたことで、途上国が抱える社会的な課題を参加者自身が身近な問題として考えることができたのではないかと思います。先だって、例年各地で大量廃棄される節分の恵方巻きを「今年は昨年実績で作ります」と宣言した兵庫県のスーパーマーケットがSNSで大きな支持を集めたというニュースがありました。REDD+ やSDGsの問題も、わかりやすいキーワードと重ね合わせることで、日本社会でも支持を得て、大きなムーブメントにすることができるのではないかと感じました。

現地スタディツアーの様子

プラットフォーム参加企業との連携

谷中 今回のワークショップでは、プラットフォーム参加企業の方々にもメンターとしてワークショップ参加者へのアドバイスを頂いたり、審査員として参加者のアイデアに講評をいただくなど、積極的に連携することができました。現場を知っている企業の方々のお話を聞くことで、参加者にとってはビジネスアイデアを考えるためのリアリティが増し、発想がさらに刺激されたのではないかという印象があります。

一方で、大企業が取り組むビジネスを考えようとするとハードルが高くなりますが、今回は自分たちで社会起業するという前提でビジネスアイデアを練り上げる企画としましたので、参加者のみなさんのアイデアは自分ゴトとして考えたユニークなものばかりでした。プレゼンテーションなどを通じて質の高い議論ができたと感じています。

日本の若い人たちの中では、社会起業へのモチベーションがますます高まっています。国際協力、森林保全にビジネスとして取り組みたいという気運はさらに広がっていくのではないかという可能性を感じる企画ともなりました。

森田 JICAの国際協力事業においてはサステナビリティ、つまり年限がある我々の事業が退いた後の継続性が課題といえます。ビジネスにおいても同様にサステナビリティが不可欠であり、森林保全、国際協力をソーシャルビジネスの視点から考える今回のプロジェクトには、私自身大きな刺激を受けました。

どんなビジネスでも、スタート時は小さな規模から始まることがほとんどでしょう。今回の企画では、若者の自由な発想で提案するビジネスアイデアに対して、企業のみなさんがプロの視点で評価やアドバイスをされたことでアイデアの完成度が上がり、質の高い議論に繋がったと思います。

また、ソーシャルビジネスや森林保全、国際協力に興味をもっている人たちと、企業まで巻き込んだ「横の繋がり」をプロデュースする場はあまりなかったのではないかと思います。今回は、幅広い人的ネットワークを結びつけることができて、プラットフォームの繋がりが強くなったと感じられることも、重要な成果のひとつです。

参加者たちのアイデアへの感想

森田 JICAが手掛けるプロジェクトは失敗は許されないというリスクを避ける条件が先に立ち、チャネルや発想が限定的になってしまいがちな面があります。でも、今回の参加者のみなさんのアイデアには、リスクよりもチャンスを重視したものが多かった印象です。

たとえば、効果的に森林保全を実現するためだけであれば、保護区を設定して一本の木も伐採させない施策を徹底するのが確実な方法です。でも、それでは森林を活用して生計を営む人たちの生活は守れません。今回のアワードで集まったビジネスアイデアには、参加者自身の目線で森で暮らす人たちに寄り添う、そして楽しいアイデアが多かったのが印象的でした。まさに、ソーシャルビジネスと国際協力が目指すべき「ミッション」は重なり合っているということを実感できました。

谷中 ソーシャルビジネスを発想する際には、まず「課題は何?」が出発点になります。今回の企画を通じて、たとえば、途上国の森林保全にとって伐採が問題になっている事実を知り、では「伐採は悪いことなのか?」また「なぜ違法伐採が起こるのか」と、参加者自身が問題の抽出を丹念に行った上でそれぞれの課題設定できたことが、ユニークなビジネスアイデアの創出に結びついていきました。

ワークショップやプレゼンテーションでほかのグループの発表を見たり、企業のみなさんや森林保全に関わるプロからの講評を受けていく中で、持続可能なアイデアにするためには「ただ真面目に考えるだけではダメだ」という気付きがあったのではないかと思います。参加者自らがパッションをもって楽しみながらアイデア作りに取り組んでいただけたのではないでしょうか。

東京ワークショップの様子

次回へ向けて

谷中 今回、私はインドネシアでのスタディツアーにも一部同行しました。スマートフォンやブロードバンドが想定よりも普及していない農村も存在しているなど、自身の仮説と異なっていた現状に気付くことができたとともに、現地にはさまざまな課題が山積していることを実感できました。社会起業家にとって、社会的課題こそが「宝」であり、ビジネスのテーマとなります。ソーシャルビジネスで途上国の森林保全を実現していく手法には、大きな可能性を感じました。

また、新しいビジネスモデルを現地に持ち込んで、実際に利益を生み出すところを見せられれば、たとえばすぐに周辺の住民が真似をするなど、現地での横展開がかなりの勢いで広がっていくのではないかとも感じました。

次回以降、地方の大学生や大学院生、若い社会人の方々にも参加していただきやすい形を工夫して、取組みを重ねていけるといいなと思います。

森田 以前、仕事で電力セクターを担当していた時は、途上国に行っても電線ばかり気になっていました。今は森林担当となり、森や畑が気になります。同じ風景を見ても、自分の中にある問題意識で立ち現れる世界は変わります。ソーシャルビジネスの視点から森林保全を考える今回のテーマ設定は、企業との相性もよかったといえます。途上国でも先進国でも共感を得られるアイデアを生み出し実践することができれば、REDD+ への気運も一気に広がる可能性があるでしょう。

次回はさらに参加者の間口を広げ、地方に眠っている潜在的なサポーターを掘り起こしていくような企画として、途上国の森林保全、環境保全に取り組む大きなムーブメントを起こしていきたいと思っています。

(2018年2月7日)