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【インタビュー解説】REDD+推進におけるCOP21『パリ協定』の意義


REDD+条文案等に関する交渉(12月2日)(写真提供:IISD/Kiara Worth)

2015年11月30日から12月12日にかけてフランスのパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、2020年以降の新たな法的枠組みとなる「パリ協定」を含むCOP決定が採択され、途上国・先進国双方によるREDD+(開発途上国における森林減少・劣化等に由来する排出の削減等)の促進の推奨や、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用が同協定に位置づけられました。このことは、官民連携でREDD+への取組を進める日本にとって、どのように評価すべきことなのか。林野庁からCOP21の政府交渉団に参加した井上泰子氏に、そのポイントを伺ってみました。

『パリ協定』にREDD+促進を推奨する条項が明記

REDD+は、2005年にパプアニューギニアとコスタリカが共同提案してから、10年間にわたって国連の場で議論が続けられてきました。今回、COP21で採択された『パリ協定』に、REDD+の実施と支援を奨励する条項が設けられ、2020年以降の気候変動対策の枠組みにも明確に位置づけられたことは、日本としても高く評価できます。

また、『パリ協定』には、各国が森林を含む「温室効果ガス(二酸化炭素)の吸収源・貯蔵庫」の保全、強化に取り組むべきこと、生物多様性や生態系を保全することの重要性、JICAなどによる二国間協力や、民間セクターの活躍、クレジットの国際移転なども活用しながらREDD+に取り組むことなどが、日本が様々な国と共に提案・交渉したことにより盛り込まれました。このことは『森から世界を変える REDD+ プラットフォーム』に早くから共鳴し、官民連携の取組を続けてきた日本の企業や団体、森林・木を愛する文化を大切にしている日本国民にとって重要な意味をもつ朗報と考えています。

『パリ協定』は、2020年以降すべての国が協調して温暖化問題に取り組むための仕組みを示した国際条約として、会期を1日延長した議論の末に、「2℃目標」(世界の気温上昇を2℃以下に抑えるための取組を推進すること)や、特に気候変動に脆弱な国々への配慮から、1.5℃以内に抑えることの必要性にも言及されるものとなりました。また、それを実現するための長期目標として、今世紀後半には人間活動による温室効果ガスの排出量を実質的にはゼロにすることとし、2020年以降は全ての国が5年ごとに目標を提出する(原則として、各国は、毎回5年前の目標よりも高い目標を掲げる)こととなりました。アメリカや中国、インドといった温室効果ガスの排出量が多い国も協調した形でこうした成果を挙げたことは、フランスの外交力を筆頭に、各国の交渉団が真剣に地球の未来を見据えて知恵を結集した賜物と評価することもできるでしょう。

JCMの活用を認める「協力的アプローチ」

また、『パリ協定』において、「市場メカニズムの活用」については、「協力的アプローチ」などが明記されたことにも大きな意味があります。これは、REDD+等の国際協力の結果として得られた温室効果ガス削減の成果(クレジット)を、国から国へ移転することが可能であるとするもので、日本が積極的に提言してきたJCMを2020年以降もさらに進めていくための裏付けとなります。

ただし、クレジットの国際移転については、二重計上の回避や、クレジットを登録するための仕組みの整備といった課題も残されています。今後、日本が提案してきたJCMが、REDD+も含めて有効に活用できるよう、パリ協定に基づくガイダンス作りの交渉に貢献していくとともに、JCM相手国の各国と二国間で適切な方法論のガイダンス等を策定し、フィールドでの実証に取り組んでいくことが必要です。

より多くの人にREDD+の意義を知っていただくことが大切



林野庁計画課海外林業協力室課長補佐
井上 泰子氏
(前列の左から5番目:
REDD+交渉官スナップ撮影 Ms. Julia Gardiner)

『パリ協定』に掲げられた、貧困削減や人々を豊かにする持続可能な開発と、地球を守り、後世に良い環境を受け継いでいくための野心的な目標を達成するためには、世界の国々が温室効果ガスの吸収源・貯蔵庫として、また人々の暮らしを守り、その糧となる森林を適切に保全することにより、森林の減少・劣化による排出を削減するとともに、植林等により吸収源を強化していくことが不可欠です。このためには、今後はますます、REDD+による途上国の森林保全による気候変動対策が果たしうる意義、重要性を、日本国内でもより多くの方に理解していただき、できることから共に取り組んでいくことが大切です。

REDD+へ取り組む企業や団体への国民の皆様のご支持や活動への参加が得られれば、さらに様々な取組へと裾野を広げていくことができるでしょう。また、こうした途上国の温室効果ガス削減対策への様々な支援活動は、日本政府が「約束草案」で掲げた国際貢献にも繋がります。

今回のCOP21で、日本がこれまで途上国による持続可能な森林管理・保全への努力を支援し取り組んできたことが、2020年以降の気候変動対策の枠組に明確に位置づけられ世界の合意となったことは、重要な意味を持つ成果といえるのではないでしょうか。日本は、今後も途上国の立場に寄り添いつつ、関係各国、機関と協力しながら、企業、民間、NGO等と連携を図り、より多くの方にご参加いただいて、一層「森から世界を変える」REDD+の取組を推進して行くことが期待されています。

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