開催日時:2016年7月15日(金)9:30〜16:30
会場:国連大学ウ・タント国際会議場(東京都渋谷区)
主催:環境省、JICA、(研)森林総合研究所、「森から世界を変えるREDD+ プラットフォーム」

【Summary】

昨年に続いて開催された「REDD+ 国際シンポジウム」。あいにくの雨模様でしたが、会場の国連大学ウ・タント国際会議場には約170名の参加者が集まりました。

今回のテーマは「REDD+の実施に向けた日本の貢献」。アジア6か国(インドネシア・カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム・タイ)のREDD+担当官を迎え、各国のREDD+の実施状況や今後の課題、我が国の官民が果たし得る役割について、相互に理解を深めることを目的として、有意義なプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われました。

昨年に引き続き2回目のREDD+に関するシンポジウムの開催となりましたが、昨年よりもアジア各国のREDD+への取組が実施に向けて着実に進んでいる点が確認されました。

アジア各国からは、日本の政府機関に対して、REDD+実施に向けた政策や技術、人材育成などの観点からの支援の継続を要請するとともに、日本の民間企業からの投資への期待、また、GCF(緑の気候基金・Green Climate Fund)をはじめとするREDD+資金の動員の必要性が強調されました。

また、実際にREDD+プロジェクトに取り組む日本側有識者からは、REDD+は炭素クレジットの可能性に加え、日本国内の公的機関の支援、国際機関などからの公的資金投入がされやすく、国ベースおよび州や県を対象にした準国ベースのREDD+となれば先方政府の関与も想定できるなど民間企業が新規参画しやすい分野であるという実感などが示されました。

また、関係者が継続的に意見交換の場である『森から世界を変える REDD+ プラットフォーム』を活用し、官民連携してREDD+事業を促進していくことが今後ますます重要であることが確認されました。

【Report】

当日のポイントを、プログラムに沿ってご紹介します。

主催者代表挨拶
REDD+は、世界全体での温室効果ガス削減に向けての重要な施策

梶原成元氏(環境省地球環境審議官)

シンポジウムは、主催者を代表して環境省地球環境審議官 梶原成元氏の挨拶から始まりました。

2016年は『パリ協定』に基づく具体的な取組の「行動元年」であり、今後はREDD+実施に向けた動きがますます活発化していきます。パリ協定において、世界の温室効果ガスの排出抑制策として明確に位置づけられたREDD+は、世界全体での温室効果ガスの排出削減、もしくは排出を緩和するために、重要な施策であり、REDD+とREDD+を通じたグリーン経済開発の推進に向けて当シンポジウムがマイルストーンとなるように期待しています、と挨拶を締めくくりました。

プレゼンテーション/我が国の貢献策(1)
日本におけるREDD+への取組の現状をキーパーソンが報告

竹本明生氏(環境省研究調査室長)

続いて、日本におけるREDD+推進のキーパーソンの方々から、日本におけるREDD+推進への貢献策の現状などについてのプレゼンテーションが行われました。

まず、環境省研究調査室の竹本明生室長が『気候変動対策とREDD+の枠組み』と題して、我が国の取組の現状を報告しました。

COP21のパリ協定採択を踏まえた国内の動向として、「地球温暖化対策計画(2016年5月)」「気候変動の影響への適応計画(2015年11月)」がそれぞれ閣議決定されたこと。また、G7環境大臣会合及び伊勢志摩サミットにおいてはパリ協定の早期発効の重要性を再確認し、G7各国は2016年度中の発効を目指していることを報告。

REDD+活動に対しては様々な資金が設置されており、一例としてGCF(緑の気候基金・Green Climate Fund)があげられます。今後はREDD+の成果払いに関するガイダンスが検討される予定で、環境省としては2国間クレジット制度(JCM)を利用した補助事業をラオスとインドネシアを対象に実施しています。

REDD+は、各国の進捗に差はあるものの、準備フェーズから完全実施フェーズに移行しており、民間企業の参画を含めた様々なかたちの資金動員により移行の動きが本格化することを期待しています、との見解を示されました。

宍戸健一氏(JICA地球環境部審議役/次長 兼森林・自然環境グループ長)

独立行政法人国際協力機構(JICA)の宍戸健一氏は、『JICA's Efforts for REDD+』と題して、REDD+に対するJICAの取組について説明しました。

まず、東南アジアをはじめ、中南米やアフリカの13か国におけるJICAのREDD+の取組、新規形成案件の概要を説明。また、JAXAと協力して進められている人工衛星『だいち2号』を活用した「森林変化検出システム」、スマートフォンなどを使い森林変化の最新情報(1.5ヵ月ごと更新)を現場でのモニタリングに活用できるシステムを紹介しました。

REDD+は多くの国で実証段階から完全実施段階に移行しつつあるため、JICAはREDD+プラットフォームの設立(森林総合研究所と共同事務局)、GCFの認証実施機関への登録申請、成果払いまでの資金ギャップへの円借款の活用などの支援を行い、官民連携によるREDD+を活用したグリーン経済開発の取組を推進していく、とまとめました。

松本光朗氏(森林総合研究所北海道支所長)

前REDD研究開発センター長である森林総合研究所の松本光朗氏は、『Japan's contributions on REDD-plus implementation』と題し、日本、そして森林総合研究所のREDD研究開発センターが、REDD+の実施に対してどんな貢献ができるのかを解説しました。

REDD研究開発センターはこれまで国家モニタリングシステム(NFMS)及び「MRV(Measurement, Reporting and Verification=温室効果ガス排出量の測定、報告及び検証」のシステム構築にむけたリモートセンシング、地上調査に基づくアロメトリー式の開発に注力してきたことが報告されました。

また、REDD研究開発センターが途上国のキャパシティ・ビルディングのための教材として作成した『REDD+ COOKBOOK』は好評で、日本語のほか英語やスペイン語にも翻訳しており、現在は、フランス語訳も進めている。REDD研究開発センターのウェブサイトではREDD+に関連する文献のデータベースなどもあり関連情報を閲覧可能であることを紹介しました。

プレゼンテーション/我が国の貢献策(2)
日本の民間企業の取組とビジネスモデル

天野正博氏(学校法人早稲田大学教授)

コーヒーブレイクを挟んで、日本の民間企業の取組についてのプレゼンテーションがはじまりました。

まずは、早稲田大学の天野正博教授が、環境省の平成28年度「二国間クレジット制度(JCM)を利用したREDD+プロジェクト補助事業」に採択されている『ラオス・ルアンパバーン県における焼畑耕作の抑制によるREDD+』の事例について説明しました。

この取組は、学校法人早稲田大学のほか、丸紅株式会社、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、一般社団法人日本森林技術協会などが実施団体として参加しているプロジェクトです。過度な焼畑移動耕作を抑制し、代替となる生計手段の導入や、衛星画像などを活用した温室効果ガス吸収及び排出削減の効果測定など、REDD+を円滑に実施していくための取組の現状などを報告しました。

これまでに分かったことは、REDD+活動によって森林保全が達成されるためには、住民にREDD+活動を追加的に実行してもらうことが重要であることです。このため、「REDD+活動の実施状況のモニタリングを行い、活動の実行結果に対して支払いを行う」という仕組みが機能し、炭素クレジット収入がREDD+活動の持続性を促すように今年は取り組んでいくことになりました。

現在、先行して進められている村落(約3万ヘクタール)におけるプロジェクトでは、年間に約14万トンの温室効果ガス排出削減量が見込まれており、将来的に準国ベースの事業にまで拡大すれば、さらに大きな削減量を獲得するポテンシャルがあることなどが解説されました。

矢崎慎介氏(兼松株式会社鉄鋼・素材・プラント統括室)

続いて、民間企業からの報告として兼松株式会社の矢崎慎介氏がインドネシア・ゴロンタロ州で実施している『ボアレモ県における焼畑耕作の抑制によるREDD+』についてプレゼンテーションを行いました。このプロジェクトも、環境省の平成28年度「二国間クレジット制度(JCM)を利用したREDD+プロジェクト補助事業」に採択されています。

この取組のポイントは、焼畑によるトウモロコシ栽培が森林減少の原因となっていたのを、収益率の高いカカオ栽培の農業技術を現地で指導したり、付加価値を高めたカカオを買い取る仕組みを設けるなどの「カカオ農業支援プログラム」によって、森林保全ばかりでなく、現地に持続可能なグリーン経済の定着を目指していること。

将来的にはJCMクレジットによるさらなるビジネスモデルの構築を目指しつつ、グリーン経済開発の面で着実な成果を挙げつつあることが紹介されました。

Mr. Juan Chang(GCF事務局)

午前中、最後のプログラムはインターネット中継でGCF(緑の気候基金・Green Climate Fund)の Juan Chang氏が登場。民間企業がREDD+に参画する上で興味深い「GCFの現状と今後の展開」について解説しました。

2015年5月の時点で、GCFへの署名済拠出資金は99億米ドルに達しており、2016年6月現在、支援を承認したプロジェクトは17件です。REDD+に関するプロジェクトは多くないが、増加傾向にあり、今までに受け付けたREDD+プロジェクトの傾向としては規模が小さいことが挙げられました。影響力のある取組にするためには時間的・空間的両面での規模拡大が必要で、国・準国ベースで位置付けられることが必要でであること。また、資金提供を継続させるためには従来の国家資金のみでは不十分で、民間資金が重要な役割を担うこととなる、との見解が示されました。

プレゼンテーション/各国のREDD+
実施上の課題 東南アジア6か国の代表者がプレゼンテーション

午後のプログラムは、東南アジア6か国からのゲストが壇上に立ち、各国におけるREDD+実施の現状と課題についての報告がされました。

各国の施策における森林保全や環境対策の概要や、どのようなREDD+プロジェクトが進んでいるか。また、技術面、資金面、制度面などの観点から、REDD+を実行し、推進していくためのどのような問題があるかといったことについて、各国それぞれの現状や見解が示されました。

各国の代表者と、プレゼンテーションの資料(PDF)をご紹介(プレゼンテーション順)します。

パネルディスカッション
グリーン経済開発にみるREDD+実施と日本の官民の貢献

モデレーター:松本光朗氏(森林総合研究所北海道支所長)

登壇者 ※並び順右から
Mr. H.E. CHUOP Paris(カンボジア環境省兼国家緑の成長委員会事務局次長)
Ms. Nguyan Thi Thu Thuy(ベトナム農業農村開発省林業総局REDD+室長)
天野正博氏(学校法人早稲田大学教授)
矢崎慎介氏(兼松株式会社鉄鋼・素材・プラント統括室)
竹本明生氏(環境省研究調査室長)
宍戸健一氏(JICA地球環境部審議役/次長 兼森林・自然環境グループ長)

パネルディスカッションは、モデレーターを松本光朗氏が務め、日本側のプレゼンテーションを行った4名と、カンボジアとベトナムの代表者が登壇して行われました。

議論の中で「REDD+の拡大というよりも、まずは農村開発を実施し、そこにREDD+炭素クレジットの発生が付随する。このクレジットを活用して、持続可能な取組として発展できる」(天野氏)といった、ホスト国と日本が協力してREDD+とREDD+によるグリーン経済開発を目指すことが重要であることが示され、カンボジア、ベトナム両国の代表者からも同様の意見が述べられました。

日本の民間技術の活用によりビジネスモデルが展開され、途上国支援につながるという、民間事業体、途上国、JICAの3者が相互にメリットを得られるプログラムが求められています。

さらに「REDD+の取組を進めているのは日本だけではなく競合がある。欧州の各国は潤沢な資金を各地に投入している現状もあり、ホスト国の現場に後から参入してもクレジットの獲得は難しい。その意味でも、日本国内でREDD+の重要性についての認識を広め、スピード感をもって取組を進めていくことが大切」(矢崎氏)といった見解や、「農村開発を軸とした環境保全と両立したビジネスモデルを構築していく必要がある。『森から世界を変える REDD+ プラットフォーム』のような枠組みを推進して、より積極的な民間参加を呼びかけたい」(宍戸氏)など、今後のREDD+の取組への決意と期待が語られました。

パリ協定によって世界の合意事項となり、REDD+ は今までの準備段階から、いよいよ本格的な実施フェーズに入っていきます。日本でもさらに官民の連携を深め、より積極的な取組が必要であることを確認する国際シンポジウムとなりました。

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