森から世界を変える REDD+プラットフォーム
平成30年度ナレッジ分科会ビジネスモデル分科会合同セミナー

「REDD+の基礎から最新動向まで」
 開催報告

開催日時:2018年10月17日(水)15:00 - 16:30
会場:JICA市ヶ谷ビル 2F国際会議場(東京都新宿区市谷本村町10-5)

はじめに

昨年度ナレッジ分科会がプラットフォームの加盟団体の皆さまに行ったアンケートでは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の最新動向について知りたい、REDD+の基本事項についてのおさらいが出来る機会が欲しいといったご意見を多数いただきました。また、最近複数の団体がプラットフォームに新規加盟されています。

そこで、本セミナーでは、環境省地球環境局の長谷代子室長補佐ならびに林野庁森林整備部の神山真吾課長補佐をお招きし、REDD+の基礎情報、UNFCCC交渉及び気候変動施策におけるREDD+の役割、JCM-REDD+等の最新動向、そしてベトナムの森林政策およびREDD+に関する取組みの現状についてご発表頂きました。

民間企業、一般財団・社団法人、政府関係者、NGO/NPO、研究・教育機関等の様々な分野から、70名以上の参加がありました。ここでは当日の主な発表内容を報告します。

発表1:UNFCCC交渉及び気候変動施策におけるREDD+の役割
環境省地球環境局総務課研究調査室 長谷代子 室長補佐

国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change, UNFCCC)は、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を目標とし1994年に発効した環境条約です。UNFCCCではこの目標達成のために、批准国を発展度合や能力に基づき「先進国」と「途上国」に区別した上で気候変動対策に取り組むこととなっています。

同条約の2010年の第16回締約国会議(Conference of the Parties, COP)にて採択されたカンクン合意により、「先進国」は2020年までの削減目標・行動をUNFCCC事務局に登録・実施することになり、「先進国」に属する日本は2005年度の排出量から3.8%削減する目標を登録しました。

UNFCCCが大気中の温室効果ガス濃度の安定化を目標としているにもかかわらず、実際の世界のエネルギー起源二酸化炭素の総排出量は1990年時点の205億トンから2015年には1.5倍以上の323億トンに増加しており、2030年にはさらに増加し343億トンに達すると予測されています。この主要因としては、UNFCCCで「途上国」と区分されている中国やインド等の新興国の排出が増えたことが挙げられます。そこでCOP21は、2020年以降の温室効果ガス排出削減などを目指す新たな国際枠組みとしてパリ協定を採択しました。

パリ協定の特徴・意義として、① 従来の「先進国」と「途上国」という二分論の考え方をこえて、「共通だが差異ある責任」原則は適用するが、すべての批准国が削減目標(Nationally determined contributions, NDCs)を提出・更新すること、②「緩和(排出削減)」だけでなく、「適応」、「資金」、「技術」、「能力向上」、「透明性」の各要素をバランスよく包括的に扱うこと、③ 2030年にとどまらず、より長期を見据えた永続的な枠組みであること、そして、④ 各国の目標を報告・レビューし、世界全体の実施の進捗を5年ごとに確認するグローバル・ストックテイクと呼ばれる仕組みを導入したこと、の4点が挙げられます。

また、日本提案の二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism, JCM)も含めた市場メカニズムの活用も位置付けられています。

パリ協定では、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ目標(いわゆる2℃目標)とともに、1.5℃に抑える努力を追求し、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収を均衡すること(実質的な排出ゼロ)に言及しています。しかし、パリ協定そのものには批准国各国が具体的にどのような行動を起こせばよいのかは明記されていません。

さらに、世界が2℃目標を達成し、1.5℃に抑える努力を追求するには、2020年までに温室効果ガス排出量がピークアウト(反転)し、それ以降急速に減少することが求められますが※1、現在、パリ協定の下で提出された国別の目標がすべて達成されたとしても、2030年までの世界の総排出量はむしろ増えてしまうと予測されています。そこでより具体的な行動を起こすための実施指針(以降、実施ルール)の策定について合意を目指すべく現在交渉が行われています。

ところで、IPCC第5次評価報告書によると、森林等の陸域生態系は、化石燃料由来の温室効果ガスの排出量の約3割を吸収する能力を持っているといわれています。2010年の温室効果ガス総排出量(490億トン)において、農業・林業等の分野から排出された温室効果ガスは全体の4分の1、とくに森林減少、森林劣化をともなう林業および土地利用変化による排出は、由来は全体の約1割となります。

しかし、これまでUNFCCCでは、「途上国」における森林減少・劣化を抑制することに対して直接インセンティブを与える方策は存在しませんでした。そこで、2005 年のCOP11にて一部の「途上国」が森林減少・劣化の抑制にインセンティブを与える方策について検討すべきと提案し、UNFCCCの下で REDD+(レッドプラスと読む)※2に関する交渉が開始されました。UNFCCCでのREDD+に特化した交渉は約 10 年間続き、2013年のCOP19 では、REDD+に係る基本的な事項を示したワルシャワ枠組みに合意、2015 年のCOP21ではREDD+が含まれたパリ協定が採択されました。

パリ協定では第5条2項にてREDD+が言及されています。しかし、実施ルールにおいては、「緩和」「透明性」「市場メカニズム」といった区分のどこでREDD+が扱われるのかが明確化されていません。そこで、2018年のCOP24は、このパリ協定の実施ルールの採択を目指しますが、このルールにREDD+、あるいは途上国に限らず森林に関する活動がどのように位置づけられるかが注目されています。

また、途上国における「緩和」と「適応」のプロジェクトに対して、COP のガイダンスに基づきバランスよく支援を行い、低炭素かつ気候に強靭な開発経路に向けたパラダイムシフトを促進するための基金として緑の気候基金(Green Climate Fund, GCF)が設立され、REDD+の公的資金を用いた結果に基づく支払い(リザルトベースの支払い、成果支払いなどと呼ばれる)※3を管理することとなりました。

2017年の第18回GCF理事会において、2013年~2018年間に実現されたREDD+パイロットプログラムによる排出削減量・吸収量に資金が支払われることになっています。そのためのモダリティ(どのように評価し、どういう支払プロセスを踏むかを定めた詳細規定)についても合意されました。また、REDD+に取り組む国に対して資金面および技術面の支援を行うとともに、REDD+活動に成果支払いを行う森林炭素パートナーシップ基金(Forest Carbon Partnership Facility, FCPF)が世界銀行により設立されています。先進国政府や民間企業等のマルチドナーから拠出を受けた準備基金 (Readiness Fund)と 炭素基金(Carbon Fund)の二種類の基金で構成されています。

今後REDD+は実施フェーズに移行しますが、REDD+の実施者にとってより重要となる詳細ルールは、今後このようなGCFやFCPF等の各スキームにおいて具体的に決まって行く見通しです。また、市場メカニズム型排出削減制度の導入を決定した国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization, ICAO) が REDD+の詳細ルールのほか、REDD+クレジットの需要動向にも大きな影響を与える可能性があります。

発表2:途上国におけるREDD+活動推進状況と民間資金の活用について
林野庁森林整備部計画課海外技術班 神山真吾 課長補佐

本日は、REDD+を進める東南アジア諸国の一つであるベトナム社会主義共和国の取組みについて、JICAの活動を交えてご紹介したあと、JCMを含めたREDD+の最新動向をご紹介します。米国、中国、日本、EU向けの家具の輸出大国であるベトナムは、その原料の5割以上を輸入に依存しており、国内での原料供給が喫緊の課題となっています。ベトナム国内の貴重な生態系を有する天然林は減少・劣化傾向にあります。

JICAは2015年8月~2020年8月の5年間、ベトナムの森林地域における持続的な自然資源管理能力の強化を目的としたプロジェクトを行っています。その中で、REDD+の実施に直接関わる支援としては、① 国家REDD+行動計画(National REDD+ Action Programme, NRAP)および省レベルのREDD+行動計画(Provincial REDD+ Action Plans, PRAPs)の策定支援、② 中央政府の森林モニタリングガイドラインの改定とあわせたタブレットPCの活用による森林モニタリングの全国展開の支援 (世界銀行、国連REDDプログラム、米国国際開発庁等と連携) 、③ GCFの成果支払い申請支援、④ REDD+推進に必要な森林保全活動、植林活動、地域住民の生計向上(例えば、農業生産性の向上や果樹栽培等)といった一体的な支援があげられます。

ここでは、③ についてもう少し詳しくご説明します。

ベトナムは現在GCFによる成果支払いのパイロットプログラムへの申請を準備しています。このプログラムはこれまでのREDD+を実施してきた2014年~2018年の間の活動の成果を検証し、これについて試行的に1トンあたり5ドルの支払いを行うものです。このパイロットプログラムは、あくまでもこの仕組みがしっかり機能するかを試すものであり、「途上国」がREDD+を実施したことにより達成された排出削減量は、「先進国」へ移転されることはありません。本プログラムは3カ国から申請を受理した段階で開始し、予算総額である5億ドルが当該国へ配分されることが決定した時点で申請受付を終了する予定です。JICAは、国連REDDプログラムや国連食糧農業機関、ベトナムの研究機関等と連携し申請書提出に向け準備しています(ベトナムは、同様に1トンあたり約5ドルの成果支払いを目指す世銀FCPF 炭素基金の取組みも進めています)。

さて、国レベルの計画が策定されたとしても、それらを既存の地方自治体の開発・土地利用計画とどう関連付け、実際に途上国の現場でどのような活動をどう推進するのかが定まらなければREDD+は絵に描いた餅となってしまいます。そうした問題意識の中で、ODAだけでなく民間企業等が参入できる実効性のある仕組みを作る必要がありました。日本が進めるJCM-REDD+はその取組みの一つです。

JCM-REDD+において日本政府は、参照レベルやセーフガードに関する情報提供等ついてのUNFCCCの合意事項との整合性をとり、途上国の市場メカニズムについての考え方や立場等を考慮しつつ、ベトナム、ラオス、ミャンマーといったREDD+の実施可能性が高い国々と実施ルールを協議中です。今年の5月に日本政府はカンボジア王国との初のJCM-REDD+ガイドラインを採択しました。これに合わせて日本の民間企業とNGOがカンボジア環境省と共にREDD+の取組みを開始し、今後この取組みがJCM-REDD+プロジェクトとして登録される予定です。

JCM-REDD+を進める上では課題も残されています。途上国の担当者は同時に上述のGCFやFCPFの業務も掛け持ちで担当していくことが多く、JCM-REDD+ガイドライン協議の進捗が遅くなるケースが度々あります。また、プロジェクトの参照レベル等方法論の検討の際には国の手法と整合させるための対話を相手国政府と十分に行う等、民間企業等がREDD+に取組む環境を整備していく必要があります。現在GCFでも民間参画をいかに進めるかが重要な論点となっています。

REDD+への民間参画の方法としては次のようなものが考えられます。

①REDD+による排出削減クレジットの創出・取引を目的とした参画:REDD+による森林由来のクレジットは他のクレジットよりも創出コストが低く生物多様性保全や地域住民の生計向上などコベネフィットも期待できます。

②森林減少・劣化の抑制に繋がる、本業やCSRとしての取組み:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)、ESG(Environment, Social, Governance)投資、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity, CBD)、フォレスト500等への対応として、森林減少・劣化の要因となり得る木材や紙パルプ、パームオイル、牛肉、大豆関連製品を取り扱う企業のグリーン調達の取組みです。

こうしたREDD+への民間参画を推進するために、林野庁は、COP、GCF、FCPF等の情報を収集し、大手企業だけでなく森林減少・劣化の抑制につながる取組みに関心を持たれている中小企業や団体の皆様へ情報発信すること、JCM-REDD+ガイドライン協議の着実な進展、JCM-REDD+事業者が抱える課題の的確な把握とその解決に向けた取組み、JICAによるODA事業と民間の取組みの連携の促進に注力して参ります。

おわりに

お二方の発表後、会場との活発な意見交換が行われました。国が設定した参照レベルの科学的な信憑性についての疑問や、同参照レベルと下位の行政・プログラムで設定された参照レベルとの整合性をいかにとるかという課題、パリ協定におけるJCM-REDD+の位置づけ、ICAOが模索するシステムでのREDD+クレジットの利用の可能性や、これとNDCsとの関係性についての議論が行われました。

また、UNFCCCにおいてREDD+の議論が開始されてから10年が経ち、REDD+の議論の関心は、これまでの小規模で試行的な森林減少・劣化抑制活動をどのように国全体へ拡大させ、森林面積をいかに増やすかといった現場の取組みのスケールアップ方策にも向いています。森から世界を変えるREDD+プラットフォームは、途上国の森林保全活動を促進するために、引き続き必要な情報・知見・経験を共有してきます。

※1 1.5℃に整合する排出経路についての報告書では、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないような排出経路は、2030年までに約45%(2010年水準)減少し、2050年前後に正味ゼロに達することとされています。

※2 REDD+とは、途上国における森林減少・劣化を抑制しようとする努力に対してインセンティブを付与する気候変動緩和策であり、①森林減少からの排出削減 ②森林劣化からの排出削減 (REDD) ③炭素ストックの保全、④持続可能な森林管理、⑤炭素ストックの増大 (+、プラスと読む) から成ります。REDD+には、森林減少・劣化を抑制し、吸収量を増大させたことを評価するツールを開発し、その成果を継続させるための活動に必要な資金を回すメカニズムを作るという役割があります。

※3 結果に基づく支払い(リザルトベースの支払い、成果支払い)についての詳しい説明は、こちらをご覧ください。

(文責:森林総合研究所 国際連携・気候変動研究拠点 江原誠)

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