事例紹介

インドネシア・ボアレモ県における焼畑耕作の抑制によるREDD+プロジェクト
実施団体:兼松株式会社、インドネシア現地政府

兼松株式会社がインドネシアのスラウェシ島にあるゴロンタロ州ボアレモ県で実施しているプロジェクトです。ボアレモ県政府や、インドネシアの有力企業であるゴーベルグループと連携して、トウモロコシの焼畑耕作による森林減少を抑制し、良質なカカオへの転作による現地農家の収益改善を目指す取組で、環境省の平成27年度『二国間クレジット制度(JCM)を利用したREDD+プロジェクト補助事業』に採択されました。

実は、もともとこの地域ではチョコレートの原料となるカカオ栽培が盛んでした。ところが、収穫したカカオの付加価値を高めるための発酵技術がなく、手っ取り早く収益を上げられるトウモロコシ栽培が台頭。耕地を拡大するための焼畑によって、周囲の森林が次々と破壊されていたのです。

このプロジェクトでは、5か所の実証農場を開設。現地で選抜された、技術向上を目指す意識の高い農業従事者を迎え入れ、良質なカカオの栽培方法や、付加価値を高めるための発酵技術などを指導する取組を始めています。それぞれの農場に20人ほど、全部で100名程度の現地の方を受け入れて技術を伝え、その人たちが自分のコミュニティに戻ったら、今度は指導者として地域全体にトウモロコシよりも収益が上がる良質なカカオ栽培技術を根付かせようという計画です。

栽培や発酵技術の指導には、京都に本拠がある『Dari K』と協力関係を構築。『Dari K』はインドネシア産のカカオを原料として高級チョコレートを製造販売するベンチャー企業で、インドネシア国内で同様の技術指導を重ねてきた経験とノウハウがありました。官民、そして複数の企業の連携によってREDD+に貢献する好例といえるでしょう。

そもそも、無秩序な焼畑による森林破壊が続いている背景には、どんなに働いても十分な収益を上げることができないことによる貧困が根底にあります。カカオ栽培による生計の向上が森林保全に結びつき、地域住民の生活とともに、森が育む生物多様性を守ることにも繋がるのです。

また、良質なカカオが新しいビジネスを生み、温室効果ガスの排出削減効果をJCMを通じてクレジット化する等のベネフィットが創出できれば、取組は持続可能なスキームとなり、さらにエリアを拡大して森林破壊を抑制する、大きなプロジェクトに育つ可能性があるのです。

兼松でこの取組を担当する矢崎慎介さんに、日本の民間企業がREDD+のこうした取組を進めていくためのポイントを質問すると「現地におけるカウンターパートの意識や熱意が成否を分けると実感している」ということでした。

このプロジェクトを始める際は、まず、現地の重要なパートナーであるゴーベルグループとのパイプを築き、その人脈でボアレモ県の知事と面会。知事の理解と協力を得られたことで、順調なスタートを切ることができたそうです。

ゴーベルグループはかねてからパナソニックの現地販社としての実績があり、日本や日本人への理解が深かったこと。現在の県知事自らが、熱意をもってプロジェクトに協力してくれていることも、ここを対象地に選んだ大きなポイントです。ボアレモ県の地理的な位置が、森林と人が多く暮らすエリアの境界にあり、森林減少抑制の効果を見極めやすい場所だったということも好運でした。

カカオはチョコレートの原料として活用されます。ところが、アフリカなどのカカオ産地には、チョコレートを食べたことがない生産者も多いそうです。

兼松では、栽培方法などの指導とともに、まずはカカオ農家のみなさんに日本製のチョコレートを味わってもらい、自らが生産するカカオの「価値」を知ってもらうところから始めているということです。

このプロジェクトが始まったのは2011年。最近の調査では、すでに焼畑による森林減少の抑制効果が確認され始めており、プロジェクト全体で年間およそ8.6万CO2トンの温室効果ガス削減を目標に取組が進んでいます。

人と人との結びつきを大切にして、現地の人たちの暮らしや文化に寄り添いながら、よりよい国際協力のあり方を探っていく。こうした姿勢は、まさに『森から世界を変える REDD+ プラットフォーム』が理想とする、日本ならではのREDD+のカタチといえるでしょう。

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