日本も元気にするJICA海外協力隊 秋田県

佐藤 梓さん

佐藤 梓さん 青年海外協力隊
Azusa Sato

大仙市健康福祉部子ども支援課 主査

【職場】
秋田県
【職業】
市役所職員
赴任国
マラウイ共和国
マラウイ共和国
【赴任地】
ムジンバ県ンバワ
【職種】
村落開発普及員
【派遣期間】
2010年3月~2012年3月

マラウイで学んだ
「郷土愛」の心
故郷の魅力を伝える
きっかけに

青年海外協力隊員として派遣されたのは、マラウイでも最も貧しい地域。
現地女性たちの自立支援に携わる中、逆に教えられたことは、生まれ故郷を慈しむ心。
今、協力隊で培った寄り添う力と行動力で、「郷土愛を育む行政」を目指している。

女性の意識向上のために
ミシンとモリンガパウダー
 佐藤さんが青年海外協力隊として派遣されたのは、マラウイの中でも僻地と言えるような地域だった。普通だと躊躇しそうなものの、佐藤さんは「途上国での2年間、都市部ではなく地方で活動できる」とやりがいを感じ、喜んだ。しかし、現地を目の当たりにして大きなショックを受けた。食糧事情は不安定で乳幼児や母親の栄養状態が悪く、しかも医療サービスが満足に受けられない。乾季に入れば食べ物が不足し、死亡率が急上昇。近隣に医療施設はなく、「病気や怪我をしたら皆どうなるのか」と不安が消えなかったという。
 佐藤さんは農業改良普及所に配属され、現地の人々の生活改善を託された。カウンターパートと話し合い、「現金収入の増加」「地域の生活・栄養状況の改善」「農民や女性グループのサポート」という、3つの目標を掲げて活動することに決めた。しかし、任地は一夫多妻制が残る男性優位の社会だった。「女性は家庭内暴力を受けても “これも人生だから” と悲劇を受け入れざるを得ない状況でした」
 佐藤さんは女性の意識を変えることから始める。『マラウイ隊員母の会』※の支援で手に入れた2台の足踏みミシンを活用し、現地の布“チテンジ” を使ってヘアゴムやエコバックを作り、首都で観光客に販売。彼女たちが現金収入を得ることができるよう取り組んだ。また、栄養改善の必要性を伝えるための講習会を開き、栄養価が高いとされるモリンガの木の栽培を奨励。葉からモリンガパウダーを作り、加工品の商品化も進めていった。
※マラウイ派遣隊員の母親を中心としたボランティアグループ。手芸品などの制作・販売で寄付を集め、マラウイ隊員の活動を支援。
女性の意識向上のために ミシンとモリンガパウダー
マラウイ人の郷土愛
故郷を知らない自分
 活動中、マラリアと破傷風に罹ったという佐藤さん。「マラリアの時は首都にいたので直ぐに治療を受けることができましたが、破傷風になった時は貸与されたバイクを自ら運転し、約15キロ先の隣町の病院まで行きました」そんな不便で厳しい環境が生活の場だったが、男性から不当な扱いを受けている女性や子どもたちさえも「ここは世界で一番いい所」と、自分の生まれ育った土地を慈しみ、愛着を持っていたという。
 帰国後、生まれ育った故郷について何も知らずにいた自分が恥ずかしくなり、「故郷のために何ができるのか」と考えた佐藤さんは、地元の大仙市に戻る決意をした。最初に取り組んだのは、国際交流団体が主催する、農作業を通じて留学生に秋田の魅力を伝えるグリーンツーリズムへの参加だった。協力隊時代、活動の一環でネリカ米の普及にも携わっていた佐藤さんの経験が、故郷の活性化とつながった瞬間だった。
 その後、職務経験者枠の採用試験を受けて大仙市役所に入庁。友好交流都市である韓国・唐津市との交流事業を担当したほか、異文化理解講座や外国人住民による料理教室など、国際交流・理解事業を企画、推進していった。市は毎年8月に開催される全国花火競技大会の1つ「大曲の花火」などで全国的に有名だ。2017年には、世界37の国・地域が参加し開催された『国際花火シンポジウム』の開催にも携わり、「大曲の花火」の魅力を伝えた。
協力隊で得た自信
人に寄り添い、できることから
 協力隊に参加する前、佐藤さんは募集説明会に何度も足を運ぶも、応募を踏み止まっていたという。「営業職という経験が協力隊で役立つとは思えず、スキル不足を感じていました。それに語学にも自信がなかったんです」そんな佐藤さんの背中を押したのが、「どんなスキルがあるかではなく、現地で何ができるか考えよう」という協力隊経験者のアドバイスだった。協力隊での経験は、日本では体験できないものだった。マラウイの最貧困地域では、マラリアと破傷風を患いながらも身体に鞭打って、古い男性優位の慣習から女性の意識改革を図るという取り組みに奮闘した。参加前の自信のない自分は「生きる力」を得て、いつしか意見をしっかり言える自分に変わっていった。
 協力隊時代、常に「何のために、誰のために」と自問自答しながら最後は自分で判断し、実行してきた。「困っている人を助けようとするときは、その人が抱えている問題を解決するために一緒に考え、行動すること。協力隊で学んだ一番大事なことです」
 行政の仕事でも、「何のために、誰のために」の視点を持って向き合っている。マラウイでの活動で気づかされた視点は、日本で壁にぶつかった時にも活かされていく。
  • グリーンツーリズムで農作業に参加した佐藤さん
    グリーンツーリズムで農作業に参加した佐藤さん。協力隊で鍛えた英語力を活かして留学生への通訳もこなし、経験を活かす第一歩となった。
  •  秋田県の協力隊OB会のメンバーとともに国際交流イベントでブースを出展
    秋田県の協力隊OB会のメンバーとともに国際交流イベントでブースを出展。協力隊への応募希望者の相談対応や協力隊事業のPRにも励んでいる。
  • 「何のために、誰のために」の視点を忘れずに、故郷の行政を支えている
    コロナ禍で多様な変化を求められる今、「何のために、誰のために」の視点を忘れずに、故郷の行政を支えている。
佐藤 梓さんProfile
 秋田県出身。大学卒業後、東京都内の民間企業で営業職として勤務。その後、帰郷して調剤事務や医療事務などに従事。仕事の傍ら参加した、地元の国際交流・協力活動で青年海外協力隊経験者と出会い、触発されて協力隊に応募。2010年、マラウイに村落開発普及隊員として派遣され、現地女性の自立支援などの活動に従事。帰国後、大仙市役所に入庁。
佐藤さんへのエール! 変化に応じた対応ができる、頼れる存在
 どんなことでも相談してくれるので業務がスムーズに進み、大変助かっています。コロナ禍で市役所の仕事も先が見えない状況です。そんな中、ベストではなくても前に進む推進力、やれることからやるのは協力隊で培った力と評価しています。これから予測不可能な仕事も増えると思いますが、佐藤さんの色々な体験が活きる時です。臨機応変に対応してくれることを期待しています。
大仙市子ども支援課 参事 鎌田 法顕さん
大仙市子ども支援課 参事
鎌田 法顕さん
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