日本も元気にするJICA海外協力隊 青森県

蝦名 雄三さん

蝦名 雄三さん 青年海外協力隊
Yuzo Ebina

青森県農林水産部農林水産政策課 主査

【職場】
青森県
【職業】
県職員
赴任国
ソロモン諸島
ソロモン諸島
【赴任地】
ウェスタン州ムンダ
【職種】
林業・森林保全
【派遣期間】
2018年6月~2020年3月

広い視野を持つ
技術職員として地元の
グローバル化を目指す

林業の技術職として県庁で働くことを決めた蝦名さん。
国内だけでなく海外の現場を知ることで自身の視野を広げようと、青年海外協力隊に参加。
今、「攻めの農林水産業」を推進する県庁で、広い視野で施策の企画立案に奮闘している。

途絶えていた協力隊への道
県職員OBが後押し
 大学卒業後、2011年4月に林業職として青森県に入庁した蝦名さん。配属されたのは、その年の東日本大震災で被害にあった八戸市の出先機関だった。防災林の復旧や土砂災害の現場を担当し、3年後には本庁に異動。県内で被害が出始めた、松くい虫やナラ枯れなどの森林病害虫等防除業務に奔走した。忙しい日々を過ごす中、「これから先も本庁と出先機関との行き来だけでいいのか。様々な経験を積んでみたい」との想いが生まれ、いつしか海外への道を探っていた。
 「大学時代にJICAの専門家を経験した教員がいたことから青年海外協力隊に興味を持ち、募集説明会に参加したこともあったんです」
 県庁では、協力隊創成期に職員を畜産分野でラオスに派遣するなど、これまで多くの隊員を輩出してきたが、近年は参加が途絶えていた。また、林業職での参加は前例がなく、上司の理解を得るのも困難が予想された。そんな状況を変えてくれたのが、県の農林水産部次長を退職後、JICAのシニアボランティアとして南米に派遣され、農業指導に従事した県職員OBだった。「若いうちに行けば、行政マンとして将来役に立つ」とトップに進言してくれた。上司の理解を得た後に応募し、林業職として初めての現職参加※が実現した。
※所属先の身分を保持したまま、休職してJICA 海外協力隊に参加すること。
途絶えていた協力隊への道 県職員OBが後押し
キノコと炭の生産にも挑戦
資源の持続的管理を促す
 林業・森林保全隊員として、蝦名さんが派遣されたのはソロモン諸島。国土の約8割を森林が占め、輸出割合の半分以上が林産物という、林業が主要産業の島国だった。配属先の森林研究省では、配属先の一員として通常業務を担うだけでなく、オーストラリア政府機関が実施するプロジェクトの業務補助も求められていた。しかし、森林の現場作業は体力を消耗する厳しいもので、得体の知れない虫に刺されて皮膚疾患になることもしばしば。途上国の慣れない暮らしで高熱や下痢にも悩まされ、任期途中でアレルギー疾患になり、療養を余儀なくされたこともあった。
 そんな蝦名さんが、通常業務のほかに始めたのが、未利用の小径木を使ったキノコと炭の生産だった。仲間の隊員が作ったキノコ菌を用いて繁殖試験を始めたほか、炭の生産方法を学び、任地に応用できる方法を見つけるなど、普及促進を目指した。限られた任期内で実用的な成果を挙げるには至らなかったものの、『食用キノコ生産事例』に関する英語論文を発表するなど、現地職員に対して「丸太の輸出だけに依存するのではなく、森林資源の幅広い活用が、ひいては、森林の持続的管理に繋がる」という意識づけをするには役立ったと自負している。
毎月のニュースレター
青森県のグローバル化のために
 現地で自身に義務付けたことの一つがニュースレターの作成だった。赴任した月から、配属先での活動の様子やソロモンの森林・林業に関する『海外森林・林業レポート』を毎月執筆。日本語版は青森県庁約4千人の職員が閲覧するポータルサイトや配属元のFacebookページに掲載し、英語版は現地の職場に貼り出した。県職員と現地職員のいずれからも好評で、帰国するまで毎月続けたという。任期途中からは、JICA公式ブログ『JICA海外協力隊の世界日記』にも月2回以上投稿、協力隊活動を広報するという目的のために、労をいとわなかった。
 帰国後、復職した蝦名さんは、青森県の森林や林業という仕事への理解を深めてもらう広報活動を任せられた。小中高や大学を回り、児童や生徒、学生を対象に林業をアピールする『林業出前講座』を開催。また、地域林業の担い手確保のための研修制度として、2021年度に開校した『青い森林業アカデミー』の準備も担当。広い視野からの提案が制度の充実に繋がったという。そんな実績が認められ、今春には農林水産部の12課を束ねる農林水産政策課へ異動。同課では、県が掲げる「攻めの農林水産業」の施策を実効あるものとするため、企画立案に日々奮闘している。
 蝦名さんには、県内の協力隊OB会会長としての顔もある。「県内のグローバル化に貢献するため、一緒に仕事をする自治体、民間企業や各種任意団体、そして教育機関などを連携させる、ハブのような働きを担えればと思っています」仕事以外でも一層の充実を目指して走り続けている。
  • 県内の中学校で『林業出前講座』を実施する蝦名さん
    県内の中学校で『林業出前講座』を実施する蝦名さん。国内の林業事情だけでなく、協力隊経験も交えた話は多くの生徒から好評だ。
  • 県内の高等学校での『林業出前講座』の様子
    県内の高等学校での『林業出前講座』の様子。林業に対する理解促進を目的に、森林の働きや林業の仕事を紹介。
  • OB会の活性化にも一役を担う蝦名さん
    県内の協力隊OB会として、初のオンラインによる活動報告を実施。OB会の活性化にも一役を担う蝦名さん。
蝦名雄三さんProfile
 青森県出身。東日本大震災が発生した2011年3月に大学を卒業し、青森県庁に入庁。八戸市の三八地域県民局で津波被害や土砂災害の復旧に携わる。その後、本庁農林水産部林政課で松くい虫被害などの森林病害虫等防除業務を担当。2018年、青年海外協力隊に現職参加し、林業・森林保全隊員としてソロモン諸島で活動。帰国後は復職し、2021年4月より農林水産政策課にて勤務。
蝦名さんへのエール! 「攻めの農林水産業」の推進に期待
 農林水産政策課は部の主管課です。蝦名さんは青森県の林政中心の業務から、農林水産業全体を見渡し政策を企画立案する立場になりました。協力隊での活動も含め、これまでの仕事ぶりが評価されていますね。県は「攻めの農林水産業」を推進することで、農林水産業の持続的成長と共生社会の実現を目指しています。そのためには、国境を越えた産地間競争を勝ち抜くといった視点が必要で、それができるのは蝦名さんだと期待しています。
青森県農林水産部農林水産政策課 課長 成田 澄人さん
青森県農林水産部農林水産政策課 課長
成田 澄人さん
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