日本も元気にするJICA海外協力隊 広島県

岩木 英恵さん

岩木 英恵さん 青年海外協力隊
Hanae Iwaki

広島県廿日市市立大野西小学校 教諭

【職場】
広島県
【職業】
小学校教諭
赴任国
モンゴル国
モンゴル国
【赴任地】
ダルハンオール県ダルハン市
【職種】
小学校教育
【派遣期間】
2018年7月~2020年3月

自身の体験を題材に
子どもたちが世界に
目を向けるきっかけを作る

海外で教員として働きたい─ 長年の夢を叶えるために飛び込んだ青年海外協力隊。
モンゴルのために自身の知識や経験を活かす日々は、喜びに満ち溢れていた。
今、小学校の授業を通して自身の経験を子どもたちに伝えている。

信頼関係を築いて
子ども主体の授業を提案
 大学生の頃から「海外で働きたい」「教員になりたい」という2つの夢を抱いていた岩木さん。卒業後、教員として小学校で働きながらもう一つの夢を叶えようと、青年海外協力隊に現職参加※した。
 2018年、モンゴル第3の都市ダルハン市に小学校教育隊員として派遣され、算数と図工を担当。生徒の中には、親が失業中で絵の具を買ってもらえなかったり、アルコール依存症の親の代わりに家事をするなど、厳しい家庭環境の子ども達がいた。
 現地の小学校では、教員が黒板に字を書いて説明し、子どもはそれを写す授業が一般的。教員は先に答えを言ってしまうので、子どもが自分の考えを発表したり、友だちの意見を聞いたりする機会がなかった。岩木さんは、子どもたちが主体になる授業方法を教員たちに伝えようと取り組んだ。まずは教員のおしゃべりの輪に入り、信頼関係を築く努力をしたうえで、「こんなやり方もあるけれど一緒にやってみない?」と新しい方法を提案していった。例えば、日本では1年生に数字の概念を教える際にブロックを使うが、モンゴルでは黒板にひたすら書くだけ。そこで、岩木さんはブロックの代わりにシャガイ(家畜のくるぶしの骨)を使って動画を撮影し、子どもたちに数の概念を伝えてみせたという。
 「自分で授業をする方が楽しいのですが、それだと目標としていた『持続可能な教育』には繋がりません。教員と協議をしながら一度私が見本を見せて、彼らが納得したうえで取り組んでもらうよう意識していました」
※所属先の身分を保持したまま、休職してJICA海外協力隊に参加すること。
信頼関係を築いて子ども主体の授業を提案
平和学習に交流授業
充実の活動に感謝
 歴代の広島県出身の協力隊員たちは、派遣された先々で原爆展の開催や平和について考える授業を行ってきた。岩木さんも、小学生だけではなく中高生含めた約300人を対象に授業を実施。被ばく手帳を持つ祖母から戦争の話を聞いて育った岩木さんは、自分にも伝える義務があると考えていたからだ。「自分のつたないモンゴル語で説明するのではなく、日本語も話せるモンゴル人に頼んでパワーポイント1ページごとにナレーションを録音、映像や写真を使いながら授業を行いました。終了後、一人ひとりに感想を書いてもらったのですが、それをみんなで共有する時間も取れたので有意義な授業ができたと思っています」
 さらに岩木さんは、当時勤務していた御薗宇小学校6年生とモンゴルの最高学年5年生とをインターネット電話でつなぎ、交流授業を行った。互いの言語で挨拶を交わし、国歌を歌い、「食べ物は何が好きですか」「どんな教科が好きですか」と質問し合うなど、両国の子どもたちにとって貴重な体験となった。
 任期終盤はコロナ禍と重なり、突然の帰国で子どもたちに直接お別れができなかったことが悔やまれる。「でも、海外で教師をしたいという夢が叶い、何度もモンゴルの空を見上げながら『私は協力隊なんだ!』と叫び、喜びを噛み締めてきました。配属先に恵まれ、自分のやりたいことをやらせてもらえて、本当に充実していたと思います。現地の教員の皆さんには感謝しかありません」
夢が持つパワーや異文化体験を
子どもたちに伝えたい
 帰国後、復職した岩木さん。以前受け持っていた3年生は6年生になっていたが、教え子たちにモンゴルでの体験を伝えることは大きな喜びだった。6年生の社会の授業では『青年海外協力隊』をテーマにしたほか、2年生の『日本と外国の学校を比べよう』という単元ではモンゴルの学校について紹介するなど、自身の経験を積極的に授業に取り入れているという。「子どもたちが世界に目を向けるきっかけを作り、夢を叶える喜びを伝えていくことで、協力隊での経験を還元していきたいですね」
 岩木さんが教壇に立つ際に一番大切にしていることは、子どもたちが「分かった!」と笑顔になれるような授業をすることだ。日本でもモンゴルでも、「あ~、なるほど!」という言葉を聞くことが一番うれしい。
 「モンゴルで、色々な立場や考え方があることを知り、相手を理解しようとする姿勢が身につきました。今では、子どもたちが忘れ物をしたときも直ぐには怒らず、状況をきちんと確認してから指導ができるようになりました」
 モンゴルで広い視野と大きな心を獲得した岩木さん。これからも子どもたちに自身の経験を伝えていく。
  • 算数の授業の様子
    算数の授業の様子。授業のまとめを子どもたちに考えさせることで、理解を深める工夫をしている。
  •  フィリピン出身の先生と外国語のレッスンプランの打ち合せ
    フィリピン出身の先生と外国語のレッスンプランの打ち合せ。子どもたちの可能性を伸ばすため、日々意見を交換し合っている。
  • 学校全体の取り組みとして、子どもたちの良い行動を付箋に書いて掲示している
    学校全体の取り組みとして、子どもたちの良い行動を付箋に書いて掲示している。彼らの自己肯定感アップを願い、温かいまなざしで見守っている。
岩木英恵さんProfile
 広島県出身。大学卒業後、廿日市市内の小学校に勤務し、JICAの実施する教員向けの海外研修に参加。その後、東広島市内の小学校に転勤。2018年、同校より青年海外協力隊に現職参加。モンゴルに派遣され、小学校教育隊員として活動。授業の中で原爆展を開催し、広島の歴史と平和の意義を子どもたちに伝える。帰国後、同校に復職。2021年より廿日市市立大野西小学校にて勤務。
岩木さんへのエール! 多様な価値観に触れた経験を
子どもたちに伝えてほしい
 本校には、子どもたちに習得させたい資質・能力の一つとして「他者との協働」があります。意見の違う人と折り合いをつけて前に進むという経験をさせるには、言語や文化の違う人たちと一緒に何かを成し遂げた経験を持ち、その本質を肌で知っている岩木先生のような人が、直接子どもたちに伝えることが一番です。彼女のバイタリティと積極的な部分は、子どもたちにも良い影響を与えると思っています。
大野学園廿日市市立大野西小学校・大野中学校 校長、岡寺 裕史さん
大野学園廿日市市立
大野西小学校・大野中学校 校長
岡寺 裕史さん
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