日本も元気にするJICA海外協力隊 高知県

原田 浩多さん

原田 浩多さん 青年海外協力隊
Kota Harada

高知市立昭和小学校 教諭

【職場】
高知県
【職業】
小学校教諭
赴任国
モロッコ王国
モロッコ王国
【赴任地】
ベニメラル県ベニメラル市
【職種】
小学校教諭
【派遣期間】
2009年1月~2011年1月

人生観を変えてくれた
協力隊
生きることの楽しさを
子どもたちに伝えていく

北アフリカのモロッコで、小学校の子どもたちの人格形成を担う情操教育として、体育と図工を教えた。
日本とはまるで違う学校の状況に戸惑いながら全力でぶつかっていく中で、自分自身も変わった。
今は故郷の小学校で、その経験を子どもたちに伝え、幸せに生きる力をつけてほしいと奮闘している。

子どもたちに協力隊について話す
時間を大切にしている
 「僕が小学校の先生だと言うと、大変ですねって言われますが楽しいですよ。1日の大部分を子どもたちと過ごし、その変化を実感できる。人間性を真正面からぶつけて、人間ハラダで勝負していけるのが、この職業の醍醐味です」
 原田さんは毎年、6年生に向けて青年海外協力隊について話す時間を設けている。協力隊とは何か、モロッコはどんな国か……。子どもたちの感想文を読むと、多くが原田さんの話に真剣に耳を傾けていることがわかる。
 「大学時代から海外に興味があり、留学生との交流や旅行をよくしました。でも、観光で見えるのはいいところ、つまり光の部分。影の部分も知らないと、その国を本当に知ったことにはならないと思った。それには長い間生活する必要があるけど、お金もないし……」
子どもたちに協力隊について話す時間を大切にしている
体育の授業がない!
試行錯誤を乗り越えて
 協力隊の説明会に行き、OBの話を聞いて、遠い存在だった協力隊が身近に感じられた。好きなこと、得意なことで誰かの役に立てるかもしれない。大学を卒業した翌年の2009年1月、原田さんは協力隊員としてモロッコへ。
 赴任地はアトラス山脈の麓にあるベニメラル市。主な活動は体育、図工の授業を指導すること。だが、モロッコの学校事情を知って、原田さんは愕然とした。「体育の授業がないんです。体育の時間はあるんだけど、先生も子どもも皆帰っちゃう。体育館はなく、校庭はセメント。先生は年配の女性が多くて、太陽の下で運動なんてできないって。図工はただ絵を模写するだけでした」
 3つの小学校で担任教師とともに体育と図工を教えたが、言葉もままならず試行錯誤の日々が続いた。そうして数ヶ月経った頃、同じく小学校教師のサラさんと出会う。モロッコの小学校は閉塞感があって刑務所みたい、もっと開けた学校にしていかなくては……そんな考えのサラさんと話し合いを重ね、2つの方針が決まる。教員養成学校で実践講座を行い、先生の卵に力をつけてもらうこと。そして、今教えている小学校以外の教師も集めて講習会を開催すること。この2つを実現できたことは、原田さんにとって大きな収穫だった。
 「モロッコは僕の人生観を広げてくれました。はじめは日本人としてモロッコ人と付き合うという意識でしたが、彼らは僕が日本人だから家に招いてくれるわけじゃない、人間原田浩多を好きになってくれたから呼んでくれるんだと気がついた。一人の人間として繋がることが大切なんですね」
 帰国した原田さんは、教員採用試験に見事合格。小学校の先生になった。
 「子どもたちと向き合う時、先生と児童という枠にはまったら面白くないなと思っています。たとえば子どもの前で“先生は”とは言わない。“僕は”って言う。原田浩多として一人一人の子どもたちとつき合って、共に成長していきたい」
 人権尊重について考える授業では、モロッコでの体験を教材に取り入れながら「あっていい違い」「あってはいけない違い」について、子どもたちに考えさせる。個性や文化の違いは「あっていい違い」、社会の不公平や差別は「あってはいけない違い」。でも「あっていい違い」を認められないと、差別意識が芽生えて人を不幸にすることに気づいてほしい。
生きるって楽しいと、
子どもたちに感じてほしい
 大事な話をしているのに不真面目な態度の子がいれば、原田さんは本気で叱る。笑う時は子どもより大きな声で笑う。
 「モロッコの子どもたちはエネルギッシュで、生きる力に溢れています。社会性が高くて、大人と対等に話ができるんですよ。大人も喜怒哀楽をはっきり出す。僕もあんなふうに、感情表現豊かに生きていきたいと思ってます」
 子どもたちに人生を思いきり楽しむ力をつけてほしい。自身の経験が子どもたちの生きる力に繋がればいいと、原田さんは願っている。「自分らしく子どもたちと過ごすことでそのメッセージが伝わればいいなと。笑顔で授業して、毎日毎日が楽しいと思える学校にしたい。今日も楽しかった……その積み重ねで、人生はもっと楽しくなるよって伝えたい」
 原田さんはモロッコで、伴侶となる女性と出会った。協力隊員の助産師。もうすぐ4人目の子どもが生まれる。原田さんは育児休業を取得する予定だ。
 「家族を大事にすることを、モロッコの人々から教わりました。今は小学生の教え子たちも、いつか自分の家族を作るでしょう。家族を大事にというメッセージが彼らに伝わればいいですね」
  • 楽しい時も叱る時も、感情をわかりやすく表現する
    楽しい時も叱る時も、感情をわかりやすく表現する。子どもたちに好かれるポイントだ。
  •  時には真剣な顔でパソコンに向かう
    時には真剣な顔でパソコンに向かう。子どもたちが見ていないところでは地道な努力も。
  • 協力隊の時間では、モロッコの民族衣装ジェラバを着て、クイズ形式も取り入れる工夫を
    協力隊の時間では、モロッコの民族衣装ジェラバを着て、クイズ形式も取り入れる工夫を。
原田浩多さんProfile
 高知県出身。教育大学で学び、小学校の教員免許を取得。在学中に青年海外協力隊に応募、2009年1月からモロッコで、体育、図工など情操教育の教え方を指導する。帰国後、高知県の教員採用試験に合格、小学校の教員になる。現在は高知市立昭和小学校教諭。
原田さんへのエール! 協力隊に行ったことが
成長に繋がっている
 ひと言でいえば楽しい先生ですね。子どもとの距離感が近く、一緒に楽しんでいる。異質なものと触れ合う経験が強みになっています。これから小学校でも英語教育の比重が増えますが、原田先生は外国語に対してかまえるところがなく、自然にできる。教師として成長しているし、若い先生の手本となる活躍を期待しています。外へ打って出る気持ちも大切にして、チャレンジしてほしいです。
高知市立昭和小学校 校長、伊藤 浩昭さん
高知市立昭和小学校 校長
伊藤 浩昭さん
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