日本も元気にするJICA海外協力隊 京都府

新井 教之さん

新井 教之さん 青年海外協力隊
Noriyuki Arai

京都教育大学附属高等学校 地理歴史科教諭

【職場】
京都府
【職業】
高校教諭
赴任国
サモア独立国
サモア独立国
【赴任地】
ウボル島レウルモエガ
【職種】
小学校教育
【派遣期間】
2016年7月~2018年3月

答えのない課題に対して
自分で考え、行動する力を身につけてほしい

生徒のために、自分のために、立ち止まらずに考え続けていきたい。
南太平洋の島で培われた、教員として、人間としての成長を教育現場に還元するために。
生徒の未来とより良い世界のために、新井さんは今日も行動する。

いつでも、どこでも
子どもに必要なことは同じ
 「教育現場では“グローバル人材の育成”という言葉をよく耳にしますが、そのためには教員自身がグローバル人材になり、その姿を生徒に見せていきたいと思いました」生徒には“世界に飛び出そう!”と言いながら、自分自身がグローバル人材になれていないと感じた新井さんは、高校を休職して青年海外協力隊に現職参加※した。
 「国や年齢、教科が違ったとしても、教員として大事なものは同じだとわかったのは財産です」サモアでの2年間を振り返り、新井さんはそう語る。大切なのは、目の前の子どもの意見を尊重し、その子の成長のためにはどうすればいいのかを考えること。
 現在、高校で担任するクラスの生徒は約40名。授業準備や部活指導で多忙な中、一人に割けるコミュニケーションの時間はどうしても限られてしまう。しかし、自分の受け持つ生徒一人ひとりとしっかり向き合い、彼らがどのようなことを考え、感じているのかを聞き逃さないように意識しているという。
※所属先の身分を保持したまま、休職してJICA海外協力隊に参加すること。
いつでも、どこでも 子どもに必要なことは同じ
自分から輪に入ることで
「お客様」から信頼される教員へ
 協力隊での赴任先は、サモアの首都アピアから40km離れたレウルモエガという村。その村にある全校生徒およそ100人の小学校で、新井さんは算数と理科を教える予定だった。しかし、着任当初はサモア語があまり話せず、完全にお客様扱い。このままではいけないと、自分ができることを積極的に提案。一つずつ誠実に行っていったところ、徐々に周囲の評価が変わっていった。現地の人の輪に自ら飛び込み交流することで、サモア語が上達し、任される授業も増えた。子どもたち一人ひとりと真剣に向き合った結果、「勉強が嫌いな子だったのに計算ができるようになった」「学校に楽しそうに行くようになった」と保護者から感謝の声もあり、信頼につながったようだった。
 現地の人と距離を縮めるきっかけとなったのが、新井さんが学生時代に打ち込んでいたラグビー。サモアはラグビーが盛んな国で、楕円のボールを一緒に追いかけることで、自然と人間関係ができていった。放課後や休日はラグビーをして子どもたちと一緒に過ごした。子どもたちにラグビーを教えることはもちろん、小学校の全国大会に付き添ったり、時にはルールに詳しいからと審判を任され、地区大会で主審を務めたこともあった。
 「帰国の際には、行く先々で送別会を開いてくれました。赴任校では、子どもたちが出し物を披露してくれたほか、保護者や地域の人々も大勢駆けつけてくれて、とても嬉しかったですね」新井さんは教員として、人間として、サモアの人々に愛されていると実感した。
教員が与えるのは
きっかけや選択の幅
 帰国後に復職した学校では、地理や世界の貧困問題、SDGsの授業などで協力隊の経験を語るよう心掛けている。また、協力隊が縁で知り合った人たちを外部講師として招き、国際理解や人権学習の特別授業を企画。教員以外の大人と接する機会を設けることで、生徒の視野を広げ、将来の選択肢を増やしてほしいとの考えからだ。
 新井さんは、日本の現代社会では答えのない課題に向き合える人材の育成が求められている一方で、教員数の確保は追いつかず、教育現場の実態が理想に追いついていないと感じている。「解決すべき問題は多いですが、諦めないで考え続け、行動することが大事です」一人の力で、社会を変えるのは不可能かもしれない。しかし、教員という仕事を通じて、生徒たちに考えるきっかけを与えることができると信じている。
 海外の教育現場での経験をはじめ、実体験から見えた途上国の課題を伝える意義は大きい。「世界に関心を向けよう」「困った人を助けよう」といったメッセージを発信することで、それを受け取った生徒たちが社会にある様々な課題に気づき、自ら考え、選び、行動していってくれるかもしれないからだ。
 「協力隊では、挑戦の楽しさを実感するとともに視野が広がり、人としての引き出しが増えました。自分はこれからも教員としての人生を歩みますが、生徒たちの未来は多様に広がっています。一人ひとりが強みを活かして活躍できるように後押しすることで、より良い社会づくりにつながっていくと確信しています」
 今日も生徒たちのことを考え続け、行動を重ねながら、新井さんは教壇に立つ。
  • 地理の研究授業の様子
    地理の研究授業の様子。授業の際には協力隊の実体験を踏まえて話すよう、常に心がけている。
  • ラグビーチーム『花園近鉄ライナーズ』の選手によるポリネシア文化の特別授業
    ラグビーチーム『花園近鉄ライナーズ』の選手によるポリネシア文化の特別授業。外部講師を授業に招き、生徒の視野を広げている。
  • 高校3年生を担任しながら、硬式野球部と華道部の顧問も務める
    高校3年生を担任しながら、硬式野球部と華道部の顧問も務める。多様な職種の協力隊仲間の存在は、進路指導の際にも頼りになっている。
新井 教之さんProfile
 京都府出身。大学院修了後、地理歴史科教諭として京都教育大学附属高等学校に勤務。教育現場においてグローバル人材の育成が叫ばれる中、まずは教員がグローバル人材になるべきと考え、2016年に青年海外協力隊に現職参加。小学校教育隊員としてサモアに派遣され、現地小学校にて算数や理科を担当。帰国後、同校に復職。世界の貧困やSDGsの授業の際に協力隊経験を活かしている。
新井さんへのエール! 豊かな協力隊経験を、
教育活動の広がりへ
 常に生徒のことを第一に考えて指導にあたられています。協力隊参加の前からも、興味をひきつける授業をされてきましたが、そこに海外での経験を加えることで、きっと生徒たちにとってもより得るところが多い授業となるでしょう。また、協力隊によって広がった人の輪を活かし、様々な学びの機会も提供されています。本校という枠を飛び越え、広く有意義な教育活動に取り組まれることを期待しています。
京都教育大学附属高等学校 副校長 岡本 幹さん
京都教育大学附属高等学校 副校長
岡本 幹さん
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