日本も元気にするJICA海外協力隊 島根県

岩田 和美さん

岩田 和美さん 青年海外協力隊
Kazumi Iwata

公益財団法人しまね国際センター
地域日本語教育コーディネーター

【職場】
島根県
【職業】
団体職員
赴任国
カンボジア王国
カンボジア王国
【赴任地】
プノンペン
【職種】
日本語教師
【派遣期間】
2008年3月~2010年3月

日本での生活の始まりに
日本語教育を
学習を通じてつくる
地域の居場所

在住外国人の数が増える中、彼らの前に立ちはだかる「言葉の壁」。
“外国人”としての立場や思いを理解できるのは、カンボジアでの2年間があったから。
日本語教育を通じて外国人住民と地域をつなぎ、誰もが住みやすい社会づくりを目指している。

海外で日本語を教えたい
夢を叶えてカンボジアへ
 専門学校卒業後、京都の日本語学校に就職した岩田さん。同僚をはじめ、周囲には青年海外協力隊出身者が多かったという。「私も実力を試すために、海外で日本語指導に挑戦したいと思いました」26歳の時、念願叶って協力隊に参加。日本語教師隊員としてカンボジアに派遣され、首都にある大学で日本語コースの運営を任された。主な活動は、同僚たちへの指導や教材、テストの作成補助だった。
 現地の教員は、日本での研修経験はあるものの、学生たちに教えている日本語の例文が不自然など、1人で授業を組み立てるのは難しかった。また、学生たちは教材に出てくる動物そのものを知らないなど、知識不足が目立った。「日本に関心ある外国人なら知っているであろう、天ぷらやアニメのキャラクターも知らない学生が多かったんです。日本語の文法知識はあったとしても、言葉の意味するものを知らない、理解できていない、そのギャップに驚きました」
 そこで岩田さんは、「世界にはこういうものがあるよ」と学生たちの教養につながる内容を授業に取り入れるよう意識。同僚たちからは七夕の飾りづくりや遠足などの提案もあり、充実したコース運営につながった。また、授業外の学生たちとのおしゃべりでは彼らの話す日本語を褒めることで、学習のモチベーション維持を心掛けたという。
海外で日本語を教えたい 夢を叶えてカンボジアへ

photo:JICA/Kenshiro Imamura

日本語教師としてのやりがい
『多文化共生』との出会い
 帰国後、以前と同じ日本語学校に再就職した岩田さん。1クラスに約5ヶ国の学生が集まり、様々な文化や考え方を持つ者同士が共に学び合う環境が継続されていて懐かしさを感じたという。「クラスの中で話されるのは日本語のみ。『あなたの国ではそうなんだね』と、学生同士が日本語を使って異文化を理解していく姿に、日本語教師としてのやりがいと楽しさを感じました」
 日本語学校で4年働いた後、結婚を機に故郷に戻った岩田さん。JICAの島根県国際協力推進員※1として、協力隊事業の広報や応募奨励、開発教育事業などを担当。その中で出会ったのが、『多文化共生※2』だった。在職中には、SDGsのイベントに『多文化共生』の実践者を招き、集客の難しいとされる地域で100人以上を動員するなど、関心を高めた。
 近年、日本の在住外国人数は約300万人と増加傾向にある。彼らが日本で暮らす上でぶつかるのが「言葉の壁」だ。公益財団法人しまね国際センター(SIC)では、地域などに出向いて一対一で日本語を教える、全国でも画期的な日本語教育『SIC訪問日本語コース(地域訪問型)』を実施している。岩田さんは、この事業の推進役である地域日本語教育コーディネーターに応募。見事合格し、2019年より故郷の『多文化共生』に直接関わるようになった。
※1 JICA事業に対する支援や広報啓発活動の推進、自治体等が行う国際協力事業との連携促進などを担当するスタッフ。 ※2 国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと。
地域と外国人住民をつなぐ
日本語を挟んだ『多文化共生』
 日本語教室は、場所や時間を予め指定し、学習者が通って学習するというのが一般的だ。しかしその仕組みでは、「時間が合わない」「場所が遠い」などの理由で参加できない外国人住民が取り残されてしまうことから考案されたのが、この地域訪問型だ。1人につき90分×10回の日本語教育を無料で提供する。岩田さんらコーディネーターの役割は、外国人住民と日本語を教える有償ボランティア「日本語パートナー」とのマッチング、会場予約、教材づくり、パートナーの養成講座など多岐に渡る。「訪問型日本語教育は外国人住民が地域とつながる第一歩。孤立しないようにするきっかけづくり、居場所づくりが大切だと思っています。顔を知っている日本人を増やして、一緒に話したり、遊んだりする関係ができたらいいなと思います」
 訪問型日本語教育は、「日本語パートナー」の『多文化共生』の意識向上にもつながっているという。国際交流の経験がないボランティアから、最初は不安の声も聞かれるが、実際に活動すると「楽しかった。またやりたい」という声を聞くことも多いそうだ。
 カンボジア人は家族で過ごす時間を大切にしていた。日本で働く外国人に職場以外の居場所ができれば、寂しい思いが減るかもしれない。「協力隊として現地で暮らしたからこそ、海外で暮らす外国人の気持ちが理解できると思います」岩田さんは、日本語教育による『多文化共生』を通じて、日本で暮らす外国人に寄り添い続けていく。
  • 訪問型日本語コースでは、島根県オリジナル教材『となりでにほんご』を使用
    訪問型日本語コースでは、島根県オリジナル教材『となりでにほんご』を使用。教材やその使い方を説明するYouTube動画を作成し配信している。
  •  コース内容や教材の使い方などを丁寧に説明
    学習者と日本語パートナーが安心して交流できるよう、岩田さんも同席して顔合わせを行い、コース内容や教材の使い方などを丁寧に説明する。
  • ワークショップ形式の講座を行うのも仕事の一つ
    高校生や大学生、社会人を対象に「やさしい日本語」を広めるため、ワークショップ形式の講座を行うのも仕事の一つ。
岩田和美さんProfile
 島根県出身。専門学校卒業後、京都府の日本語学校に就職。26歳の時、青年海外協力隊に参加。カンボジアに派遣され、日本語教師隊員として大学の日本語コースで学生たちの指導にあたる。帰国後、結婚を機に故郷へ戻り、JICAの島根県国際協力推進員として勤務。2019年より、公益財団法人しまね国際センターの地域日本語教育コーディネーターとして活動中。
岩田さんへのエール! 彼女ならではのやり方、
今後の活躍に期待
 当センターの地域訪問型日本語教育は、日本語学習よりも地域での外国人住民の居場所づくり、外国人住民が日本語で話すきっかけづくりを大事にしています。岩田さんはそれらを自然体でやってくれます。学習者や日本語を教えるボランティア、地域の支援者を自然と巻き込んでいけるのは、協力隊での経験が活きているのでしょう。情報発信力や編集力もあり、今後さらに力を発揮してくれることを期待しています。
公益財団法人しまね国際センター 多文化共生推進課長、仙田 武司さん
公益財団法人しまね国際センター
多文化共生推進 課長
仙田 武司さん
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