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産業レポート2017.08.31

成長産業レポート:金融サービス(資金決済)

地域:全国

分野:全般

1. 背景

 金融は一国の経済の根幹を支える重要な要素であり、経済の発展において金融の発展は欠かせないものである。バングラデシュにおける金融は、その歴史的な経緯において独自の発展を見せており、この国で育まれ、世界的にも広がったマイクロファイナンスの成功は、その一端を示すといえよう。

バングラデシュにおける金融は、近年のバングラデシュ経済の成長に伴い、急速な発展を遂げている。市場の整備、金融機関の制度整備、新しい技術や革新的なアイデアの導入などが進み、金融サービスの生み出す付加価値も年々増加傾向である。特に銀行部門の成長が著しい。

 

(出典)バングラデシュ統計局1

 

 こうした金融サービスの発展は、業界の成長とともに、国民のあらゆる経済活動に変化をもたらしている。特に、近年においてバングラデシュの経済活動を大きく変化させたのが、資金決済の手段である。電子決済システムの導入により、銀行のATMやPOSシステムが普及し、2011年に始まったモバイルファイナンスという革新的な金融サービスはBOP層に急速に広がることになった。これにより国民は、容易に金融サービスにアクセスすることが可能となり、eコマースの発展にも道を開いた。

 本レポートでは、金融における多様なサービスの中で、とりわけ商取引上で重要となる資金決済に焦点を当て、その歴史と現状を整理し、経済社会へのインパクト、今後の展望や課題を概観し、日本企業にとってのビジネスチャンスの可能性について述べる。

 

2. バングラデシュの資金決済システムの歴史

(1)銀行の発展

 バングラデシュの金融は、1971年にパキスタンから独立後、パキスタン国立銀行のダッカ支店をバングラデシュ中央銀行とし、6つの国営商業銀行と2つの国営特別銀行、3つの外国銀行からスタートした。当時の金融サービスの主体は貿易決済と公共投資であり、また農業ファイナンスに重点をおいた政策が推進されたが、一般の国民に対する金融サービスは非常に限定的なものであった。こうした中で農村の貧困層に普及したのがグラミン銀行を始めとするマイクロファイナンスである。金融に関する法制度や規制が固まらない時代にあって、民間の草の根から新しいファイナンスの手段が生まれてきたことは画期的なことであった。

 バングラデシュに民営の商業銀行やノンバンクが誕生したのは1980年代であり、1981年に設立されたAB Bank Limitedを皮切りに、次々と民営の銀行やノンバンクが営業を開始した。1991年には銀行法(Bank Company Act, 1991)が制定され、銀行制度の体系が固まり、金融業界の発展を促した。

 現在(2016年10月)、銀行法上の指定銀行が56行、非指定銀行が4行のほか、ノンバンクの金融機関が31機関ある。商業銀行の内訳は以下のとおり。

国営銀行 6行
公営銀行 2行
商業銀行 39行
外国銀行 9行
商業銀行 合計 56行

(出典)バングラデシュ銀行2

 

なお、ノンバンクには以下のような業務上の制約がある。

  • 小切手、銀行為替、送金小切手の発行はできない。

  • 送金小切手を受け取れない

  • 外国為替取引に関われない。

 

<課題>

 徐々に一般の国民に預金や送金などの銀行サービスが広まってきたが、現在に至っても15歳以上の国民の29.1%しか銀行口座を持たず、またその保有者は都市部の住民に偏っている。

 これは、銀行の支店が都市部に集中していることや、電気や通信のインフラ不足、決済システムの未整備等によって農村部ではATMの展開が困難な為であった。また大多数のBOP層にとって、口座の維持手数料など銀行に口座を保有する費用は高かった。こうした農村部やBOP層における金融アクセスのギャップを埋めてきたのが、マイクロファイナンスであり、今では少額融資だけでなく、預金や保険などのサービスも提供している。

海外での出稼ぎ労働者からの送金受け取りも、銀行口座がないと取次業者に多くの手数料を取られる。

 

(2)資金決済システムの発展

 バングラデシュにおける資金決済は、小切手と現金が中心であった。銀行口座を持たない人々は現金払いしか手段がなく、公共料金の支払いなどのため、都市部の銀行支店へ出向き、窓口の前の長蛇の列に並んで待つしか方法がなかった。利便性が低く、手元に常に現金を持つことは安全性のリスクも負うことになる。手間も時間もかかる資金決済は、バングラデシュの生産性改善に重い足かせとなっていた。

 また、2000年代に入ってeコマースのビジネスがバングラデシュでも芽生えてきたが、インターネットや携帯電話を利用した電子決済の制度やシステムがなく、「デジタル・バングラデシュ」を標榜する政府にとって、自国の電子決済システムを確立することは喫緊の課題と認識された。

 監督機関であるバングラデシュ銀行の主導により、バングラデシュの資金決済システムが飛躍的に発展したのは、2009年に「バングラデシュ支払と決済システム規則(Bangladesh Payment and Settlement Systems Regulations, 2009)」が制定されたことに始まる。

これを受けて、2010年に中央銀行の主導により「バングラデシュ電子資金振替ネットワーク(Bangladesh Electronic Funds Transfer Network 、BEFTN)」と「バングラデシュ自動小切手処理システム(Bangladesh Automated Cheque Processing System、BACPS)」によって構成される「バングラデシュ小口資金決済システム(Bangladesh Automated Clearing House、BACH)」、が導入され、資金決済の近代化が図られた。これは、日本で言えば「日銀ネット」のようなシステムであり、バングラデシュの資金決済サービスに大きな進歩をもたらした。

 さらに中央銀行は2012年に行内に「支払システム部」を設置し、拡大する銀行ATMや電子決済サービスへ対応するために、以下のシステムを導入した。

  • 全国支払スイッチ(National Payment Switch、NPS):2012年12月開始

  • 即時グロス決済(Real Time Gross Settlement 、RTGS):2015年10月開始

 また、オンライン決済ゲートウェイ業者の認可(Online Payment Gateway Providers)を2012年からはじめ、オンライン決済の促進に尽力している。

 

(3)電子決済の現状

 上記の制度面およびシステム面での改善は、銀行間の資金決済を容易にし、大量の資金決済を短時間で正確に行うことを可能にした。また、クレジットカードやデビットカードを利用した電子決済を容易にしたことで、人々の商取引の利便性は格段に向上した。

バングラデシュにおける電子決済の増加は、銀行におけるATMの数と小売店におけるPOS(販売時点情報管理)システムの端末数の急速な増加に端的に表れている。

 

(出典)バングラデシュ銀行3

 

 加えて、2011年には後述するモバイルファイナンスが生まれ、全国に急速に普及した。携帯電話を活用して送金や支払を可能にするモバイルファイナンスは、銀行口座を介す必要がないため、銀行口座を持たないBOP層の人々にも手軽な資金決済の手段を提供することとなった。現在(2016年7月末)、約3700万人がモバイルファイナンスの登録者となっており、これを利用した新たなビジネスモデルも次々と生まれてきている。

 また、バングラデシュにおけるクレジットカードやデビットカードの利用者も徐々に拡大している。クレジットカードについては利用金額の上限設定などいくつか制約があり、期待されるほどには伸びていないが、デビットカードについては、銀行口座を保有する4000万人のうち、約900万人が保有するようになっており、まだまだ拡大する余地がある。

さらにeコマースが拡大するに伴い、オンライン決済も盛んになってきている。すでに多くのオンライン決済事業者が参入しているが、2016年7月には、世界的な有名な決済サービス事業会社Paypal(米国)も、国営Sonali Bankと組んで、バングラデシュ市場に参入を検討していることを公表している4

 

4. モバイルファイナンス

(1)概要

 モバイルファイナンスは、携帯電話を利用して送金や資金の決済を行うことができる。ショートメッセージ(SNS)で送金手続きや本人確認ができるサービスで、銀行口座を持たない貧困層にも利用が可能なことから、主に開発途上国で普及している。2007年にケニアの携帯電話会社サファリコムが開発したM-PESAから始まったもので、バングラデシュには2011年7月にbKash社によって導入された。現在、バングラデシュでは18の銀行がモバイルファイナンスの事業者として認可を受けて稼働しており、全国には63万軒の代理店5がある(但し、同じ代理店が複数のモバイルファイナンス機関の代理店を兼ねていることが多く、実際の代理店数はもっと低いという指摘もある)。

 

(出典)バングラデシュ銀行6

 

(2)モバイルファイナンスの事業者

 現在(2016年10月)、バングラデシュでは20の銀行がモバイルファイナンス事業の認可を受けており、18の銀行が実際に稼働している。

 モバイルファイナンスの主体として、ケニアのM-PESAが携帯電話事業者であったのに対し、 バングラデシュでは2011年9月に発行された「銀行のためのモバイルファイナンスサービスのガイドライン(Guidelines on Mobile Financial Services for the Banks)」では銀行主導の事業であるべきことが認可の条件となっている。バングラデシュ初のモバイルファイナンス事業者で、現在も業界リーダーであるbKash社も総発行株式51%をBRAC銀行が保有している(銀行本体ではなく別会社となっているのが特徴)7

 

<主なモバイルファイナンス事業者>

事業者名

銀行名

シェア8

bKash

BRAC Bank Limited

58.0%

DBBL Mobile Banking

Dutch-Bangla Bank Limited

16.6%

mCash

Islami Bank Bangladesh Limited

8.5%

UCash

United Commercial Bank Limited

7.7%

MYCASH

Mercantile Bank Limited

3.0%

IFIC Mobile Banking

IFIC Bank Limited

---

Trust Bank Mobile Money

Trust Bank Limited

---

OK banking

ONE Bank Limited

---

Hello

Bank Asia Limited

---

業界トップはbKashであり、58%の市場シェアを誇る。業界のパイオニアとして、バングラデシュのモバイルファイナスを切り開いた同社は、短期間のうちに急速に発展した。

また、モバイルファイナンスのシステムを支えるプラットフォームを提供している事業者として、バングラデシュ国内では以下の企業がある。

 

(3)モバイルファイナンスのサービス

 現在、モバイルファイナンス事業者に認められているサービスは、以下のものである。

  • 外国送金の支払い

  • モバイル口座への入金と出金(代理店、銀行支店、ATM等にて)

  • 個人から事業者向けの支払い(公共料金支払、購入代金支払等)

  • 事業者から個人への支払い(給与支払、配当等)

  • 政府から個人への支払い(高齢者手当、退役軍人手当等)

  • 個人から政府への支払(税金の支払い等)

  • 個人から個人への支払い(ある登録モバイル口座から別の登録モバイル口座へ)

  • その他(マイクロファイナンスの支払い、保険料支払い等)

 

(4)モバイルファイナンスの利用シーン

 モバイルファイナンスは、当初、利用者の送金サービスに利用されることを想定されていたが、今や様々な分野に利用が広がっている。利用が多いのが携帯電話料金のチャージや、公共料金の支払いである。携帯電話会社の支店や銀行の窓口にいかなくても支払いができることで、手間や時間を節約出来るようになった。

 また給料の支払いにも利用されている。銀行口座を持たないBOP層への給与は現金で授受されており、雇用者側にとっても手間のかかる作業であり、従業員にとっても現金を補完する必要があり、不便でリスクも高かったが、モバイルファイナンスの口座に振り込むことで、双方にメリットが生まれた。

 eコマースの決済に使われることも増えてきている。多くのeコマースのサイトにクレジットカードと並び、モバイルファイナンスによる支払いを認めている。

 

(バングラデシュのeコマースのサイト:下段の「bKash」がモバイルファイアンスである。)

 

(4)料金

 料金については、各社によって異なるが、業界トップの2社を比較すると以下の通り。

 

 

bKash

DBBL Mobile Banking

口座開設

無料

無料

代理店での入金

無料

入金額の0.9%または5タカの

いずれか高い方

代理店での出金

出金額の1.85%

出金額の0.9%または5タカの

いずれか高い方

ATMからの出金

出金額の2%

無料

個人間の送金

5タカ

5タカ

個人の業者への支払い

無料

無料

業者の個人からの受取

1.30%〜1.80%

1%

最低預金残高

なし

20タカ

 

(5)モバイルファイナンスの抱える課題

 急速に成長するモバイルファイナンス市場であるが、モバイルファイナンス利用の現場では、本来の利用方法と異なる使い方が指摘されている。その顕著な例が、0CT(Over-The-Counter)取引と言われているものであり、自分の口座から送金するのではなく、代理店の口座を通じて相手の口座に直接入金(Cash-in)するという形での資金のやりとりである。

 これは政府によって禁止されている行為であるが、OTC取引が非常に多いとされている。理由として、代理店がOTCによって多くの手数料を見込めることと、ユーザ側の知識不足などが挙げられており、当局の効果的な監視体制がないことも大きい。

 その他、以下の課題があることが指摘されている。

  • セキュリティの確保(暗証番号等の対策がされているが不十分との指摘あり)

  • 代理店の経験不足(モバイルファイナンスの成長期)

  • 女性の利用者の少なさ

 モバイルファイナンス事業者間での相互互換性がない点も、ユーザに不便である。

 

5. クレジットカードとデビットカード

(1)クレジットカード

バングラデシュでは、VISAとMasterカードの他、American ExpressとJCBのクレジットカードが地場の銀行によって発行されている。バングラデシュにおいてクレジットカードが登場したのは1997年であり、その後、徐々に発行枚数と利用量が増加している。

 

(出典)バングラデシュ銀行9

 

 クレジットカードは、POSの設置された場所で使用できるほか、2009年からインターネットのオンライン決済にも利用することが可能となった。

 なお、バングラデシュにおけるクレジットカードは、外貨規制により海外での支払いの限度額が設けられている(南アジア地域協力連合SAARCの国では年間$2000、その他の国では年間$5000が上限。またオンラインでの購入には別途年間$1000が利用できるが、1回あたりの利用は$100が上限)。

 

(出典:Daily Star記事10

 

(2)ATMカード・デビットカード

 バングラデシュの各銀行は、ATMで現金引き出しなどができるATMカードや、小売店などでの代金支払いに利用できるデビットカードを発行しており、その発行枚数は年々増加中。

 

(出典)バングラデシュ銀行11

 

 全国支払スイッチ(National Payment Switch、NPS)が導入されたことにより、発行銀行と異なる銀行のATMでも現金引き出しが可能となっている(但し、手数料がかかる)。

 世界銀行のFinancial Inclusion Data(2014年)によれば、15歳以上の大人の銀行口座の保有率は29.1%で、南アジアの平均である45.5%に比べ、大きく見劣りしている。またデビットカードを保有している率は5.2%にすぎない(南アジア平均は18%)。

 バングラデシュのATMは、全国で8582台(2016年7月末時点)あるが、都市部に集中していること、他銀行のATMからの現金引き出しに手数料が高くかかることなどの問題点が指摘されている。

 

6. 電子決済利用の現状

 バングラデシュ銀行は、2014年より電子決済やeコマースかかる利用状況の統計を取っており、クレジットカードの利用については以下の表のとおり、増加傾向にある。

しかし、eコマースでのクレジットカードの利用は、伸び率は高いが規模はまだ小さい。現地の調査会社の調査12によれば、eコマースではユーザの73%が代金引換取引を希望しており、クレジットカードやデビットカードの利用を希望するものはわずか7%にすぎない(モバイルファイナンスの利用は20%)。

 これは資金決済システムに対する不安というよりは、まだ新しい分野であるeコマースの事業者に対する不信が強いことを示しているとも言える。また電子決済に関するユーザの知識が不十分な点も指摘されている。eコマースのビジネスが一定の信用を勝ち取り、電子決済の利用経験が積み重なるうちに、利用頻度・金額ともに増加するものと予想される。

一方、POSでの利用金額は伸び率、規模ともに増大しており、今後とも、利用が増えていくものと見込まれる。

 

(出典)バングラデシュ銀行13

 

7. 日本企業にとっての商機

 日本企業にとって、今後、拡大が見込まれる電子決済にかかるハード面、ソフト面でのビジネスチャンスが見込まれる。

例:POSシステム、店舗情報端末、POSシステム用タッチパネルPC、モバイルソリューション用バーコードリーダー、決済用磁気カードリーダーなど。

 また、クレジットカードや電子マネーなどの決済ビジネスを中心に、ポイントカードなどのCRMビジネス、ID カードや認証システムなどのセキュリティビジネス、さらには IC カードや携帯電話などのハードウェアを巡るビジネスなどへの展開が期待できる分野である。

資金決済の量や複雑性が増し、より安定性やセキュリティが求められていく中で、現地企業と組みながら、日本企業の高い技術力が生かされる余地が生まれてくる可能性がある。

 バングラデシュの電子決済の普及に伴い、バングラデシュ国内市場での販売戦略に多様なオプションが加わることで、今まで代金の回収の観点から困難とされたビジネスにも実現の可能性が高まってくる。資金の回収にかかる人件費などのコストを大幅に削減し、オペレーションの管理を単純化できることは新しいビジネスモデルに道を開く。ヘルスケアや教育などの分野において、すでにモバイルファイナンスを活用したサービスやアプリケーションが現れている。

以上


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