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産業レポート2017.09.25

ソーシャルビジネスとBtoG (Business to Government)
~バングラデシュ政府は“よき顧客”か?~

地域:全国

分野:全般

 アメリカや欧州では、ソーシャルビジネスは政府の行政サービスを補完するNPOや協同組合の活動から発達してきた歴史があります1。またバングラデシュ等の発展途上国においてもソーシャルビジネスは、例えばグラミン銀行の活動のように、金融サービスなど社会的インフラの不備を補う形で成長してきました。このような背景から、ソーシャルビジネスでは現地政府との連携が、しばしば強調されます2。別の言葉で言えば、ソーシャルビジネスには現地政府の行政サービスを補って、或いは現地政府に代わって住民にサービスを提供する役割が求められていると言えます。このようなケースでは、多くの場合、現地政府との「連携」とは、政府の公共調達に参加することを意味します。即ち、BtoG(Business to Government)と呼ばれるビジネス形態です。

 一方、フィールドにおける膨大な行政サービスのニーズとは裏腹に、発展途上国の政府は一般的に、先進国の政府ほど組織的でもなければ、効率的でもありません。このように考えると、ソーシャルビジネスにおけるBtoGは、そう単純なことではないようです。今回は、ソーシャルビジネスにおけるBtoGについて、バングラデシュ政府を事例に考えてみたいと思います。

右肩上がりのバングラデシュ政府予算

 下図はバングラデシュ政府の予算規模(当初予算額)の推移を表したものです。毎年、右肩上がりで増加していることが分かります。特に最近5年間では2倍に膨らんでいます。

(出典)Budget Speech (Ministry of Finance)

 これらの予算には公務員の人件費や国防費、或いは巨大インフラプロジェクトの費用など、ソーシャルビジネスとは関連のない予算も含まれています。この為、このような予算の増加が、ソーシャルビジネスの「需要」にどこまで影響するのかは一概には言えません。但し毎年、急速に予算規模が拡大していることを勘案すると、ソーシャルビジネスに関連する予算項目も増額されていると推測することは、「当たらずとも遠からず」といったところではないでしょうか。

複雑なバングラデシュ政府の予算プロセス

 例えばバングラデシュ政府に購入して貰って水の浄化装置を村に提供する場合などでは、バングラデシュ政府内で個別に予算措置を講じる必要性が生じます。下図は、この予算プロセスを表したものです。

 (注)「PEC」はProject Evaluation Committee(事業評価委員会)、「ECNEC」はExecutive Committee of the National Economic Council(国家経済会議理事会)、「ADP」はAnnual Development Programme(年次開発計画)の略語。

 (出典)『バングラデシュ国公共投資事業運営管理に係る情報収集・確認調査』(JICA)(http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/12080461.pdf

 バングラデシュ政府内では、担当部局が案件毎に開発事業提案書(Development Project Proposal : DPP)や技術支援事業提案書(Technical Assistance Project Proposal: TPP)を作成し、上位省庁や計画委員会、財務省などの承認を得た後、予算として確定します。先の図を見てもわかる通り、このプロセスは幾つもの機関にまたがり非常に複雑です。また、予算の増加に伴い各省庁の業務量も増えているので、省庁を訪ねると、どの担当官の机もファイルの山であふれかえっている光景を目にします。この為、このような予算プロセスを完結させるには、多大な時間が掛かります。場合によっては、年単位の時間を要することも珍しくありません。

ガバナンス(統治能力)が弱いバングラデシュ政府

 このように政府予算が毎年増加する一方で、その行政処理能力が弱いのは、何もバングラデシュ政府に限った話ではありません。発展途上国では一般的に見られる現象です。ここで問うべきは、バングラデシュ政府の行政処理能力は他の国に比べて、どれほど良いのか(あるいは悪いのか)ということです。

 このような現地政府の行政処理能力を見る為に、2つのデータを参照します。まず1つ目は、世界銀行が発表している「Doing Business」です。この指標は、その国の投資環境について「起業」や「建設認可」など10項目を調査したものです。各項目の順位の他に、これらの項目を合計した「総合順位」も発表されます。

 下表は、東南アジアや南アジアの主要国における2016年の「Doing Business」の順位を比較したものです。バングラデシュは190か国中176位であり、他国と比較して低い順位に留まっています。特に「電気」や「不動産登記」「国境貿易」など政府の施策や手続きに関連する項目の順位が低いことが目をひきます。

(出典)Doing Business (World Bank)

 2つ目は、世界ガバナンス指数です。「ガバナンス」とは、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」などの言葉にも使われるように、一般的に「統治」という意味で用いられます。この世界ガバナンス指数は、政府の統治能力を指数化したものです。具体的には「説明責任」「規制の質」「法整備」などの6項目から構成されています。この指数が大きいほどガバナンスが良好であることを示し、反対に指数が低いほどガバナンスが悪いことを意味します。

 下表は先ほどと同様に東南アジアや南アジアの主要国における世界ガバナンス指数を比較したものです。バングラデシュは6項目の平均が21.42で、これらの国の中ではミャンマーに次いで下位から2番目でした。「政治的安定」や「汚職管理」の数値が低く、全体の足を引っ張っています。

(出典)World Governance Index (World Bank)

 特に汚職は、バングラデシュでは幅広く見られる現象です。教育現場や公立病院ばかりでなく3、災害時の緊急援助物資の配布にも、汚職がはびこっていることが報告されています4。先述の通り昨今、どの省庁や部局の机もファイルであふれ返っていることから、これらのファイルより優先して処理をする(文字通り)「Speed Money」を要求される事例も、枚挙にいとまがありません。バングラデシュ政府の担当者には、「自分がサインをすることで企業は金儲けが出来るのだから、自分のサインに対価を要求して何が悪い」という発想があるようです。国民の公僕という意識を持った公務員は少ないので、この点には注意が必要です。

 いずれにしても、これら2つの指標から見えてくることは、バングラデシュ政府のガバナンスや行政処理能力は他国と比べても悪いということです。

 バングラデシュ政府は「よき顧客」か?

 今まで見てきたように、ソーシャルビジネスにとって、政府予算の規模が大きいほど、またガバナンスが良好な政府ほど、BtoGとしての参入可能性は高いと考えられます。別の言葉で言えば、ソーシャルビジネスのBtoGにとって、政府支出の大きさとガバナンスの良さの両方を兼ね備えた政府は、「よき顧客」と見なすことが出来ると言えます。

 下図は、各国の政府支出とガバナンス指数をプロットしたものです。即ち、縦軸は政府最終消費支出を表わし、上に行くほど支出額が大きくなります。また横軸は先ほどの世界ガバナンス指数(6項目)の平均値を表わし、右に行くほどガバナンス指数が高く、ガバナンスが良好であることを示しています。このように、この図の中では右上に行くほど政府支出が多いと同時に、ガバナンス指数も高くなるので、ソーシャルビジネスでBtoGを考える際には「よき顧客」である可能性が高いということを意味しています。

(出典)Governance Index (World Bank)及びWorld Development Indicators (World Bank)

 この図の中では、マレーシアやインド、インドネシア或いはタイといった国々が、比較的右上に位置しており、「よき顧客」と捉えることが出来そうです。一方、バングラデシュは赤の点で示している通り、最も左下に位置しています。この為、到底「よき顧客」であるとは言えません。

 バングラデシュ政府の公共事業を請け負って仕事をしたことのある日本企業の話では、工事終了後の支払いも決して契約書通りには行われず、何回も担当部局に通って支払いをお願いした結果、1年半後に工事代金の数十%がようやく支払われたとのこと。先述の通りバングラデシュ政府の予算手続きは複雑で、いつ終わるのかを事前に予測することは困難です。予算措置が終わらないと入札が実施されないことを勘案すると、いつ入札があるか分からず、また事業終了後の支払いも、いつ支払われるかも分からない状況では、ビジネスとしてのリスクは高いと言わざるを得ません。

 日本企業の中には、バングラデシュ政府を相手にBtoGでソーシャルビジネスを志向する企業が少なからずいます。しかし、このように見ていくと、バングラデシュ政府を相手にする場合には、より慎重に事業を進める必要がありそうです。バングラデシュ政府を相手にBtoGを仕掛ける場合には、少なくとも、実現可能性の高いBtoCやBtoBを用意しておくことがビジネスの戦略としては必要なのではないでしょうか。


  • 1 原田晃樹、藤井敦史、松井真理子(2010)『NPO再構築への道‐パートナーシップを支える仕組み』、勁草書房
  • 2 Hammond. A, W.J Kramer, J. Tran, R. Katz and C. Walker (2007) “The Next 4 Billion: Market Size and Business Strategy at the Base of the Pyramid” (Washington DC: World Resources Institute)
  • 3 Colin. Knox (2009) “Dealing with sectoral corruption in Bangladesh: Developing citizen involvement”, Public Administration and Development, vol.29, p.117-132
  • 4 Tanvir. Mahmud & Martin Prowse (2012) “Corruption in cyclone preparedness and relief efforts in coastal Bangladesh: Lessons for climate adaptation?”, Global Environment Change, vol.22, p.933-943

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