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HOMESDG長年抱える課題「水」

SDG2019.11.25

SDG-3 すべての人に健康と福祉を

【バングラデシュにおける持続可能な開発目標(SDG)】

地域: 全土

分野:ヘルスケア

疾病構造の転換

近年、バングラデシュの保健医療事情は大きく改善してきています。
平均寿命の推移 を見ると、下記グラフのように右肩上がりに伸びていることが分かります。

母子保健分野においても、妊産婦死亡率は1990年と比較して、出生10万対574から172名(2017年)、5歳未満児死亡率は出生1000対144から31名ii(2017年)へと大きく改善していますが、依然として高い数値を示しており、SDGsにおいて2030年までに達成すべき妊産婦死亡率(出生10万対70)及び5歳未満児死亡率(出生1000対25)を実現するためには更なる努力が必要ですiii

20年前、死亡要因の上位を占めていたのは、下痢に伴う栄養失調、マラリア、結核などの感染症等でありました。一方、今日では、バングラデシュの経済発展等に伴い、食習慣や生活様式の変化、喫煙の増加等により心血管疾患・がんといった非感染性疾患(NCDs: Non communicable Diseases)が全死因の約6割を占めるようになってきています。

このような疾病構造の転換に対して、公的医療サービスにおけるNCDsの予防、早期発見や早期治療のための環境は十分に整備されておらず、疾病構造の変化に対応した対策の強化が求められています。日本のような公的医療保険制度も整備されていない状況下、日常的な傷病に要する高額な治療費が、特に貧困層の家計を直撃して更なる貧困を助長してしまっているのが現状です。

医療サービスの担い手である医師、看護師、助産師等の不足も深刻です。特に看護人材は人口1000人当たり0.14人と医師(1000人当たり0.26人)よりも少ないと指摘されています(2006, WHO)。

このような状況に危機感を抱き、数多くの民間/スタートアップ企業もヘルスケアビジネスを通じた課題解決に取り組んでいます。
今回は、その中でもモバイルICTを駆使して独自のビジネスモデルを展開している企業2社へのインタビュー内容を紹介したいと思います。

CMED ~ IoTで全ての人々に健康診断を ~

「 バングラデシュのヘルスケア業界は数多くの問題を抱えています。
   非感染疾患(NCDs)の台頭
   一般の人には負担の大きい高額な医療費
   医療機関側の記録(患者さんのカルテ記録や健康診断データ等)欠如
   機能していない病院間の紹介システム ・・・・
     私たちCMEDは、IoTテクノロジーを用いてこのような問題を包括的に解決するためのビジネスモデルを創案し、実現に向けて日々一生懸命取り組んでいます。 」

CMED(Cloud – Based Medical Service)の創始者、Dr. Al Mamunは力強く、そう語りました。

CMEDは、遠隔地の人々のところへも訪問して健康診断サービスを提供することができるよう、ポータブルの健康診断キットを独自開発しました。

CMEDのポータブル健康診断キットのイメージ図 (https://cmed.com.bd/)

CMEDのビジネスモデルで特筆すべき点は、健康診断現場でキットとスマホアプリを使って即時検査(血液検査等含む)~ レポーティング・フィードバックまでの完結したサービスを安価な価格で提供することができることです。当該サービスを支えるクラウドベースのITインフラがCMEDの強みです。健康診断キットを用いて患者から得られる情報をその場で専用アプリを通じてクラウドデータベースに送り込み、(ビックデータ解析により)即時診断を行ってフィードバックを行う仕組みが整っています。
幾つかアプローチがあるようですが、農村地区では100タカ(約130円)で年間サービスを提供しているとのこと。ここまでのローコストモデルを既にITインフラを実装して事業展開できている企業はまだ少なく、CMEDの先進的かつスピード感のある取り組みは、各方面から注目を集めています。

健康診断キットを用いて血液を採取している様子

現在大きく3つのアプローチを通じて活動しています。1つは、農村部における訪問診断です(下図・右SSK)。健康診断キットを担いで1戸1戸訪問して健診サービスを提供するためのヘルスアシスタントを雇っています。他には、企業や学校等で集団健診を実施するもの(下図・左WWP)や、薬局を通じて行うもの(下図・中央DSA)があります。
訪問診断モデルは政府からの支援も受け、一部地域でのトライアル事業を完了しています。
現在、CMEDアプリのユーザー登録者数は132,000人以上に至っているようです。

CMEDアプローチ略図(https://cmed.com.bd/)

順調に事業拡大しているように見受けられるCMEDですが、課題も少なくありません。
バングラデシュでは保健・健康等に関する教育は十分に行われていません。殊更農村地区では「健康」という概念は醸成されておらず、まずは健康診断の必要性を理解してもらうところから始めないといけません。健康とは、予防はなぜ重要なのか、、そういったことを理解してもらえないと、例え100タカであろうとサービスを買ってはもらえません。
スタートアップのCMED単体ではこういった啓蒙活動を行うにも限界があります。そこで、政府、自治体、或いは農村地区の村長等のオピニオンリーダー・医療関係者等を通じて地域住民に説明してもらうなどの取り組みを進めています。

先述したポータブル健康診断キットの調達コストも課題として挙げています。デバイスの多くは海外から輸入しているため、金額面も然り、リードタイム(発注してから製品が届くまでの工期)もかかり苦労しています。どうにかしてバングラデシュでローカル製造することができないか、日本企業等の知恵・協力を得たいとのことです。

CMEDヘルスアシスタントが訪問健康診断サービスを提供している様子

Telenor Health ~ 安心を届けるモバイル医療相談サービス

2015年、Telenor(ノルウェー通信大手)はローカルパートナーの通信大手(GrameenPhone)と共にTelenor Healthを立ち上げ、GrameenPhoneの通信ネットワークを介した医療サービスを開始しました。
Telenor Healthの主要サービスは「Tonic Doctor」と呼ばれており、電話(テレビ電話含む)・SMSによるリモート医療コンサルテーションサービスの提供です。
GrameenPhoneの通信利用者であれば登録はフリー。いかなる医療相談にも対応可能で、コンサルテーションは医師が対応し、サービス料金は1分当たりたったの5タカ(約6.5円)。必要に応じて、医薬品等のホームデリバリーも行います。

Telenor Healthのサービス広告

医療コンサルテーションの他にも、様々なサービスを提供しています。
提携している病院・薬局等の医療機関があり、Tonic Doctorの会員であれば提携病院・薬局等でかかる医療費を最大50%ディスカウントする 「Tonic Discount」というサービスもあれば、会員専用の医療保険商品「Tonic Cash」も販売しています。

Tonic Cash(医療保険商品)の広告

Telenor Healthも課題は多いと言います。「特に地方部の方々からは、病院に足を運んで面々で医師に診てもらうのが診療であって、モバイル相談は診療ではない。実際に会わないと信頼できない。などと言われて断られることも少なくありません」と、Telenor Healthのマーケティング担当者は苦労を滲ませながら話してくれました。数多くのセミナー開催等を通じてサービスの品質を訴え続けています。こういった地道な取り組みにより、徐々にマーケット認知度が高まってきていると伺っています。

農村地区でのTelenor Healthのセミナー開催

ヘルスケア業界においてモバイルICTモデルは革命を起こせるか

今般紹介したCMEDはIoTx健康診断、Telenor Healthはモバイル通信x医療相談と、いずれも其の分野では先駆者的取組みであり、それゆえにマーケットにおける認知度はまだ熟しておらず、コンシューマー側への啓発活動をも自らが行わなければならないという苦労が垣間見えます。
他方、明るい材料は確実に存在します。バングラデシュにおいて、携帯電話はもとよりスマートフォン普及率も堅調に伸びているし、モバイル媒体を通じた金融サービス(モバイルファイナンス)が既に一大マーケットを築けていることからも、モバイルICTを通じたサービスを受け入れる素養は整っていると言えます。
日系企業も同分野に乗り出しています。JICAの民間連携事業を通じて、コニカミノルタ(株)・(株)miupもバングラデシュでICT・AI技術を駆使した健康診断事業を行うべく事業化検証に取り組んでいるところです。
このような取り組みは世界レベルにおいても先進的なものと言えるかもしれません。バングラデシュで成功させることができれば、他国へのモデル展開も十分に考えうると期待してしまうのは、筆者だけでしょうか。
バングラデシュ発のモバイルICTモデルが革命を起こすことを期待しています。

※当該記事は、NewVision Limitedによる”Report on SDG3 with case studies 2019”を基に作成しています。

(参考/引用)

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