体育授業づくりワークショップ第2弾

小学校低学年における体育授業の改善

2019年1月にプロジェクトが作成支援した『保健体育共通コア・カリキュラム(CCC)』の導入を行っている4つのパイロット小学校低学年教員を対象に、第1弾のワークショップを実施しました。この取り組みの背景と様子は前回の記事『ボスニア・ヘルツェゴビナ体育事情』をご覧下さい。(注)今回は対象をモスタル市内の小学校全体に広げ、16校から29名の低学年教員が参加しました。うち、4名は障害者施設の教員です。

ワークショップ冒頭に、普段の体育授業での課題は何かと先生たちに尋ねたところ、「十分な施設や用具がない」「子どもがケガをするのではないかと不安」「就学前の運動体験が少なく、基本的な身体コントロールができない子どもが増えている」といった予想どおりの意見が多くありました。

このような先生たちの意見を前提に、最初のプレゼンテーションでは、日本でも同様に子どもの運動に対する『二極化』が問題となっているということを共有しました。いわゆる、運動が好きな子どもは自分から運動に取り組み、生活の中で身体活動を自然と取り入れることができるけれど、運動が苦手な子ども、嫌いな子どもは、どんどん身体活動から離れていってしまうという状況です。そもそも現代の子どもたちは外遊びが少なくなっていますから、幼少期の楽しい運動経験や、多種多様な動きを取り入れた運動経験を意図的に作ることがとても重要になっています。

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プレゼンテーションの様子

日本では就学前の幼稚園や保育園で、子どもが遊びを通して、様々な能力を身につけるよう取り組んでいます。運動の基本となる『走・投・跳』などの身体能力はもちろんですが、それだけではなく、協調性や規律を身につけるといった精神面の成長も含まれます。例えば、遊びの中で仲間との関係を築いたり、ルールを守ることを覚えたり、自分の感情をコントロールすることなどです。低学年教員の役割は重要です。先生たちに伝えたことは、『低学年の子どもにとって大切なのは、正しい動きができるようになることよりも、運動の楽しさを体験したり、いろいろな動きに挑戦したりして、運動嫌いの子どもを作らないこと』です。その結果、将来より真剣にスポーツに取り組むきっかけとなったり、生涯にわたって運動に親しむ態度を養うベースを作ることです。

先生たちに楽しさの共感を

2019年1月に開催したワークショップ同様『グループづくりゲーム』『ひざタッチゲーム』『新聞押し相撲』『しっぽ取りゲーム』『無限の椅子』を先生たちと一緒に実践しました。最初はあまり積極的ではない先生たちも、周囲の先生たちと自然と手と手を触れ合ったり、互いに関わり合ったりする中で、徐々に緊張がほどけていきます。ゲームは大人でも必死になる場面が多く、あちこちから笑いや歓喜の声が起こり、ゲームは予想以上に盛り上がりました。

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新聞押し相撲

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ひざタッチゲーム

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無限の椅子

なわとびの紹介

モスタル市スポーツ協会は健康増進の取り組みのひとつとして、子どもたちになわとびを広めようと、いくつかのイベントでなわとびを取り入れています。ボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)でも学校によっては、体育の授業でなわとびを実践していますが、より多くの学校で導入してもらうことを目的に、今回のワークショップでも短なわとびのいくつかの技と長なわとびの遊び方を紹介しました。

冒頭でも述べたように、最近では『転ぶときに手をつけない』『まっすぐ走ることができない』など、子どもたちの体に様々な変化が起きていることは、日本もBiHも同様です。昔は、学校体育以外の場面で、鬼ごっこや缶蹴り、ゴム跳びなどの遊びを通して、多様で豊富な動きを身につけてきましたが、現代の子どもたちは外遊びの機会が少なくなっています。

なわとびは、狭いスペースでも取り組むことができ、跳躍力や持久力、コーディネーション能力の獲得に有効です。コーディネーション能力というのは、目や耳から入ってきた情報を脳が上手に処理して、体の各部分に的確に指示を出す能力です。なわとびは手で縄を回しながら、体を上にジャンプさせ、廻っている縄を飛び越えるといういくつもの動きを一度に行う運動ですから、低学年の子どもができるようになるまでの指導はなかなか難しい面もあります。初心者にはひとつひとつの動きを分解して、段階的に指導することが必要ですので、そういった指導のポイントも共有しました。また、授業で扱う際には、個々のレベルに合せた指導、グループで練習に取り組ませる工夫なども必要です。できる子は、自分で目標を持ち、どんどん難しい技に挑戦できるようなわとびカードの使用も紹介しました。

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現地語版なわとびカード

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参加したすべての学校に配られた長縄と短縄

小学校低学年の体育授業の質を向上させるためには、先生たちの意識を変えていくことが必要です。体育の専門ではない低学年の先生たちにとって、週2回の授業づくりは負担になっているのが現実です。新たに作られたCCCは年齢ごとに子どもに身につけさせたい能力(アウトカム)が示されており、そのための手法は先生たちのアイデア次第と言えます。今回のワークショップが先生たちのアイデアを広げるためのきっかけとなり、楽しくより充実した授業が展開されることが期待されます。

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集合写真