全人的な教育を促進させるキャパシティビルディング・ツールキットの開発

プロジェクトでは、マレーシアで全人的な教育 1 を学校現場で普及するために、小学校・幼稚園教員向けのガイドとして、キャパシティビルディング・ツールキットを開発しています。同ツールキットには、マレーシア教育省の目指す思考、感情、行動のバランスの取れた児童を育成するためのコンセプトから学校での活動実践例まで掲載され、マレーシアにおける全人教育に係る理念から具体的な活動内容・手法例まで分かるような内容に工夫されています。

マレーシアでは、これまでも全人的に成長させる手段として教育を捉えることが社会の共通認識であり、主体的に学ぶ力やリーダーシップ等の涵養が重要と考えられてきました。各学校ではスポーツ(マラソン大会、サッカー大会等)、読書(読書を促す活動、読んだ本を紹介する大会等)、挨拶活動、その他様々な取り組みが実施されてきましたが、そのたびに、活動が根付かない等の問題が指摘されてきました。そこで本プロジェクトでは、全人的な教育を、学校教育全体の中の位置づけを明確にして、日本の教育実践を参考にしつつもマレーシアの文脈に沿った全人的な教育活動の導入・強化に努めています。その一環として上記ツールキットは、学校での全人的な教育活実践が教員一人一人に根付くように工夫をしながら開発されています。


[1] マレーシアの地域社会の文脈と文化に基づいて主体性や協調性など子どもの潜在的な力を伸ばし、バランスの取れた個人を形成する全人的な学校教育

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ツールキット開発ワークショップ

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MAKMurの三原則

第1版完成後も試行と修正を繰り返して、2023年の最新版では、クラス内の話し合い活動、朝の会、掃除、児童の作品の掲示、クラス目標や個人目標の設定、児童集会、クラブ活動等の実践例が紹介されており、活動の領域は学級・授業内にとどまらず、学校全体にわたります。また、各活動は計画、実施、振り返りのサイクルから成り、児童が実施した活動を自分自身で見直して次の活動へ繋げる工夫がなされていることも特徴のひとつです。加えて、教員が子どもの発達や個性に合わせて対応するためのヒント等も紹介されています。

また、同ツールキットの導入によって教員間の協力関係がより緊密になり、同僚性が高まる効果が見られています。具体的には、同ツールキットの第1版は学級会やクラス活動の実施を中心にした内容となっていたため、その試行時、各クラス担任が個々の考えや裁量で活動を完結させる傾向にありました。しかしながら、ツールキットの試行と改訂の結果、今では活動の領域が学校行事や授業、クラブ活動等にも広がったことにより、各クラス担任間の横の関係だけでなく校長・副校長からクラス担任までの縦の協力体制も取られるようになりました。結果、活動をするにあたって各種調整等が行われる中で、管理職含む教員間の関係の深まりが見られるようになりました。

同ツールキットは、2024年から徐々に使用校を増やして数年後には全国で実施される想定であり、より多くの子どもたちの全人的な発達に役立つことが期待されています。

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キャパシティビルディング・ツールキットに明示された計画、実施、振り返りのサイクルの詳細説明

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校内のカフェテリアの掃除

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集会をリードする児童

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児童集会の準備

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1日の振り返りを書いた紙(学級)