一般社団法人アフリカ開発協会アフリカの魅力を伝える橋渡し役として
アフリカが教えてくれる大切なこと

  • グローバル人材の育成・確保

一般社団法人アフリカ開発協会の発足は、青年海外協力隊と同じ1960年代。ヨーロッパ列強によって植民地とされていたアフリカ各地で独立運動が活発化し、1963年にはアフリカ統一機構(OAU)が発足。アフリカが躍進し、世界的に注目され始めた時代だ。しかし、半世紀以上経った現在でも、アフリカ諸国の経済基盤は整っているとは言えず、同協会は諸国の地場産業を育成し、安定した発展をするための協力を継続している。その具体的な活動内容をはじめ、事務方として同協会を支えるJICA海外協力隊経験者への期待について、事務局長の長谷川仰子さんに話を伺った。

アフリカ諸国の経済発展に寄与するために
現実性を重んじる「橋渡し役」として

当協会の発足は1969年になります。発起人は、元総理の岸信介氏や経団連会長を務めた植村甲午郎氏です。その2年前には「アフリカ協会」が発足しています。名前が似ているので混同されるのですが、「アフリカ協会」は日本とアフリカの広い意味での文化交流を主な目的としています。一方、当協会はアフリカ諸国の経済発展に寄与することに特化している、と言えば分かり易いのではないでしょうか。なお、当協会は日本政府と日本企業にもメリットがあるように留意して活動しています。

当協会の主要事業は、アフリカ諸国の政府と日本企業、アフリカ企業と日本企業、場合によっては政府間の援助案件形成のお手伝いです。例えば、ある国の政府高官から「港を作りたい」という相談を受けたとします。もちろんODAが必要なのですが、実際に施工してくれそうな日本企業があるのかを確認してマッチメイクし、どのような工事が必要なのかを調査しなければ案件化は出来ません。

現地の実情も可能な限り正確に把握する必要があります。先日、「ベッド数300床の病院を建てたい」という相談がありましたが、実際には医師が不足しているためにそんなに大きな病院は機能しそうにないことが判明。「50床にしたらどうか」などと現実的な提案し、案件化し易くするのも私たちの仕事です。

当協会会長が特に注力しているのは、水とエネルギーのインフラ整備です。その基盤がなければ発展は難しいという信念のもと、各国のダム建設などのお手伝いをしています。そのほか、各種のセミナーも当協会で主催しています。近年、ODAが減額傾向にある状況下でアフリカとのビジネスを継続するのはどうするべきか、などがよく扱われるテーマです。各国の信頼できる開発銀行と連携し、ODA以外から資金を調達するなどを検討しています。

事務局長の長谷川仰子さん

求められるのは「自律型」の仕事の姿勢
「人」が魅力のアフリカを知ってもらいたい

当協会には会長以下15名の理事がおり、それぞれの得意分野を活かして案件化のお手伝いをしています。事務方は私とJICA海外協力隊経験者である髙津早由里さんだけです。力仕事以外は本当に何でもこなさなくてはなりませんから、当協会で働くと鍛えられると思います。そもそも、自律型の人でないと務まらない仕事と言えます。

私をサポートしてくれるスタッフは髙津さんで3人目になるのですが、いずれも協力隊経験者です。長期休みや転職を理由に退職することはやむを得ないのですが、「次の方を探して来てね」とお願いしている結果です。それだけ当協会と協力隊は相性がいいのだと思います。

私の考えでは2つの理由があります。ひとつは、協力隊経験者は開発途上国の現実を体験していること。アフリカの人たちにとって日本の企業や社会の常識が通じないことを、説明しなくても分かることです。会合の急なキャンセルや時間変更は日常茶飯事で、それを想定してプランを複数考えておかねばなりません。「このポイントを押さえておいて欲しい」と、私が指示しなくてもピンときてくれる点はとても助かります。

もうひとつは、「自律」です。当協会が扱う案件で、同じものなどひとつもありません。会長の出張先と会合の相手も多種多様。経理業務以外はルーティンワークは無く、「この作業を先にやっておくと上手くいくだろう」などと自分でイメージを作り、考えて動いてもらう必要があります。私がいちいち指示を出している暇はないからです。この点も、不便なことが多い派遣国で、自分なりに活動した経験のある協力隊と通じるものがあるのではないでしょうか。

開発途上国の現場に住みながら活動している協力隊員は「現場のニーズ」を把握しているため、当協会にも大いにメリットがあります。例えば、ある国の政府関係者から送電網の整備を依頼されたとします。しかし、現地で生活している協力隊員の話を聞くと、その前にすべきインフラ整備が見えてきたりするのです。協力隊員からの情報のおかげで、外交的な視点と生活者の視点の両方を当協会は持つことが出来ています。

私はこれまで、海外と日本の接点を作る仕事に携わってきました。業種は異なるものの、人とのつながりを大切にすること、交渉のやり方を注意することは変わりません。どの国の方のお相手をする時も、まずはその話をちゃんと聞きます。そうすることで、こちらの説明や意見にも耳を傾けてもらえます。どの方にも考えや想いはありますが、話を虚心で聞くことで、相手の本気度が分かると私は思っています。もちろん、アフリカの方々が相手でもこの原則は変わりません。これまでの人生の歩み方は異なりますが、協力隊に参加された方も同じように考え、実践しているのではないでしょうか。

アフリカの魅力は人です。アフリカの人たちとちゃんと向かい合う経験をすれば、彼らが少なくとも憐れむ対象ではないことが分かるはずです。不幸な植民地時代に文明や文化を破壊されてしまった面がありますが、地に足をつけて自分の国を何とかしていこうとする姿は、非常に魅力的です。今の時代だからこそ、一人でも多くの日本人にアフリカと何らかの形で交流して欲しいと思います。ご縁があれば当協会にもお越しください。

JICAボランティア経験者から

会長秘書 髙津早由里さん
(ケニア/コンピュータ技術/2017年度派遣)

海外生活に憧れてJICA海外協力隊へ
日本で積んだキャリアが役立つ

私は千葉県出身で、大学ではITを専攻、その後システム子会社に就職しました。省庁のPCやサーバーの入れ替えといった大規模案件が多く、やりがいはありましたが多忙な日々でした。当時からもっと海外を見てみたいという思いがあり、5年半で退職。半年間ほどバックパックを背負って海外を旅しました。帰国後は派遣社員としてPCのへルプデスクを務めていました。

JICA海外協力隊に参加した理由は、海外で偶然出会った協力隊参加者から現地生活の楽しさなどを聞いたことがきっかけです。美しい海に囲まれた国に行ければと夢を描いていたのですが、派遣先はケニアの内陸部で標高2千メートルもある地域。しかし、アフリカに一度も行ったことがなかったため、貴重な体験ができる機会だと思いました。

配属先は水道会社です。前任の隊員が地理情報システム(GIS)1を使った水道管のマッピング作業に着手していたのですが未完だったため、私の赴任となりました。

現地では、例えば各戸のメーターがどこにあるのかも、その地域の担当者しか把握していません。そのため、配置換えも難しく、癒着が生じ、賄賂を渡してメーターの数値をごまかすようなケースが多発していました。マッピング作業が完了すれば、各戸のメーターの位置などは一目瞭然であり、不正の解消にもつながる活動でした。

よくあることかもしれませんが、現地の上司は「やってみて」と気軽に言うのですが、現場のスタッフは「余計な仕事を増やしたくない」という態度。みんな人柄はとても良い人たちでしたが、マッピング作業に前向きだとは言えませんでした。そもそも、マッピング以前の問題もありました。会議に出席した際、無収水率(水道水を供給しているのに料金を回収できない割合)が供給量全体の60%にも上り、しかもその根本原因は会計システムにあることが分かったのです。この会社の経営は大丈夫なのかと本気で心配になりました。

結果、現地上司から「全部見直して欲しい」と頼まれ、マッピング作業の前に会計システムを見直すことになりました。以前のシステム移行作業の段階で元データが間違っていることなどが判明し、4名でチームを編成し、土日返上で取り組みました。結果、数年分の水道料金を請求することになった家庭などから苦情も発生し、その対応などにも追われましたが、この作業によって顧客情報の一覧を入手することが出来たため、後のマッピング作業に大いに役立ちました。


1地理情報システム(GIS:Geographic Information System)は、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術のこと。近年、JICA海外協力隊にはGIS活用技術の導入支援など要請が増えている。

ケニアでコンピュータ技術隊員として活動した髙津さん

アフリカでの2年間が教えてくれたこと
ウェルビーイングな生き方

ケニアで活動中の私は、苛立つことが多く、その感情を表に出していたと思います。仕事はなかなか進まない、町では差別的な言葉をかけられる、バスは時間通りに来ない、買い物をすれば料金をふっかけられる。一方で、楽しかったこともたくさんありました。ケニアの人たちはとにかく朝が元気で、出勤したら仕事よりもまずはお茶を飲みながらで談笑。マーケットで買い物があるといって仕事の途中でいなくなると思ったら、夕方には学校から帰って来た子どもたちが会社に遊びに来るなど。日本では考えられないことですが、自然と頬が緩んでしまうような毎日でもありました。

日本に居た時とは比べものにならないほど、喜怒哀楽の感情を出した2年間だったのですが、日本では感じることが出来なかった、自由に楽しんで生きるパワーをもらえた気がします。ケニアに愛着はありましたが、帰国後も国際協力の仕事に就くつもりはありませんでした。前職のIT系への復職を考えつつ、コロナ禍で仕事の仕方や生活も変わっていくなか、「ちょっとやらない?すぐに辞めても大丈夫だから」と協力隊つながりで誘われたのが当協会の仕事でした。確かに働き方は自由ですが、事務方とはいえ多忙で、責任感を持ってテキパキとこなしていかなくてはならないところが私に向いているのかもしれません。すでに1年以上、働かせていただいています。

私の業務は事務局長のサポート全般です。前職のキャリアを活かしてホームページの更新などもやっていますが、突発的な出来事に臨機応変に対応することが少なくありません。例えば、先日は当協会と関係のあるスリランカの方が突然来られ、「この商品を日本で売りたい」と言うのです。ほかの業務も動いている中、事務局長とともに相手の要望を伺うなど、対応させていただきました。また、会合や出張が多い会長の秘書業務もあります。各種手配や手続きも、依頼がある度にその都度こなしていくので、暇な時間はありません。

私はもともと楽観的な性格ですが、協力隊参加を通じてアフリカでいろいろ経験させてもらったおかげでしょうか、何かあっても動じなくなりました。予想しないようなことが起きたとしても、「そういうこともあるよね」と受け止めて、その場で自分が出来ることをすればいいという感覚です。また、自身のキャリアに関してもより楽観的になりました。IT系のスキルは常にブラッシュアップすることを忘れなければ、このまま正社員としてどこかの企業に就職することなく、フリーランス的な立場で働いていけるかもしれません。頑張り過ぎず、自分の出来る範囲で楽しく生きていこうと思っています。

会長秘書の髙津早由里さん

※このインタビューは、2022年12月に行われたものです。

PROFILE

一般社団法人アフリカ開発協会
所在地:東京都千代田区紀尾井町4番1号 新紀尾井町ビル3階
協力隊経験者:1名在籍

HP:http://afreco.jp/

 
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