株式会社マザーハウス協力隊経験者は人材の中心線
途上国と近い距離でビジネスを

  • グローバル人材の育成・確保

創業から18年目を迎えた株式会社マザーハウス。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、バングラデシュやネパールなど6か国で、現地の職人たちの技術や素材をいかしたモノづくりを行っている。途上国でバッグやジュエリーを生産するのは「労働力が安いから」ではない。途上国から「こんな素敵なものが作れるんだ」と憧れられるような世界を目指してビジネスをしている。そんな企業理念に共感し、帰国後の就職先に選んだ協力隊経験者も多い。取締役兼コーポレート部門統轄責任者の王宏平さんにお話を伺った。

JICA海外協力隊との親和性は
途上国へのフラットな目線

代表兼デザイナーの山口絵理子氏は、2006年の大学卒業後すぐ、興味のあった貧困問題を知るために、当時アジアの最貧国と言われていたバングラデシュに単身で飛び込みました。当初は2週間の予定が、1か月、2か月と延びる中で「もっと滞在してみないと分からない」と、学生ビザを取得。そのまま現地の大学院に入学し、自分にできることを探していました。

ある日、ジュートという黄色い麻でできたゴワゴワの袋と出会った山口氏は「このジュートで可愛いカバンが作れるかもしれない!」と閃きます。素人ながら絵を描き、アルバイトで貯めたお金で「こんなものを作れないか」といろいろな工場を渡り歩きました。結果、バッグを160個作ってしまったのです。このあたりのマインドや行動力は、JICA海外協力隊と似ていませんか?

「現在、マザーハウスでは、正社員は200人、アルバイトなどを含めると約300人が国内に、海外の工場には約500人が働いています。協力隊経験者は正社員の約5パーセント。私たちの会社は「途上国」がキーワードなので、やはりそういった国で活動されてきた協力隊の方々とはつながりやすいと思っています。

協力隊経験者の社員たちは、現地の人々と目線をしっかり合わせることができるという印象があります。私もタイの銀行で働いていたことがありますが、タイのように日本人が多い国では、基本的に日本人コミュニティの中で恵まれた生活をしてしまう部分が正直ありました。しかし、協力隊はそうではなくて、現地の価値観や文化と本当に距離が近く、同じ目線で一緒に活動しています。その部分はマザーハウスがとても大事にしているところでもあり、協力隊との親和性を感じる部分でもあります。だからこそ、マザーハウスで活躍していただけているのかと思っています。

他にも、何となく海外に行きたい人が山のようにいる中で、協力隊の方々はどこの国に派遣されるかもわからず、○○国ですと言われて、「えっ、そんな国あったっけ?」という感じで現地へ行き、活動することになる。そのアクション力というのは、やはり会社を運営していく上でとても重要で、素晴らしいと感じています。さらに、現地では自分は何をすべきなのかを考え、かなり厳しい環境の中で活動すると聞いています。

マザーハウスも言われたことをやっていればいいという会社ではなく、途上国でビジネスをする以上、変化や問題などはいろいろありますので、自分の部署のことだけを考えたり、以前はこのやり方だったからそうすればよい、という考え方では難しいところがあります。ですから、やるべきことを自分で見つけていく課題発見力と、変化に対する柔軟性をお持ちの方々は、活躍しやすい職場だと思いますね。

また、マザーハウスでは、生産、販売、それぞれの「現場」の力を大切にしていて、社員が海外の工場を見学できる「ファクトリー・ビジット」という制度を設けています。コロナ以前では、年に最大40名ほどが自分の行きたい国を選んで、モノづくりを学んできました。やはり百聞は一見に如かず。私たちはこの経験を非常に大事にしています。

逆に、現地の職人さんを日本に招いて、お客様イベントでワークショップをしてもらうこともあります。インドネシアの職人さんは「なぜこの人はお客様なのに、私にお礼を言うのか」と全く理解できない様子でした。しかし、自分の作ったジュエリーが大切に使われ、喜ばれていることを知ると、自分の仕事に誇りを持つようになり、働く意味が大きく変わったと言います。 こういった経験を通して、生産地の現場の視点をリアルに想像し、お客様にお伝えしていくのですが、協力隊の皆様はその現場視点を持っていらっしゃると感じています。

取締役兼コーポレート部門統轄責任者の王宏平さん

世界に通用するブランドへ
海外マーケットへの挑戦

現在、国内に42店舗、台湾に4店舗、シンガポールに2店舗、直営店があります。それなりに会社が大きくなってきて、以前は取引が難しかった百貨店でも、お店を展開できるようになってきました。しかし、どうしても社会企業家の先駆けのような会社として、またはSDGsの文脈で取り上げていただくことが多く、もちろんそれも大変ありがたいのですが、私たちはやはり良い商品をつくって売るという、純粋なビジネスをやっていきたいと思っています。

マザーハウスは代表の山口自らが商品をデザインし、職人たちが途上国で心を込めてつくったものを直接お客様に販売しています。ブランドである以上、品質も担保していきたいし、本当にワクワクワクするものをつくって売りたい。マザーハウスは究極的にいえば、やりたいことをやっているだけ。途上国から世界に通用するようなブランドをつくれたらいいよね、という思いからビジネスをやっているんです。

とはいえ、世界に通用するブランドにはまだまだ遠い道のりです。そういう意味では、途上国に興味がない人や私たちを知らない人でも、例えば少し良いカバンが欲しいときに、最初に検討する5つのブランドのうちの1つに入ってくるぐらいの立ち位置にはなりたいですね。そして次なるチャレンジは海外マーケットです。足元2~3年で力を蓄え、いつか欧米の大きなマーケットにもチャレンジしたいと思っています。

最後に、途上国から帰国されて就職に迷われている協力隊経験者の方も多いと思いますが、そもそもなぜ協力隊に参加したのでしょう。そのチャレンジには、きっと大きな理由があったはずです。それをもう一度正面に置いて、自分はこの先何をしたいのかと考えていただければ、なかにはマザーハウスで働くという選択肢が出てくる人もいるのかなと。そう思っていただけると、とてもうれしく思います。

JICAボランティア経験者から

船橋東武店店舗統括責任者 白神綾菜さん
(ベナン/村落開発普及員/2010年度派遣)

ゼロからイチを作るという経験

もともと海外に興味があり、大学では国際関係学を学びました。その中でも国際開発や途上国支援に強く惹かれ、卒業後は国際保健のNGOでインターンをしながら、ゆくゆくは自分の目で現地を見たい、旅行ではなく一定期間、現地の人と同じ目線で暮らしながら、なにか貢献できることをやってみたいと思うようになり、JICA海外協力隊に応募しました。

派遣されたベナンでは、大都市から1時間くらいの片田舎にある社会福祉センターに配属され、乳幼児をもつ母親に対する栄養指導や啓発活動などを行いました。日本のNGOでも途上国の保健事情や栄養の課題について耳にすることが多かったので、活動のイメージはしやすかったですね。

病院や診療所では子どもの体重測定を定期的にするので、いかに広く巡回して啓発できるかを考えていました。大きな病院を一つと、辺鄙な場所にある診療所6か所を巡回していましたが、交通手段もいろいろで、ひたすら歩くか、乗り合いタクシーで近くまでいくか、任期の途中から貸与された自転車でも通いました。所属先の人材不足もあり、一緒に活動してくれる配属先の同僚もいなくてほぼ一人での活動。なかなか理解が得られず苦労しました。

しかし、1年くらい続けていると、栄養指導が大事だと理解してくれる医者や看護師、一緒にやりたいと思ってくれる意欲的なお母さんなど、私のことを理解してくれる人との出会いが増え、それが活動へのモチベーションになっていきました。現地の人々の前向きなところを知ると、やはりうれしいですし、貧しい暮らしの中でも自分たちの国を良くしようと思っている人もいることを知れて良かったと思います。

将来は、途上国と関わり続けられる仕事がしたいと思いながらも、かなりギリギリまで活動に没頭していました。現地の人々の顔が直接見えて、感情が伝わるような関わり方と、現地の人たちがどれぐらい自分らしくやっていけるかというところに価値を置きたいと考えていました。協力隊では苦労しながら0から1を作りあげてきたものの、2年という任期で終わってしまい、多少の心残りがあったので、仕事としてやるならば、きちんと責任を持ってやりたいという思いがありました。

ベナンで村落開発普及員隊員として活動した白神さん

相手を理解しようとする姿勢は万国共通
いつかアフリカでもモノづくりを

マザーハウスは、代表・山口の著書を読んで知っていました。帰国した頃は創業6年目くらいで、まだ素朴で小さななお店でしたが、何より会社の理念に強く共感したことが一番の入社の決め手になりました。入社した当時は、いずれ生産国の駐在などができたらいいなと考えていたのですが、いざ新入社員として店舗で働き始めてみると、日本から伝えていくことが長い目で見ればブランドのことや現地の状況を知ってもらう一番の近道なのではないかと思うようになり、あえてずっと店舗にいます。

店舗にはマザーハウスの背景を知って来てくださる方は少なくて、何となくふらっと来てくださるお客様の方が断然多いです。最初は全く知らないままお買い物されて、長くお付き合いする中でだんだん仲良くなるとイベントにお誘いしています。

マザーハウスでは、現地から職人を呼び、お店でお客様と一緒にレザーのアイテムやジュエリー小物を作ったりするイベントを開催しています。その様子を見ていると、日本人も途上国の人も関係なく、一緒に同じ空間で楽しく過ごせることが本当に素晴らしいなと思いますね。

ベナンでは、言葉の勉強はしていたものの、やはり伝わりきらない部分もあるため、表情や言動も含めて相手の心情を汲み取り、想像してお互い同じゴールを目指すというコミュニケーションを取っていました。それが、今お店に立っていても接客などで役立っています。同じ人間でもみんな価値観は違いますし、わからないことは多いので、相手を理解しようとする姿勢を持つことが大切です。そこを丁寧にやろうと考えるようになったのも、いろいろな価値観に触れてきたからだと思います。

私はベナンで、0から人間関係を作り、一緒に物事を進めていったという実体験があるので、マザーハウスがバングラデシュから始まってネパールやインドネシアなど、生産国を増やしながらモノをつくっていく過程をリアルに描くことができます。もしかすると、そこも仕事を続けているモチベーションになっているのかなと思うのです。

今、店長としては7年目で社歴も長くなってきました。組織の中には、途上国のことを知らないスタッフも多く、育成という意味でも、自分の経験や見てきた世界が若いスタッフの力になれるような関わり方ができたらなと思います。そして、いつかアフリカの国でモノづくりの話が立ち上がったときは、絶対に貢献したいという思いがあります。自身のビジネススキルを磨きながら、何かアクションを起こせるような人材になっていきたいと考えている今日この頃です。

船橋東武店店舗統括責任者の白神綾菜さん

※このインタビューは、2023年5月に行われたものです。

PROFILE

株式会社マザーハウス
設立:2006年
所在地:東京都台東区台東2-27-3 NSKビル2F
事業内容:発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質管理、同商品の先進国における販売
協力隊経験者:約10名在籍

HP:https://www.mother-house.jp/

 
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