日経BP環境経営フォーラム
生物多様性研究会「サステナブル経営と森林保全

開催日時:2016年12月21日(水)15:30~17:30
会場:JICA研究所
主催:日経BP環境経営フォーラム
テーマ:生物多様性研究会「サステナブル経営と森林保全」

【Summary】

「日経BP環境経営フォーラム」は、企業の環境・CSR活動に関する情報の発信・収集、調査・分析を行うことを目的に、日経BP社を事務局に設立された任意組織で、現在、約150の企業・自治体が入会しています。

同フォーラムの関心事である「企業のサステナブル経営」の中で、今、森林保全が1つのテーマになっています。また、2015年に行われた気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では「パリ協定」が採択され、途上国で森林保全を行うREDD+の重要性が再確認されました。このような背景があり、REDD+への理解を深める機会を設けました。

基調講演では、住友林業 CSR推進室の飯塚優子氏が、同社がこれまでに行ってきた森林保全と、そのノウハウがREDD+事業で活かされている事例を紹介しました。続いて国際航業の山崎秀人氏からREDD+の仕組みが、丹本憲氏から、REDD+のクレジットや民間企業参入の機会について説明されました。最後にJICAの宍戸健一氏が、JICAのこれまでの森林保全活動と、REDD+の現状を説明し、池上彰氏の現地レポート映像を紹介しました。

【Report】

当日のポイントを、プログラムに沿ってご紹介します。

基調講演
住友林業のサステナブル経営と森林保全


飯塚優子氏(住友林業 CSR推進室長) 

住友林業 CSR推進室の飯塚優子氏は、国内外で持続可能な森林経営を進める上での考え方について、同社の歴史とともに紹介しました。

木造戸建注文住宅で知られる住友林業は、1691年開抗の愛媛県別子銅山で使用する木材の調達を担ったのが創業です。その森林保全に関わってきた歴史は古く、明治時代には、当時、過剰伐採などで荒れ果てていた別子の山々を再生しました。こうした経験を踏まえ現在では、同社自ら森林経営を行うばかりでなく、国内外の企業や自治体の森林経営のコンサルティングを行っています。

同社の森林保全事業の特徴は、“森林を利活用する”点です。木を植え育てるだけでなく、伐って使ってまた植えて森林資源を循環させてこそ、持続可能な森林管理が可能になるからです。また、ベトナムでアスクル社やJICAとともにREDD+の実証実験を実施し、森林再生のための植林に合わせて、地域住民の生計向上に取り組むなど、先進的な森林保全事業を進めています。

講演
REDD+とカーボンプライシング

1.REDD+とは?


山崎秀人氏(国際航業 海外事業部 自然環境部 部長)

続いて、国際航業 海外事業部 自然環境部の山崎秀人氏より「REDD+とは何か」について発表がありました。

FAOの調査によると、世界では1年間に、東京都の約23倍に相当する490万haの森林が減少しています。途上国の森林を守る仕組みが、2005年に「REDD」として、さらに新しい概念を加え2011年に「REDD+」としてスタートしました。REDD+事業は現在、多くの国で準備段階を終え、試行段階に入っています。

REDD+を先取りした取り組みとしては、1998年頃から米のワイルドライフワークス社がケニアのカシガウで行ってきた森林保全に関わる一連の事業があります。すでに事業に伴うCO2削減が認められ、クレジット取引が行われています。この事例からもわかるように、REDD+の完全実施段階では、民間企業の協力が不可欠です。


2.市場・カーボンプライシングに関して


丹本憲氏(国際航業 調査研究開発部 主席研究員 環境・エネルギー政策担当部長)

国際航業 調査研究開発部の丹本憲氏は、REDD+クレジットの適正な価格付けについて講演しました。

REDD+事業では、ボランタリー市場において、すでに森林保全に伴って排出削減されたCO2に価格が付けられ、クレジット化されて取引が行われている事例も見られます。価格は、限界削減費用や機会費用などを基に決定されますが、森林はCO2吸収以外にも水源涵養、土砂崩壊防止、生物多様性保全といった機能を果たしているため、このようなノンカーボンベネフィットを、価格にどう反映していくかが課題になっています。

またコンプライアンス市場については、国連においてREDD+の進め方について議論が続いているところですが、どちらにしろ厳しいCO2削減目標があり、民間セクターの協力が必要である限り、適切なカーボンプライシングが必要です。世界の金融機関はすでにREDD+を投資先として注目し始めています。


講演
森林保全分野の国際協力とREDD+


宍戸健一氏(JICA 地球環境部審議役兼次長) 

JICA 地球環境部の宍戸健一氏は、JICAの森林保全の取り組みを、現場の映像を交えながら紹介しました。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第五次評価報告によると、産業革命後の温室効果ガス排出量の24%は、森林減少や土地利用の変化に伴うものだとされています。現在の森林減少は1990年当時に比べて鈍化しているものの、熱帯林の減少は未だ続いています。

「パリ協定」では森林保全の資金メカニズムであるREDD+の重要性が確認されました。JICAはすでに14カ国とREDD+関係の協力を始めており、政策・制度の構築、森林炭素量測定方法の確立、森林減少の要因分析、保全活動計画などに貢献しています。

ここで蓄積されたノウハウは、今後のREDD+事業への投資によりクレジットを獲得する民間企業参入の際にも活かされます。JICAではJAXAと連携し、日本の技術を活用して「だいち2号」のレーダー画像を使った熱帯雨林の監視システムを開発する取り組みを行っています。また森から世界を変えるREDD+プラットフォームとしては、その認知度を上げるため、池上彰氏に現地レポートをお願いするなど、多角的に活動をしています。

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