自分の経験を生かして活動。
ドキュメンタリー番組の
制作指導に注力した2年間。
配属先は、モンゴルの国立の文化芸術大学に付属するラジオテレビ大学。私はこの大学の講師として、週2~3コマの90分の授業を担当することになりました。
モンゴルでは数年前からテレビ局の開局ブームが訪れ、たくさんのテレビ局が乱立しています。しかし、番組制作の技術はまだ発展途上。外国から輸入された番組をそのまま放送するテレビ局も少なくありませんでした。特に自分が専門としているドキュメンタリー番組は、その内容と作り方に課題を感じたため、配属先の学校でドキュメンタリー番組に特化した授業を行うことを決意しました。
ここで、日本とモンゴルの価値観の違いをあらためて考えさせられたエピソードがあります。日本のドキュメンタリー番組のDVDを学生たちと見て、内容を分析する授業でのこと。取材も、編集も、構成も、これ以上ないほど秀逸な番組だと私があらためて感心していると、一人の学生が手を挙げて、「なんでこの番組はこんなに早いテンポで、たくさんの情報を提供しているのですか?それは日本が狭い国土の中にたくさんの人がひしめきあっていて、あくせく忙しく働いているからですか?」と質問を投げかけてきたのです。
私は思わず言葉を失いました。この番組を素晴らしいと思っているのは、日本で生まれ育った私の感覚であって、モンゴルの価値観から見れば、まったく異なる番組に見えていたのです。学生からの鋭い指摘から、価値観が変わればテレビ番組のつくり方も大きく変わるということにあらためて気付かされました。
活動もあと半年ほどになったころ、ある同僚が「あなたは面白い授業をやっているそうじゃない?指導書を見せて」と声を掛けてきました。活動当初は行き違いから何となくわだかまりを感じていたのですが、自分の存在意義が認められたように感じ、素直にうれしかったです。
私がつくったドキュメンタリー番組制作の指導書は、帰国後にも活用してもらえるよう、学校に寄贈しています。私の授業や指導書で学んだ学生たちが、いつかモンゴルで面白いドキュメンタリー番組を制作してくれる日がくることを、今から楽しみにしています。