株式会社オートテクニックジャパン協力隊の経験は
これからの技術開発に役立つもの

  • グローバル人材の育成・確保
  • 開発途上国への物品提供

栃木県芳賀郡にある本田技術研究所に隣接する株式会社オートテクニックジャパンは、ホンダのものづくりを陰で支える技術者集団だ。かつて、そのホンダでF1のエンジン開発などに携わってきた代表取締役社長の青木朗雄(あおき・あきお)さんは「自他共に認める、元気な会社」を目指し、社員の自発的な活動を積極的に支援している。こうした社風もあり、同社からこれまで2名の技術者が青年海外協力隊に参加したほか、隊員の配属先に整備技術の習得に役立つ実習教材を提供している。事業管理部人事課長の矢古宇裕行(やこう・ひろゆき)さんに、隊員派遣や実習教材提供の経緯、協力隊経験者への期待などについて話を伺いました。

社員のチャレンジを応援する会社

当社は1982年に創業した四輪・二輪車の研究開発やさまざまな品質テストなどを行っている会社です。もともと、東京都内を流れる荒川の土手でホンダのバイクの走行テストをしていたことが会社のルーツになっており、それ以来、ホンダとは深いつながりがあります。そのホンダがここ栃木県芳賀郡に技術研究所とテストコースを開設したことがきっかけで、当社もこの地に現在の会社を立ち上げ、事業を開始しました。

  とにかく車やバイクが大好きな人間が集まっている会社なのですが、大切にしているのは社員のチャレンジを尊重し、応援するということです。社長の青木朗雄は「自他共に認める、元気な会社にしよう」というのが経営ポリシーであり、それはチャレンジこそが一人ひとりの心に「Spirit」を宿し、元気な会社をつくることにつながると考えているからです。

  社員のチャレンジの形は実にさまざまです。例えば社内のクラブ活動として二輪モータースポーツクラブのメンバーが鈴鹿8時間耐久ロードレースに参戦したり、入社間もない女性社員が中心となり女子レーシングチームを結成し、ホンダの軽自動車レース「N-ONE OWNER‘S CUP」に参戦したりしました。この他にも、燃費を競うエコラン部、ロボットクラブ、変わったところでは農業クラブというものまで、実にたくさんのクラブ活動が行われています。また、東日本大震災の被災地で植林をしたり、事業所周辺のごみ拾いをしたりと、会社全体として地域活動にも積極的に取り組んでいます。

事業管理部 人事課長 
矢古宇 裕行さん
後ろは同社がスポンサーとして支援したフォーミュラーカー

大きく成長して帰国した社員

社員のチャレンジを応援する、その一つが青年海外協力隊への参加でした。

  当社は2005年にボランティア休職制度を導入しています。これは、阪神・淡路大震災以降、高まるボランティア意識を反映し、中小企業にも少しずつボランティア休職制度が浸透していく中で、当社としてもそうした意志を持った社員がいれば応援していこうという考えによるものです。もっとも、実際にこの制度が活用されたのは、それから6年後になります。

  当時、エンジンの開発部門に所属していた髙木純一さんから、青年海外協力隊へ参加したいという話がありました。直属の上司だった私は会社とも相談の上、ボランティア休職制度の第一号として、彼のチャレンジを応援することになったのです。

  彼は2011年4月から2年間、自動車整備の隊員としてアフリカのタンザニアという国の職業訓練校で活動をし、一回りも二回りも成長して帰ってきました。ほとんどの日本人は行く機会すらなかなかないタンザニアという国で、日本とは言葉も文化も気候も違う中で現地の先生たちと一緒になって活動してきた経験は、本当に貴重なものです。復職後はサスペンションの開発部門に所属し、あらゆる業務に自発的かつ積極的に取り組んでくれています。

  協力隊に参加する人は、そもそも積極性があるのかもしれませんが、その積極性はもちろん、コミュニケーション能力、課題解決能力、リーダーシップなどに磨きがかかったという印象です。また抽象的ですが、協力隊を経験した人にしかないオーラ、そういうものがあると感じます。

タンザニアの職業訓練校で指導する髙木さん

現地の職業訓練校にカットモデルを寄贈

2014年4月、今度は二輪車の開発部門にいた星野大樹さんが同じくボランティア休職制度を活用して青年海外協力隊に参加することになりました。「開発途上国の人たちのために何かしたい」という強い意志を持っていた彼が派遣されたのはフィリピンにある職業訓練校で、職種は自動車整備です。

  その星野さんから、派遣された職業訓練校で教えている技術は古く、フィリピンでも主流となりつつある新しいタイプの自動車やバイクに対応していく必要があり、そのために必要な実習教材を提供してほしいという相談がありました。そこで各事業所に実習に使えそうなものはないか問い合わせたところ、浜松事業部に当社が制作したエンジンとオートマチックトランスミッションのカットモデルがあるとの連絡を受けました。このカットモデルとは内部構造を理解するのに役立つもので、モーターショーやさまざまなイベントで使われています。実物の写真を送ったところ、是非これを提供してほしいということになり、寄贈することになったのです。

  輸送や税関の手続きなどに時間がかかってしまいましたが、2015年2月には無事に現地の職業訓練校へと届けることができました。彼からは実際に授業や教員を対象とした勉強会などで活用されている写真が送られてきて、当社の支援が現地の人びとの整備技術の向上に役立っていることが分かり、こちらとしても大変うれしく思っています。

株式会社オートテクニックジャパンから星野さん(前列右端)の配属先に提供されたエンジン(左)とミッション(右)のカットモデルを前に記念撮影

帰国隊員が気づかせてくれた協力隊の魅力

当社が社員を青年海外協力隊として送り出したのは、社員のチャレンジを応援するというスタンスからでした。実際に隊員活動を経験し、成長して帰ってくる社員を見るにつれ、その魅力というものを強く認識するようになりました。

  自動車やバイク業界は現地生産という考えのもと、どんどん世界に進出しています。母体となる研究所は国内においていてもマーケットは世界ですから、技術開発にグローバルな視点というものが不可欠です。これから成長する途上国や新興国の人たちの生活に溶け込み活動してきた協力隊の経験は、まちがいなく新しいマーケットを見据えた技術開発に役立つものだと感じています。特に二輪車のメインのマーケットはそうした国々になっています。どのような使われ方をしていて、どのようなものが好まれ、どのようなニーズがあるのかなど、出張ベースあるいは駐在員として現地で生活するだけでは分からない生きたカスタマー視点を持っているのが、協力隊を経験した技術者ではないでしょうか。

  当社は国内で30数年間、四輪と二輪車の開発に携わり、その基盤はできつつあります。これからはこの基盤をどのように発展させていくかということが問われています。そして今期、社員に向けて発信しているのが「一人ひとりが自分の成長を考える」ということです。社員が自分の成長を考え、行動する。その先に会社の成長があると考えています。彼らのように国際的な感覚を持ち、何ごとにもチャレンジする「ATJ Spirit」に溢れた社員が当社の発展の原動力になってくれると期待しているところです。

自社のパワートレインテスト棟として2014年に本社近くに新設されたAJT開発センター

PROFILE

株式会社オートテクニックジャパン
設立:1982年7月
所在地:栃木県芳賀郡芳賀町大字下高根沢4518-14
事業内容:四輪・二輪・汎用製品の研究開発、品質保証サポート
従業員数:1,606人(2015年4月現在)
協力隊経験者:2名(2015年9月現在)※内1名は派遣中
HP:http://www.autotechnic.co.jp/
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