一般社団法人日本防災プラットフォーム協力隊経験者と一緒に
防災の主流化に取り組んでいきたい

  • グローバル人材の育成・確保

一般社団法人日本防災プラットフォーム(JBP:Japan Bosai Platform)は、「災害に先手を打つ!」を理念に掲げ、海外に日本企業の防災技術、製品、知見を普及する活動に取り組んでいる。2014年に誕生した新しい組織だが、青年海外協力隊経験者が活躍しており、今後も積極的に経験者を採用していきたいという。事務局長の土井章(どい・あきら)さんにその思いなどについて聞いた。

世界に日本の防災ソリューションを発信

東日本大震災では、早期地震警報システムが作動して揺れが来る前に車両が自動的にストップし、新幹線はわずか1両が脱輪しただけでした。また、津波で多くの尊い命が失われてしまった半面、地震による犠牲者はその規模に比べれば決して多くはありませんでした。1995年の阪神・淡路大震災後に地震対策をしっかり行ったことが功を奏したのです。

東日本大震災後、こうした防災技術を海外で活用してもらえれば、国際貢献にもなりビジネスにもつながると、日本企業が個別に海外展開を模索し始めたのですが、なかなかうまくいきませんでした。日本の防災技術は多種多様で、しかも、それぞれの企業が持っている技術や製品は、ソリューションのごく一部であることがほとんどです。そのため海外の人たちから見ると、全体像が分かりにくく、どんな技術があって、どこにコンタクトすればいいかも分かりませんでした。企業側も、ここを何とかしなければという問題意識を持ちながらも、単独ではどうしようもないという壁にぶち当たっていました。

そうした頃、2013年に政府の「インフラシステム輸出戦略」の中で、防災も海外展開推進インフラの一つとして位置付けられたことが契機となり、2014年に関係企業が集まって当プラットフォームが設立されました。しばらくは任意団体でしたが、2017年4月に社団法人となりました。

現在、会員は105社・団体で、業種はICT、建設、建設コンサルタント、設計、地図、計測機器、建材、防災用品、造船など多岐にわたっています。国土交通省、総務省、内閣府、水資源機構、JICA、兵庫県などの公的機関にも支援していただいているほか、日本学術会議と連携するなど、「産・官・学」の体制で活動を行っています。

会員企業が持つ防災技術を、災害の種類、対策の目的、対策の種類ごとに日本語と英語で検索できるWEBサイト「防災ソリューションマップ」を開設しています。これは、日本の防災技術のショッピングモールのようなものです。海外では国際会議の会場で、国内では来日した海外の防災関係者に対し「防災技術のゲートウェイとしてのソリューションマップがあるので、日本の防災技術を知ろうと思ったら、まずこのサイトにアクセスしてほしい」と営業活動をしています。

過去3回の国連防災世界会議は、すべて日本がホスト国としてそれぞれ横浜、神戸、仙台で開催していることもあり、「日本は防災先進国」というイメージが浸透してきています。そうした中で、われわれの「防災ソリューションマップ」も少しずつ認知度が高まってきていると感じています。

事務局長の土井章さん

会員企業でも採用が進む協力隊経験者

私自身も協力隊経験者なのですが、当団体は海外での仕事が多いので、それなら協力隊経験者がいいだろうと、2016年2月に事務所を開設したタイミングで初めて採用し、その後もスタッフの入れ替わりのタイミングで次の経験者を採用しました。現在は研究員という肩書きで、防災関係の情報収集、会員への情報提供のほか、いろいろな防災関連機関との調整などを担当してもらっています。当団体は設立後日が浅く、すべてのことを手探りで進めている状態なので、自分で考えて動いてくれることが一番助かります。開発途上国の現場で主体的に活動を行ってきたわけですから、とにかく、いろいろ考えてできることをやる、それが身に付いているところが協力隊経験者の魅力だと思います。

現在、もう一人、協力隊経験者の採用を考えています。必ずしも防災の知識を必要とはしないのですが、今回は理系のバックグラウンドを持つ人を想定しています。理系でなくとも、「防災・災害対策」に関係する職種で派遣されていた人も歓迎します。また、海外をターゲットにしていることもあり、当団体の会員企業には、すでに協力隊経験者を採用している企業やこれから経験者の採用を考えている企業が多数あります。

今後は、もっと積極的な営業活動を展開し、団体としての実績を積み上げていきたいと思っています。これまではエンジンやタイヤを別々に売っているような状況でしたので、ちゃんと自動車に組み立てて売ることが当団体に期待されている役割だと思っています。

私はついこの前まで当団体の会員企業で環境コンサルタントとして政府開発援助(ODA)に携わっていたのですが、環境の仕事を始めた1990年前後は、日本でも開発途上国でも環境に対する関心は低いものでした。ところが今は、環境は「配慮するのが当たり前」と、広く社会の中で主流化されています。現在、防災は1990年ごろの環境と同じ「夜明け前」の状態です。環境分野の黎明期を走ってきた私が、今度はここ日本防災プラットフォームで、協力隊経験者と共に防災の主流化を目指し、活動していけるというのは幸せなことだと感じています。

南太平洋の島国サモアで土木施工の技術指導をしていた協力隊時代の土井さん(写真右から2人目)

JICAボランティア経験者から

研究員 小谷枝薫(こたに・しのぶ)さん
(2014年度派遣/キルギス/手工芸)

提案できる面白さを日々味わう

趣味の手芸を生かし一村一品運動をサポート

大学3年を前にした春休みに、キリスト教系団体のスタディツアーでフィリピンの少数民族の村を訪問しました。見るもの聞くものすべてがとても刺激的で、鮮烈に印象に残りました。リーマンショックや東日本大震災などの影響もあり、就職活動には苦労したのですが、自分の趣味でもあった手芸が縁で、手芸用品のメーカーに採用していただき、3年間、そこで営業のアシスタントをしていました。しかし、フィリピンでの体験が忘れられず、もう一度、今度は長期間、開発途上国に関わりたいという思いが強くなっていきました。そうしたころ、たまたま青年海外協力隊の募集広告を見て説明会に参加しました。

直接、説明会の会場で経験者の話を聞いて、自分も「手工芸」の職種であれば応募できそうだと分かり、受験することにしました。どうにか合格し派遣されたのは、中央アジアのキルギスという国でした。活動の拠点となったのは、首都から車で4時間のところにあるイシククリ州で行われていたJICAの一村一品プロジェクトに取り組む生産者組合です。一村一品運動とは、地域の素材を使って特産品を作り、雇用と収入に結びつけて地域の活性化を図ろうという、日本発の取り組みです。キルギスでは女性の社会進出が遅れていたこともあり、私たちは女性の雇用創出に取り組んでいました。

私は製品デザインの見直しやフェルトを使った新製品の開発、商品化に必要な仕様書、品質管理マニュアル作成などを行いました。識字率は決して低くないのですが、生産者の中には普段あまり本や新聞を読まない人が多く、製品の仕様や作業手順などは、実物を見せながら口頭で説明することが一般的でした。そこで、品質管理マニュアルは文字だけでなく、イラストや写真を多く使い、ビジュアル的に分かるよう工夫しました。

2年間の活動ではうまくいかないこともありましたが、もう少し時間があれば、また視点を変えれば、あれもできる、これもできるという思いがありました。キルギスに残る方法を探したりもしましたが、やはり難しく、帰国する道を選びました。

配属された現地の生産者組合「エルアイウム」で支援していた女性グループと隊員時代の小谷さん(写真左端)

未知の分野へのチャレンジ

2016年9月に帰国し、JICAの進路相談カウンセラーなどに就職の相談をしている中で、「日本防災プラットフォーム」という団体を知りました。防災は専門外で不安もありましたが、防災に関する知識がなくても問題ないと言っていただきました。よく考えたら、この世界で防災に関係のない人は一人もおらず、もちろん自分もそこに含まれるのだと、そのとき意識が変わりました。そして、今からでも間に合うのなら、勉強すること自体が面白そうな業界だと思いました。

入職直後の2017年4月に、モンゴルのウランバートルで開かれた防災の国際会議に参加した際、「とにかく関係者と顔見知りになることが大切だ」という上司の言葉に背中を押され、無我夢中でさまざまな方との関係づくりにチャレンジしました。その後、5月にメキシコ、12月にタイの国際会議に参加しました。こうした国際会議の参加者は各国の防災担当者が多く、国際会議で何度か会ううちに顔を覚えていただけるまでになりました。

キルギスでも商品の仕様書やマニュアルを作っていましたが、実はデザインの仕事も好きで、印刷だけは外注していますが、当団体を紹介するパンフレット、ポスターなどの広報ツールを自分で作成しています。これは自分で提案してやらせてもらいました。大きい組織や会社だと、専門の部署があったり外注したりするのが当たり前で、そういうチャンスはあまりないのではないでしょうか。こういうことができる環境はありがたく、私に合っていると感じています。

業務内容は、海外の防災関係者、JICAのような援助実施団体や日本の省庁、会員企業などとの連絡・調整、会員向けサイトの運営などです。また、当団体をご存じない企業にしっかり情報を届けて新規会員を掘り起こしていくことも、私の重要な業務だと思っています。

今後は防災についてもっと勉強していくと同時に、英語力を伸ばしていきたいと考えています。隊員時代にお世話になったキルギスは、土砂崩れ、雪崩、地震など、災害リスクの高い国なので、いずれはキルギスの防災に貢献できる日がくることも夢見ています。

※このインタビューは2017年12月に行われたものです。

PROFILE

一般社団法人日本防災プラットフォーム
設立:2014年
所在地:東京都港区西新橋1-6-12 アイオス虎ノ門1006
事業概要:日本の防災に関する技術、製品、知見を世界各国に提供し、国際社会の防災・減災に貢献する。
協力隊経験者:2人(2017年12月現在)
団体HP:https://www.bosai-jp.org/ja
防災ソリューションマップ:https://www.bosai-jp.org/ja/solution
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