今治市役所地方公務員と海外協力隊の2つの共通点
社会を良くしたい想い、人を巻き込みながら物事を進めていく力

  • グローバル人材の育成・確保

造船やタオルなどの産業、最近ではしまなみ海道のサイクリングで世界的に知られている愛媛県今治市。行政を司る市役所では、以前からJICA海外協力隊の経験者を高く評価し、職員採用の試験時に特別に配慮する選考制度(注1)を設けてきた。現在、同市職員採用試験「上級<今治スタイル> 行政事務A」の試験では、公務員試験として一般的な教養試験や専門試験は行わず、自己アピール試験(録画面接)と2回の個別面接などを行い、人物重視の選考を実施している。「公共の利益を追求し、より良い社会の実現のため使命感に溢れる人」「自ら考え行動し、変革を恐れず果敢に挑戦できる人」「現状に満足せず、粘り強く努力し続けることができる人」こうした人物像を求める今治市総務部総務政策局人事課の真田裕司さんに、市の目的や期待について話を伺った。

多くの人と関わりながら正確かつ迅速に
地域社会からあらゆる面で頼りにされる仕事

新型コロナウイルス感染症への一連の対処で、私たち地方公務員の役割がクローズアップされたように感じています。政府が旗を振っているワクチン接種にしても、実務を担うのは地方自治体です。地域の医師会はじめさまざまな分野の人たちと関わりながら、正確かつ迅速に業務を進めていかなければなりません。

その一方で、今治市ではJ1リーグ(日本プロサッカーリーグの1部リーグ)の公式試合も可能なサッカー専用スタジアム「里山スタジアム」の建設が進められています。市を大いに活性化することが期待される、一大プロジェクトです。元サッカー日本代表監督の岡田武史さんがその中心にいらっしゃいますが、市役所も協力をさせて頂いています。

このように、私たち地方公務員は、新聞記事に載るようなさまざまなシーンに密接に関わります。地域社会から頼りにされ、あらゆる局面でお役に立てる仕事です。社会をもっと良くしたいという想いはもちろんのこと、人を巻き込みながら物事を進めていく力が必要で、そこがJICA海外協力隊と共通する部分だと感じています。

また、地方自治体の行政職には人事異動がつきものです。特に若いうちはさまざまな分野をローテーションして、さまざまな人に揉まれて一人前になっていきます。私自身も税務や農業土木などを経験してきました。異動するたびに異業種に転職をするようなもので、右も左もわからないような職場で勉強しながら業務を遂行しなければなりません。地方公務員として広い見識の習得のためには必要なことであり、こうした行政職には何事にも臆せずチャレンジしてくれる人材が求められています。

総務部総務政策局人事課の真田裕司さん総務部総務政策局人事課の真田裕司さん

バイタリティに溢れているJICA海外協力隊経験者たち
課題山積みの地方行政には求められる人材

帰国したJICA海外協力隊員に対し、自治体や企業が就職先としてアピールすることが出来るJICA主催の交流会には、2018年から3年連続で市は参加しています。参加したきっかけは、2017年に市職員採用試験に協力隊経験者の特別採用枠を設けたものの応募がなく、協力隊経験者はどういった方々なのか、何らかの感触を得たかったからです。

コロナ禍により最近は参加が出来ていませんが、交流会では帰国したばかりの協力隊員のバイタリティを強く感じました。正しい表現なのかは分かりませんが、ギラギラとしたエネルギーです。「こういう人と一緒に仕事がしたい」と思えるような方ばかりで、とても魅力的に感じました。齋藤凱さんとの出会いも、東京で行われた交流会です。彼は松山市にある愛媛大学の出身者でしたから、まず親近感を持ちました。好青年であり、人としての魅力を感じました。

後に、彼が今治市に来てくれたことは本当にありがたく、あの交流会での出会いがなかったらと思いつつ、彼の一生を変えたことに責任すら感じます。当初は知り合いのいない今治市での一人暮らしで、ずいぶん寂しさも感じていたようです。しかし、彼は誰とでも話せて、誰からも好かれるキャラクターですから、すぐに市に馴染んでくれました。

現在、多くの地方自治体が少子高齢化などの問題に直面しています。今治市も例外ではなく、島しょ部である伯方島に「しまなみ振興局」を設けて、地域活性化や移住促進などを図っているところです。市の島々は、橋で本土とつながっているため医療面などの心配も少なく、それでいて「島感」も味わうことが出来るため、移住する人が増えています。しまなみ海道の恩恵ですね。

こうした新しい状況を把握し、適切な施策を迅速に実行していくためには、今までの常識に捉われず、周囲を巻き込みながら行動できる人材が不可欠です。公務員らしくない公務員である齋藤さんには、このまま真っすぐに成長して活躍してほしいと思っています。

JICAボランティア経験者から

総合政策部 企画防災政策局 防災危機管理課 総務企画係 齋藤凱さん
(カンボジア/体育/2015年度派遣)

自ら進んで一歩踏み出すこと
カンボジアでの経験が価値観を変える

鳥取県の出身ですが、愛媛大学教育学部に進学してスポーツを専攻しました。学生時代はサッカーに打ち込み、高校の体育教師の教員免許を取得し、卒業後は教員を目指していました。

進路に迷い始めたのは大学3年生の時です。サッカー以外ずぼらな学生生活を送っていた自分が社会の役に立てるとは思えず、もう一度しっかりと勉強したいと思いました。その時、友人の誘いでJICA海外協力隊の説明会に参加、ラオスでサッカー指導をしてきた協力隊経験者から体験談を聞くことが出来ました。現地の人たちを支援するだけでなく、自分自身も大きく成長できるという話を聞き、「これはいい!」と直感。卒業と同時に協力隊に参加しました。

カンボジアに派遣され、地方都市の青年スポーツ教育局に配属されました。現地の学校で体育教育を巡回指導するはずだったのですが、配属先の都合で半年経っても学校に行けない状態が続きました。「このままでは何もせずに2年間の任期が終わってしまう」そんな危機感を抱くとともに現状を打開するには自分で動くしかないと思い、自転車に乗って近隣の小学校を訪問、学校長に直談判しました。幸いなことにJICAの活動を知っており、「君が新しい協力隊員か、ぜひ来てくれ」と言ってもらい、状況が一気に変わりました。

結果として、5つの小学校と1つの学校教員養成校で体育を教えることが出来ました。気をつけたのは、出来る限りその学校の教員と一緒に授業をすること。私が帰国した後、何も出来なくなってしまっては意味がないからです。

学校には日本のNPOから教科書が寄付されていましたが、現地の教員たち自身が体育教育を受けた経験がないため、ボールやグラウンドの使い方などが分かりません。文字と絵だけで指導することは不可能で、カンボジア教育省が認定しているクメール体操を40分間続けるような、そんな授業が一般的でした。そこで、集合→整列→準備体操→つなぎの運動→本番の運動という流れに沿って、授業の充実化を図りました。活動が1年経過した頃には、サッカーなどで使うマーカーコーンの代わりとして、ペットボトルのコーンを自作する教員も現れ、私の取り組みが浸透してきたことが嬉しかったです。

協力隊に参加する前の私は、受け身な性格でした。人目を気にし、自ら進んで行動しないことが多かったと思います。しかし、カンボジアでは「自分は外国人だから」と割り切り、さまざまなことにトライすることが出来ました。結果、道が拓けて自信もつきましたので、今もトライする気持ちは大切にしています。また、価値観も変わったと思います。日本にいた頃は「あれが無い、これが無い」と言いがちでしたが、今では真夏にクーラーが無くても冷たいシャワーを浴びられたら十分です。日本が如何に恵まれているかが分かると同時に、無ければ無いなりに満足感を持って生きていけることを学びました。

カンボジアで体育隊員として活動した齋藤さんカンボジアで体育隊員として活動した齋藤さん

国づくり・人づくりの経験
社会に貢献できる地方公務員の醍醐味

以前は明確な進路を描けなかったのですが、JICA海外協力隊に参加してからは医療関係やモノ作り、そして公務員という仕事に自然と興味がわきました。
2018年の2月にJICA主催の交流会に参加し、そこで出会ったのが今治市役所です。大学時代を思い出して懐かしく感じるとともに、私たち協力隊経験者の特別選考制度を作り、はるばる東京の交流会にまで参加していることに感動しました。

交流会は、協力隊の帰国時期に合わせて年4回開かれていましたが、今治市役所は毎年2月の1回だけ参加していたそうです。私は派遣前に怪我をしたため、予定より派遣と帰国が半年遅れていました。もし怪我をしていなかったら今治市役所の方とは出会えず、こうして市職員として仕事をしながら今治市で暮らしていることもなかったでしょう。巡り合わせの不思議さを感じています。

内戦で荒れ果ててしまったカンボジアには、日本のような社会保障制度はほとんどありません。だからこそ、日本の充実した制度や仕組みを学んだうえで説明することが出来るようになりたい、それを活かして日本社会をもっと良くしたいと強く思いました。行政の仕事に興味があるならば、役所で働くのが一番です。異動のたびに、ゼロから業務内容や法律を勉強しなければなりません。私は人とコミュニケーションを取ることが好きですから、住民と近い距離で働ける地方自治体の仕事に就けて非常に良かったと思っています。

2019年4月に今治市役所に入職し、配属されたのは高齢介護課です。介護保険制度をはじめ覚えることばかりでしたが、各世帯を聞き取り調査する仕事を1年目から任されました。要介護の方がいる世帯を対象にした、「おむつ券」配布に該当するかどうかを調べる仕事でしたが、市民と直接触れ合えることに大変やりがいを感じました。
現在は防災危機管理課に配属され、経理と総務業務を担当していますが、こうした業務は市全体の予算の流れなどを学ぶことが出来て、非常に充実した毎日です。

常に学ぶことがあり、さまざまな人と出会って話し、協力して課題に取り組める。これが地方公務員の醍醐味です。社会に出るのが不安だった私の場合、カンボジアでの協力隊経験を経たからこそ、地方自治の仕事の面白さとやりがいをしっかりと感じられるのだと思っています。

※このインタビューは、2022年10月に行われたものです。

注1:自治体や教育委員会が、JICA海外協力隊の活動やコミュニケーション能力などを評価し、その経験を採用試験で特別に配慮する選考制度。自治体の場合、①経験者(社会人)選考の受験資格となる社会人経験年数に協力隊年数を通算できる、②青年海外協力隊等の活動経験(2年)で受験資格ありとする、③JICA海外協力隊での活動実績を加点対象とする、がある。今治市の場合は「文化・スポーツにおいて、県代表等として全国規模の大会等に出場した実績がある人や青年海外協力隊等、海外での国際貢献活動に従事した経験がある人は加点されます」としている。

総合政策部企画防災政策局防災危機管理課総務企画係の齋藤凱さん総合政策部企画防災政策局防災危機管理課総務企画係の齋藤凱さん

PROFILE

愛媛県今治市
所在地:愛媛県今治市別宮町一丁目4-1
協力隊経験者:1人(2022年10月現在)
HP:https://www.city.imabari.ehime.jp/
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