フジクリーン工業株式会社英語による接客、建設関連の現場知識、
JICA海外協力隊での経験
今、点が線になってつながっている

  • グローバル人材の育成・確保

日本における下水道の普及率は約8割。人口密集地で普及している。人口がまばらな地域では浄化槽が活躍している。名古屋に本社を構えるフジクリーン工業株式会社は、浄化槽の製造・販売で国内トップを誇る業界のリーディングカンパニー。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどの自治体や企業も、同社が製造する高性能の浄化槽を高く評価。現在は同社の売り上げの約15%を海外が占めているという。国連の定めた「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の目標6【安全な水とトイレを世界中に】では、その具体的なターゲットの一つとして「未処理の排水の割合半減」を掲げているが、世界の実状は汚水の垂れ流し状態だと言われている。「世界に目を向ければ、ビジネスチャンスは山ほどある」と語る、経営企画部/総務部次長の石田卓哉さんに話を伺った。

分散型の浄化槽と集中型の下水道
すべての汚水をきれいにするために補い合う仕組み

日本では高度経済成長期に水洗トイレを使いたいというニーズが高まり、浄化槽と下水道が急速に普及しました。微生物の働きを利用して汚水をきれいにするという基本的な仕組みは、浄化槽と下水道施設で変わりはありません。都市部などの人口密集地域では、大きなプラントで汚水を集中処理する下水道が効率的です。しかし、人がまばらにいる地域では下水管を整備するにはコストと期間がかかるため、建物ごとに浄化槽を設置することが選ばれます。分散型の浄化槽と集中型の下水道は補い合う関係にあるのです。

浄化槽独自の技術もあります。大量の汚水を常にきれいにし続ける下水道施設とは異なり、浄化槽は処理する汚水の量が安定しません。例えば、日中は仕事や学校などで人が不在になる家庭では、朝と夜に台所やトイレ、お風呂の使用が集中します。量が変化する汚水を安定的にきれいにする技術が、浄化槽には不可欠です。また、浄化槽は下水道と違い長い管路が不要なため、地震災害時に強いという特徴もあります。

日本の浄化槽技術は世界的にも高い水準にあります。弊社はオーストラリアやアメリカ、ドイツに現地法人を設立し、自社製品の販売とメンテナンスを行っています。アメリカのロングアイランドでは「認証試験で水質基準をクリアした性能の良い浄化槽を導入する」というルールがあり、結果として当社の製品が選ばれました。

ベトナム、フィリピン、ヨルダンでも施工事例がありますが課題は少なくありません。汚水を適切に処理するためには、設備やメンテナンスに関するルールを作り、それをしっかり守る必要があります。セプティックタンク(腐敗槽)と呼ばれる簡単な仕組みでは、汚水をほぼ垂れ流すことになってしまい、地下水や河川の汚染に直結するからです。しかし、コスト面だけを見ると日本の高度な浄化槽よりもセプティックタンクのほうが安くつくため、国や自治体によるリーダーシップがなければ高度な浄化槽の整備は進みません。

経営企画部兼総務部次長の石田卓哉さん経営企画部兼総務部次長の石田卓哉さん

世界の水問題の解決を
技能と経験がチャレンジを後押し

私自身、大学院時代にタイでのマングローブ植樹のボランティアに参加した経験があります。その時、マングローブ林がある川や海に生活排水がそのまま流れ込んでいる光景を目の当たりにしました。当社に入社したのも、世界の水問題の解決に貢献したいという思いからです。前述のとおり、各国の汚水処理にはルール構築と順守という課題がありますが、一般住宅の前に公共施設から高度な浄化槽を導入する動きはあります。こうした世界の流れからしても、当社の海外事業は今後さらに加速することは間違いありません。

宮野さんは、JICAが運営する国際キャリア総合情報サイト「PARTNER」を介して、2019年10月に採用しました。JICA海外協力隊出身の方は初めての採用だと思います。現在では当社にとって不可欠な、素晴らしい社員になってくれています。海外人材を採用したかったのは事実ですが、宮野さんの採用理由はそれだけではありません。二級建築士の資格がある宮野さんは、建設業界でCADを使って働いていたキャリアがあり、ソロモン諸島という遠隔地でその技術を教えたという実績もあります。そして、タフでめげない性格。こうした技能と経験はすべて、チャレンジし続ける当社で大いに役立ちます。

浄化槽は高性能の製品を販売するだけでは意味がありません。正しく設置してきちんとメンテナンスをすることで、初めて安定的に汚水を処理することができます。例えば、傾いて設置したら汚水が流れず、あふれ出してしまうのです。宮野さんが所属する技術管理課は、浄化槽を設置する際の施工図面を作成し、必要に応じて施工者を指導しています。国内業務がベースですが、毎月のように海外の案件にも対応しているようです。技術管理課の業務は、海外を含めた社内外の様々な人に寄り添って進めることが不可欠です。宮野さんはみんなと連携して働くことがすごく上手で、そのコミュニケーション能力の高さには個人的に感服しています。ベテランの男性社員の中にもどんどん入っていく姿を見ると、異文化の中でも自分の居場所を作った、協力隊での経験が活かされていると考えています。

JICAボランティア経験者から

技術管理部 技術管理課 宮野幸恵さん
(ソロモン/PCインストラクター/2016年度派遣)

語学研修先での衝撃体験
異文化に触れて視野を広げる楽しさ

私は千葉県の出身ですが、学生時代は外国人や異文化と触れ合う機会は少なく、JICA海外協力隊で知り合った仲間と出会う中で、生まれ育った環境は孤立していたなと感じました。

地元にいる間、仕事先や語学留学を通じて、異文化に触れることができ、そこで受けた衝撃がその後の海外展望へとつながります。

20代前半から建築設計(意匠)の仕事に就き、戸建住宅や投資用マンションの設計に携わりました。計8年勤務し、32歳の時に協力隊に参加しました。応募の理由は、派遣先の風土に合った住まいや暮らし方を学びつつ、これまでの社会人経験を何らかの形で貢献したいと思ったからです。派遣されたソロモンでは、ガダルカナル島にある職業訓練校でPCインストラクターとして活動しました。生徒は1クラス30名前後、平均年齢は23歳ぐらいだったと思います。1年生にはコンピューターの基本的な操作を、2年生にはCADで図面を引くことを主に教えました。

ソロモンでの経験は、日本企業で培った「常識」を、良い意味で崩してくれたと思います。私は教職についた経験はないため、しつけや指導をどの程度厳しくしたらよいのかわからず、クラスマネージメントは毎回手探りで、同僚の先生方や先輩隊員方にいつも助けていただきました。日本での常識が通用しないことにフラストレーションを感じていましたが、「郷に入れば郷に従え」と授業スタイルに工夫を凝らし、生徒に向き合いました。彼らを尊重し自らが歩み寄る姿勢を心掛けることで、少し気楽になれて活動は好転していったように感じます。
この経験は、当社で海外案件を手掛ける際にも活かされています。現地には現地の常識や慣れ親しんだ方法があるはずなので、日本のやり方を一方的に押し付けても理解は得られないし、通じません。海外の施工現場では、「こういうやり方もありますよ」と、寄り添う形で提示するように心がけています。

ソロモンでPCインストラクター隊員として活動した宮野さんソロモンでPCインストラクター隊員として活動した宮野さん

安全な水とトイレを世界中に
後回しになりがちな下水処理という世界的な課題に取り組む

ソロモンでの活動中にショックを受けたことは、生活排水がそのまま流れ込んでいる茶色く濁った川で、お母さんたちが洗濯をしたり子どもたちが水遊びをしたりしていたことです。国際協力の分野でも上水に関する支援は日常的にも目にしますが、下水処理に関してはなかなか知られていないのではないでしょうか。協力隊の任期を終えて帰国後、この世界的な課題に取り組めること、そしてこれまで培ってきた建築系の知識が活かせる職場を探し、当社にたどり着きました。

私が勤務している技術管理課では、弊社の製品である浄化槽を設置する場所に合わせた施工図面を作成しています。また、施工者が安全に作業できるような安全管理の指導も行っています。多くは国内での業務ですが、海外拠点からの設計依頼の対応や施工の指導なども行います。国内では自動車が通る場所に浄化槽を埋設する場合、コンクリート製の柱を立てて耐荷重仕様とするのが一般的ですが、国や地域によっては受け入れられない場合もあります。そんな中ある案件で、フィリピンの施工者が日本と同じ方法を採用してくれた時は、本当に嬉しかったです。その際は、Zoomを使用し施工の様子を確認していました。現地の施工者が真摯に取り組む様子が胸に響き、私自身の仕事のモチベーションにも繋がっています。

これまでの経験を振り返ると、英語を使っての接客、建設関連の現場知識、海外協力隊での海外経験がフジクリーンと出会ったことで一つ一つの点が線になってつながりました。もちろん、まだわからないこともたくさんあり、社内の先輩方に「過去にこういう設計をしたことがありますか」と聞き回っている毎日です。建設業界は「そんなのは見て覚えろ」という厳しい人も少なくないのですが、当社は優しい人ばかりなので丁寧に教えてくれて、こうした社風にも感謝しています。

今後、海外展開が大きく広がる中で、現地のエンジニアたちが安全な施工、適切な維持管理をできるよう尽力していきたいと思います。

※このインタビューは、2022年9月に行われたものです。

技術管理部技術管理課に勤める宮野幸恵さん技術管理部技術管理課に勤める宮野幸恵さん

PROFILE

フジクリーン工業株式会社
設立:1961年
所在地:愛知県名古屋市千種区今池4-1-4
事業概要:浄化槽・産業廃水処理ユニット・ブロワの製造販売、設計、施工、メンテナンス
協力隊経験者:1人(2022年9月現在)
HP:https://www.fujiclean.co.jp/
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