古河電気工業株式会社異文化の中で得た自信が
成長へとつながっていく

  • グローバル人材の育成・確保

情報通信、エネルギー、自動車、電子部品、建築・建設、マテリアルなど、最先端の技術を生かした幅広い事業を展開するグローバル企業、古河電気工業株式会社。関係会社を含む海外拠点は約200に及び、新興国に駐在する社員も多い。こうした中、グローバルに活躍できる人材を育成するため、2015年に民間連携ボランティア制度を活用して社員をメキシコに派遣した。総務・CSR本部人事総務部人材育成(採用・教育)担当部長の上原正光(うえはら・まさみつ)さんに、その狙いや期待する効果などについて聞いた。

JICA事業ならではの安心感

古河電工グループの連結従業員数は約5万人になりますが、そのうち日本人は1万人ほどで、圧倒的に外国人の方が多くなっています。しかし、採用の際に特に語学力を重視しているかというと、そういうわけではありません。重視しているのは、文化や言語の異なる人とも積極的にコミュニケーションを図れる能力です。そうした人こそが、グローバルに活躍できる人材に成長できると考えています。

JICAの民間連携ボランティア制度を知ったのは偶然です。ある日、JICAの職員が制度について説明したいと来社したのがきっかけでした。青年海外協力隊については知っていましたが、こうした制度があることは初めて知りました。グローバル人材の育成は当社にとって重要な課題であり、研修のために社員を海外に派遣することにとても興味を持っていました。JICA職員からの説明を受けて民間連携ボランティア制度の存在を知ったのは、海外の関係会社への派遣、民間企業が実施している人材育成プログラムや語学研修の利用など、どのようなやり方が効果的なのか、ちょうど検討していたタイミングだったのです。

民間連携ボランティア制度を活用することにしたのは、青年海外協力隊が日本と派遣国の政府間で実施している事業であることに加え、これまで長年にわたり、多くのボランティアを派遣してきた実績のあるJICAが、社員の安全や健康面を全面的にサポートしてくれるという安心感があったからです。さらに、現地の政府系機関に派遣されるため、民間ベースではなかなか難しい、中央政府や地方公共団体の人たちとの人的ネットワークを構築できることなどが決め手となりました。関係会社への派遣や民間企業の研修では、対象地域がどうしても限られてしまいますが、JICAのボランティア派遣制度の対象国は世界中であることも魅力的でした。

総務・CSR本部人事総務部人材育成(採用・教育)担当部長
上原 正光さん

明るく自信にあふれた姿に成長を実感

社内で希望者を募ったところ、手を挙げたのが生産技術本部NF生産推進室生産効率化ユニットに所属する山口智史(やまぐち・ともふみ)さんでした。当時、彼は41歳の中堅社員。中堅社員が1年間も不在になるということで、業務に支障をきたすのではないかと不安でしたが、それ以上のものが得られるはずだと確信し、派遣することを決めました。JICAから提示された候補の中から派遣先に選んだのはメキシコで、比較的その中でも治安が良く、日系の自動車企業が急速に進出しているトルーカ市です。2015年7月から1年間、シニア海外ボランティアとして派遣されることになりました。

配属されたのは、トルーカ市の職業訓練校です。日系企業の進出に伴い、メキシコでは日本側が求める高い品質に対応できる体制の整備、そして人材の育成が急がれています。山口さんに期待されていたのは、生産方式や品質管理の授業の問題点を整理し、改善点を職業訓練校やその上位機関である教育委員会に対して提言することでした。そこで彼は、生徒が「5S」や「KAIZEN」の効果を理解しやすくするためにアドバイスをしたり、マニュアルづくりをサポートしたりしています。

例えば、メキシコの職業訓練校ではテキストを使わずに、教師が黒板に書いたものを生徒がノートに書き留める文化があるのですが、彼は、重要なポイントはコピーを配布した方が教育効果を高めるとアドバイスをしたそうです。また、日本と違って生徒が掃除をする習慣やクラブ活動がないことに気付くと、「5S」を理解するためには掃除が重要であること、チームビルディングや人間関係を学ぶためにクラブ活動などの集団活動が有効であることなどを訴え、学校や教育委員会に積極的に取り入れていくよう提言しています。さらに、課外授業として彼自身が日本語を教えるなど、日本の生活、文化に関心を持ってもらうための活動もしているようです。

私は2015年11月にメキシコを訪れ、山口さんの活動現場を視察させてもらいましたが、日本とまったく異なる環境の中、現地の方々と積極的にコミュニケーションを取り、明るく自信にあふれて活動している姿を目の当たりにしました。その時、自分を鍛え学ぶ場として、これほど意義のあるプログラムはないと感じました。本人もやりがいを感じているらしく、派遣期間を1年間延長したいと言っているくらいです。

配属先の職業訓練校でシニア海外ボランティアとして活動する山口さん

自らの経験や知識の価値を再発見

会社の業務で培われた経験や知識は、本人にとっては当たり前のもので、その価値になかなか気づくことができません。しかし、環境が違えば、そうした経験や知識はとても貴重なもので、国の発展に役立つものになり得ます。彼は1年間の活動を通じ、そのことを実感していると思います。また、現地の人に期待され尊敬されていると感じることで、自己肯定感が生まれ、さらなる成長につながっていくのではないでしょうか。視野が広がり、人間として一回りも二回りも大きく成長して帰国することを期待しています。

彼のメキシコでの経験が、当社の海外事業にすぐにつながっていくとは考えていません。しかし、異文化の中で人間関係を構築する力や相手の立場に立った業務の進め方、課題を克服するための忍耐力と積極性、健康管理や安全対策といった自己管理能力などは、今後どのような業務に携わることになっても役立つことは間違いありません。

彼は2016年7月に帰国する予定ですが、現地の職業訓練校からは彼の活動を高く評価していただき、後任についても当社から派遣してほしいというリクエストをいただいています。当社としても、この制度を活用してさらに多くの社員を海外に派遣したいと考えています。同時に、社員を派遣しやすくするための社内環境の整備も、少しずつ進めていきたいと思います。

PROFILE

古河電気工業株式会社
創業:1884年
所在地:東京都千代田区丸の内2丁目2番3号
事業内容:情報通信、エネルギー・産業機材、電装・エレクトロニクス、金属、サービス
従業員:49,000人(連結:2016年3月現在)
協力隊経験者:1人(2016年6月現在)
HP:http://www.furukawa.co.jp/
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