江崎グリコ株式会社日本から世界へ広げる
「おいしさと健康」

  • グローバル人材の育成・確保

日本を代表するお菓子メーカーの一つである江崎グリコ株式会社は「おいしさと健康」を企業理念に掲げ、子どもから大人まで楽しめる食文化を提案してきた。近年は食品原料や化粧品原料にまで事業領域を広げ、海外への展開にも力を入れている。同社は数年前から民間連携ボランティア制度の活用に向けた検討を始め、2015年度には3人の社員を青年海外協力隊とシニア海外ボランティアとして派遣している。2016年度も同様に、2人の社員を送り出した同社グループ人事部部長の北山登(きたやま・のぼる)さんに、その狙いや期待することなどについて聞いた。

海外ビジネスの拡大が課題

これまで、お菓子メーカーが対象としてきたのは国内市場でした。お菓子の原材料は非常に種類が多いため、宗教などにより使用できる原材料が限定されると対応が難しいというのが、その一番の理由です。また、お菓子を食べることで得られる「おいしい」「楽しい」という感情価値が、国によって変わってくることも海外展開を難しくしています。感情価値は自動車の燃費のように数字ではなかなか表すことはできません。国によって「おいしい」の味も違えば、「楽しい」あるいは「良い品質」の基準も違います。そのため、現地で使用できる原材料を現地で調達し、現地の消費者に支持される味、商品、品質にして提供しなければならないのです。

「海外事業は難しい」とはいえ、少子高齢化が進み、子どもや若者の人口が減少する日本では、将来的に市場規模が縮小することが懸念されており、海外でのビジネス拡大は避けては通れない課題となっています。そのためにまず重要なのは、多様な価値観への理解です。当社では、これまで語学研修をベースにした海外派遣留学制度を実施してきましたが、多様な価値観や異文化への理解を十分に深めることはできていないと感じていました。何か良い方法はないかと調べていく中で、たどり着いたのがJICAの民間連携ボランティア制度だったのです。

開発途上国で現地の人と生活を共にしながら活動するJICAの海外ボランティアへの参加は、その国によって大きく違う「感情価値」を探り、理解するために役立つと考えました。

グループ人事部 部長
北山 登さん

進出先国や原材料の生産国に派遣

当社は「おいしさと健康」を通して社会に貢献することを企業理念としています。海外でビジネスをする上で、仕事ができることや多様な価値観を理解できることはもちろん大事ですが、社会に貢献したいという強い意志も必要です。その国や地域、社会に役立ちたいという強い思いがなければ、厳しいビジネスの世界で勝ち残る、つまり、数ある中からお客様に当社の商品を選んでもらうことは困難だと思うからです。これも語学研修や留学では養われない部分であり、われわれが人材育成のためにJICAのこの制度を選んだもう一つの理由でもあります。

協力隊に派遣する社員は、社内公募で手を挙げた10人ほどの中から、経営層のほか、海外事業部や人事部の部長が面談し、決定しました。選考の際には、共通して、社会貢献につながるような高い志や目的意識を持っているかどうかを重視していました。

派遣先は、当社が進出を計画している東南アジアや原材料の生産国となっている南米の国々です。2015年度には、エクアドル、ベトナム、フィリピンの3ヵ国に社員を派遣。エクアドルとベトナムに赴任したのはどちらも40代のベテラン社員で、エクアドルではカカオ豆の加工などを、ベトナムでは食品の品質管理を指導しています。一方、フィリピンに赴任したのは20代の若手社員で、コミュニティ開発隊員として観光事業の拡大を支援しています。

彼らからは定期的にレポートが届いていますが、それを読むと羨ましいほど生き生きと活動していることがうかがえます。現地の人たちに頼りにされ、自分のスキルや経験が役立っていることを実感しているようです。これは机上の勉強、通常の事業活動では得られない経験だと思います。

3人の任期は2017年3月までの予定でしたが、現地からの強い要請もあり、エクアドルに赴任した社員は1年延長が決まっています。さらに、2016年度も2人の社員が派遣されることになりました。派遣国は、フィリピン、ホンジュラスの2ヵ国です。

海外市場を切り開く役割に期待

当社が実施している人材育成メニューに、事業拠点のタイと上海に若手社員を2年間派遣するOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)研修があります。3ヵ月間、現地でしっかりと語学を学んでから、たとえば上海であれば、中国人マネージャーの下で現地の社員と同じ環境に身を置き、仕事や生活をしてもらうというものです。その目的は、実践を通して仕事に対する専門性をアップし、将来の海外駐在員を育成することにあります。

民間連携ボランティア制度を活用し、社員を派遣する目的は、それとはまったく違うものです。参加した社員には、その国、その地域とつながりを持つことで、海外事業を拡大する何らかの道筋をつけるような人材になってくれることを期待しています。

味覚というのはノスタルジックな面があり、子どもの頃に食べたお菓子の味、喜びは一生忘れられないものです。だからこそ、東南アジアの国々でも、子どもたちに当社のお菓子を食べてほしいと思っています。最初にもお話ししたように、お菓子メーカーの海外事業には越えなくてはならないハードルがいくつもあります。社員のJICAボランティアへの参加を一つのきっかけに、その国、その人の「感情価値」に対する理解を深め、社員みんなで知恵を出し合い創意工夫をしながら、「おいしさと健康」を世界に広めていければと考えています。

PROFILE

江崎グリコ株式会社
創業:1922年(設立1929年)
所在地:大阪府大阪市西淀川区歌島4丁目6番5号(本社)
事業内容:菓子、食品の製造および販売
協力隊経験者数:3人(2017年1月現在)
HP:https://www.glico.com/jp/

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