広島大学大学院開発途上国の多くの問題の解決に取り組むことができる高度専門職業人の育成を目指す

  • 研究・教育プログラムの強化

学びながら、開発協力現場で実践体験

広島大学大学院 国際協力研究科には、青年海外協力隊と連携した特別教育プログラム『ザンビア・プログラム』があります。これは、「開発途上国であるザンビアの多くの問題解決に取り組むことができる高度専門職業人の育成」を目指すもの。

 博士課程前期に入学した大学院生のうち、青年海外協力隊に応募して試験に受かった人は、在学中の2年間、協力隊員として、派遣先であるザンビア共和国で活動することができます。ザンビアでは、開発協力に関わる人材としての資質・能力を高めることを目的として、現地指導教員および国際協力研究科教員の指導を受けながら、実際に教育現場に携わることができます。

 2000年からスタートしたこのプログラムは、JICAと調整を進め、2002年2月に初めて現地へ学生を派遣しました。それから現在までに18人が帰国。2011年8月現在も3人が現地で活動しています。

ザンビア・プログラムの3つの特徴

1. 知識、技術を高めながら、国際協力活動ができる
青年海外協力隊としてザンビアに赴任し、現地の基礎学校(義務教育)・中等学校で英語を用いながら、理数科教師として活動。もしくは、教員養成センターにおいて、現地の教員養成に携わる。

2. 修士の学位が取得できる
現地での協力隊活動と平行して、大学院の研究科教員の指導を受けることで、帰国後にその理論と実践の成果を修士論文にまとめ、修士の学位を取得できるので、自分の研究により近い職場へ就職しやすくなる。

3. 青年海外協力隊の活動も単位に加算される
青年海外協力隊に参加している間も、指導教員や本研究科教員の指導と、現地での集中講義を活用することで、12単位が取得可能。青年海外協力隊での参加期間を含め、標準で3年6カ月で修士課程を修了できる。

国際協力研究科長 池田秀雄教授から

活動に意欲的な若者を受け入れる社会づくりを

学生たちに指導する池田 秀雄教授(右)。

広島大学では、1990年代から、JICAの技術協力プロジェクトを支援してきました。フィリピン、ケニア、バングラデシュ、カンボジアなどに次々と理数科の先生を派遣していました。しかし、長期的に大学の教員を送るのは難しいということから、スポット的に行っていた青年たちの派遣を面として広げようと、ザンビア・プログラムが生まれました。

 広島大学が、青年海外協力隊として学生を送る先をザンビアに決めたのは、派遣の要望がきている国々を調査して、社会的に問題が多いうえに、現地には理数科の教師が少なかったからです。教育支援として外国から要望が多いのが理数科。日本の支援によって、開発途上国の科学技術を進めて国を発展させたいということです。

 最近では、協力隊へのサポーター企業も増えていますが、活動をしてきた人を優先的に就職させるような仕組みがどんどん進んでほしいもの。グローバルな視野でものごとを見れる若者を社会的に支援していきたいものです。

 そういった社会への要望を持ちつつも、広島大学大学院 国際協力研究科『ザンビア・プログラム』として協力隊へ参加した学生たちは、着々と成果を上げています。これまでザンビアに行って、帰国した学生たちは、きちんと修士論文をまとめて、目的を達成して来ています。中には、ザンビアの活動をきっかけに学校運営やHIV教育について研究した論文もありました。ザンビアの教育省からも、協力隊員として活動している学生たちを高く評価していただいており、引き続き連携を強化し、質の高い教育を目指していきたいと期待されています。

 私たち教員は何度も現地を訪れて、学生たちに指導しながらその様子を見ていますが、学生たちは確実に視野を広めて、専門家として成果を上げつつ歩み出しています。

 若者から意欲が薄れていると言われている現代ですが、やる気一杯の若者もたくさんいるはず。その若者たちのパワーを生かしていきたいものです。

 また、技術協力プロジェクトと協力隊派遣枠組み、および大学からの継続的協力によって、息の長い新たな国際協力枠組みを作りだしたいと思っています。

プログラムでJICAボランティアを経験した修了生から

現在の仕事でもザンビアでの経験が役立っている

「子どもに先生になったつもりで説明をさせて、それを補足するような授業を心掛けました」と話す中和(旧姓:澁谷)渚さん。
(平成17年度派遣/ザンビア/理数科教師)

私は広島大学大学院入学以前、私立の中高一貫校で数学教師として教壇に立っていました。そんな時、ザンビア・プログラムに参加した方の話を聞く機会があり、以前から、アフリカに居住し、現地の人々と関わりながら研究を行いたいという興味・関心がありましたので、広島大学大学院国際協力研究科に入学し、ザンビア・プログラムに参加しました。

 現在は、東京未来大学で小学校教員を目指す学生に指導する傍ら、ザンビア・プログラム参加時から続けてきた、ザンビアの子どもの数学の学習に関する自分の研究も続けています。

 ザンビアの子どもたちの学力は、アフリカ諸国の中でも低いと言われています。協力隊では、ザンビアでベーシック・スクールの8、9年生(日本の中学2、3年生に相当)に数学を教えていましたが、実際に8、9年生の多くの子どもたちが四則計算を正確に行うことができなかったり、単純な文章問題を解くことができなかったりする場面を多く見てきました。この背景には、言語的な問題や社会文化的な問題が関わっています。

 例えば、ザンビアでは授業に使われる公用語である英語を、多くの子どもたちは家庭で話していません。そのため、数学の授業で言葉の理解から始めることもあります。

  また、両親がいないために兄弟の世話をして、授業に遅刻をしたり休んだりしなければならない子、家の都合で休学しなければならない子がたくさんいます。そういった多様な環境の子どもたちに接し、分析的な視点から自分の研究を行なってきたことで、数学学習を越えた教育の意味を問いなおしたり、子どもの多様性を受け入れたりすることの重要性を、身を持って感じました。その結果、協力隊の活動後は自分の研究に関する視野や人間としての幅も広がったと感じています。

 現在勤務する大学でも、実に多様な学生がいます。彼らを理解し、どのような教育を実践していけばいいか、試行錯誤、失敗・反省の連続の日々ですが、その考えて実践する過程の根底には、常にザンビア・プログラムで実践と研究を行なったことが生きているように思います。

 協力隊に参加して、自分が育ってきた環境と全く異なる国に2年間身を置いて生活・実践・研究する体験から得たものは、現在の私を形成してくれた大きな財産です。

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